メコン地域南部経済回廊の大動脈を整備:国道5号線改修事業がカンボジアで進行中—今年は「日メコン交流年2019」

2019年7月10日

日本の東名高速道路が全線開通してから今年で50年。半世紀前に世界からの資金援助により建設された日本の大動脈道路は、現在もなお、私たちの生活になくてはならない存在として日本の経済活動を下支えしています。

JICAは今、多くの途上国で地域経済を支える「道路」づくりを担っています。1991年までの内戦により多くの道路・橋梁などの運輸インフラが破壊されたカンボジアでは、内戦終了後、JICAをはじめとする国際社会の支援を得て幹線道路修復などが進められました。基幹部分については修復・整備が一巡完了しましたが、過去の応急修復箇所の劣化や根本的な幅員不足箇所があり、カンボジア経済の発展による国内・国際物流の増加に対応するために、JICAは幹線道路の改修拡幅は継続的な課題に長年に渡って取り組んでいます。

4車線道への拡幅とバイパス道路の建設に着手

2013年以来、JICAはカンボジアで基幹道路である国道5号線の道路整備支援を続けています。首都プノンペンから隣国タイの首都バンコクをつなぐこの国際道路はタイとの物流を支える幹線道路であり、メコン地域南部経済回廊をつなぐ動脈です。

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国道5号線バイパス道路の工事現場。5か所で全59kmが計画されており、都市内部を通らず郊外を迂回路とすることで市街化区域の交通渋滞解消と都市間の移動時間が短縮できます。

現在、南・中央・北の3区間(計9工区)に分けて実施されている改修工事は、単なる舗装だけでなく、道路の基礎の土壌改良から実施しており、約309kmの拡幅工事(2車線道路を4車線に)と約59kmに渡る沿線5都市のバイパス道路建設工事および橋梁の改修新設を進めています。完工時(2023年予定)には、4車線化やバイパス整備等により、輸送能力の増強及び交通事故の発生の減少が見込まれます。さらに、カンボジア1国のみにとどまらず、物流の円滑化によりメコン地域全体の産業大動脈として機能することが期待されています。

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(左)改修工事前の国道5号線(2013年撮影)               
(右)改修工事の完成後の2023年予想イラスト(協力準備調査時)

 

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カンボジア国道5号線改修事業実施区間
赤線:スレアマアム-バッタンバン間、シソポン-ポイペト間(中央区間)
青線:バッタンバン-シソポン間(北区間)
緑線:プレッククダム-スレアマアム間(南区間)

タイ・プラス・ワン! 地元ではさまざまな期待の声

JICAカンボジア事務所で国道5号線改修プロジェクトを担当する川野 亮・企画調査員によると「バッタンバンからシソポン間の所要時間は約103分だったのですが(2011年調査時)、改修工事が完成すると約86分まで短縮される見込みです」とのこと。

5号線はタイとの物流をつなぐ基幹道路として貨物トラックの通行が多いのが特徴です。さらには農業地域を通過する関係上、低速走行するトラクターなどの農業車両が通行する区間も多い道路です。現在は2車線道路なので、速度の遅いトラックやトラクターに遮られて普通車が定速走行することが難しい区間がたくさんあります。

「今回の改修工事で2車線から4車線に拡幅する区間が約309kmも増えることで、安全で円滑な走行車線が確保されます。これにより2011年比では約2.5倍程度まで交通量が拡大する見込みです」と川野企画調査員は言います。

多くの地元企業関係者からも改修プロジェクトに向けた期待の声が聞こえてきています。

製造業では、「タイ・プラス・ワン」というメコン地域における各国の分業関係が強化されます。車輌部品や機械部品・半製品を生産するタイから5号線を使って部品をカンボジアに運び、労働コストの競争力が高いカンボジアで組み立て、再度タイに送り返すといった操業形態をとる企業が首都プノンペン付近に数多くあります。それに関連する多くの事業所がこの国道5号線沿線には点在しています。

改修プロジェクトによる交通の円滑化・輸送能力の強化は、このプラス・ワン関係を深化させます。カンボジア側ではさらなる投資を呼び込み、雇用の確保・拡大を進めること、タイ側ではより価格競争力の高い製品を生産できるここと、5号線の輸送力強化が両国のWin-Win関係を促進し、総合的な連携関係を深める契機となることが見込まれます。

また農業では、生鮮野菜のタイ側への輸出促進が大きく期待されています。カンボジア第二の都市であるバッタンバンは米の産地としてだけでなく野菜の栽培でも有名です。国道5号線が改善されることにより、輸送時間やコストが削減され、大消費地プノンペンへの販売が増えることに加えて、隣国タイへの商圏拡大にも寄与することになります。

このように、南部経済回廊の大動脈である国道5号線の改修プロジェクトは、カンボジアだけにとどまらない経済的な波及効果をもたらします。

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既存道路(画面右端)と拡幅工事現場(画面左側)。完成時には4車線道路となり、交通量の大幅拡大が見込まれています。

街、港、橋、をつなぐ「道」が多様な支援を結び付ける

50周年を迎えた東名高速道路がこれまで生み出した経済効果は約60兆円規模と試算されています(NEXCO中日本資料より)。プロジェクト実施中のカンボジア国道5号線は、アジアハイウェイ1号線として東名高速道路ともつながっており、東南アジア回廊構想における「南部経済回廊」の主要区間です。

JICAでは、経済活動の活性化に不可欠な運輸インフラ整備として「道」支援を実施し、さらには、道や橋や港の整備を起点として、地域の産業開発、社会セクター開発をも巻き込んだ総合的で多様な開発支援を実施しています。カンボジアから5号線でつながるタイには2,000社以上の日系企業が操業しており、5号線沿線には関連事業所も多く、地域経済活性化にともなう日系企業への波及効果も大きいと見込まれています。

「道」は人々の生活をつなぎ、地域経済を下支えする社会基盤です。今回の道路整備プロジェクトは、アジア各国をつなぐJICAの「道」支援の一つとして、メコン地域の未来を支える大きな期待が集まっています。