東京2020パラリンピック出場を支える青年海外協力隊員:ザンビアの陸上選手にトレーニング法を指導

2019年8月26日

来年8月25日に開幕する「東京2020パラリンピック競技大会」まで、1年をきりました。大会でのメダル獲得に向けアフリカ南部ザンビアで、トレーニングを続ける一人の女性がいます。陸上400メートル走に出場するモニカ・ムンガ選手(18)です。アルビノ(白皮症)で、同患者に多く伴うとされる視覚障害があります。東京での好タイムを狙う彼女の横には、一人の青年海外協力隊の存在がありました。

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青年海外協力隊の野﨑雅貴隊員(左)と微笑むモニカ・ムンガ選手

日本のトレーニング法でタイムが更新

「野﨑さんのトレーニングを取り入れることでランニングの技術が向上し、大会でのタイムが縮まりました。日本のトレーニングを知る指導者が来てくれることを光栄に思います」

青年海外協力隊の活動として体育指導をする中学校の生徒らと。放課後に実施するサッカー部を立ち上げ、顧問を務めている。中央が野﨑隊員

モニカ選手の言う「野﨑さん」こそ、彼女にトレーニング法を指導する青年海外協力隊の野﨑雅貴隊員(千葉県出身)。現在、24歳。大学を卒業後、2017年に青年海外協力隊の体育隊員としてザンビアへ赴任し、中学校で体育指導をしています。

野﨑隊員とモニカ選手が出会ったのは、2018年3月にザンビアで開かれた現地のコーチ向けのワークショップでした。日本のスポーツ庁が行う「戦略的二国間スポーツ国際貢献事業」の一環で行われ、開発途上国のコーチに日本のトレーニング方法などを学んでもらうことで選手の成長を促し、東京パラリンピックに参加する国と地域を過去最多にしようと実施されました。このワークショップが野﨑隊員の母校である日本体育大学などによって行われたことから、通訳を兼ねて野﨑隊員は参加しました。

「ザンビアのパラリンピック出場は、これまでに合計4回。出場選手はわずか6人です。国内ではサッカーこそ人気ですが、スポーツが盛んとは言えず、学校での体育の授業は数年前に始まった段階です。効率的かつ効果的なトレーニングの方法も確立されていません。自分がサッカー部時代に学んだフィジカルトレーニングのやり方をワークショップで教えたところ、モニカやコーチたちが非常によろこんでくれたのがうれしくて。ワークショップ以来、月に1回のペースでトレーニングに参加させてもらっています」

野﨑隊員は、ワークショップで指導した日本人のコーチから器具を使わなくても行える自重を利用した腕立て伏せや、体幹トレーニングなども学び、モニカ選手たちにも紹介。これらは現地ではまだ広まっていないトレーニング方法でした。

「自分が力になれるなら協力したい」

モニカ選手の指導に関わるようになってから、野﨑隊員は知り合いの日本のコーチから陸上競技に効果的なトレーニング方法について学ぶなど、自らも学びを続ける日々です。選手への指導は現地コーチが行うことから、「自分がしているのは、あくまで指導補助。日本の中学・高校の体育の教員免許は持っていますが、コーチの経験もないので」と言う野﨑隊員は、サポートを続ける理由を次のように話します。

どの選手も自身のベストタイム更新に向け猛練習

「もともと、青年海外協力隊に参加したのは、人の役に立ちたいという思いから。なので、性に合っているんです。選手やコーチのモチベーションが高く、モニカは特に真面目に練習しています。自分が力になれるのなら、惜しまず協力したいという気持ちになります」

同じ障害に立ち向かう人を勇気づけたい

モニカ選手が陸上競技と出会ったのは、12歳の頃。ザンビア全土で開かれる陸上大会の障害者枠の選手に選ばれたのが、競技生活の始まりでした。障害の重さによって分けられる3つの競技クラスのなかでは、真ん中の「T12」に分類されるモニカ選手。トラックのレーンがはっきりと見えずに、常に斜め下を向きながら走っています。日常生活では、スマートフォンの画面を目の前まで近づけてようやく読めるほどです。決して困難が少なくない生活ですが、陸上競技を続けることが心の支えになっています。

「陸上競技と出会うことで、これまでの差別を受けてきた日々から希望を見出し、自分に自信を持つことができました。スポーツは、自分をさらなる高みに導いてくれるだけでなく、自分に何が必要かを見つけられるものです。自分が活躍することで、少しでも多くのアルビノの人を勇気づけたいです」

目標は、東京2020パラリンピック大会でのメダル獲得。共にトレーニングをする野﨑隊員の母国日本での開催とあって、思いもひとしおです。

そんなモニカ選手の姿に、野﨑隊員は1年後の大会に向け、「モニカたち障害のあるアスリートが、努力や創意工夫で限界に挑む姿に勇気付けられることが何度もあります。パラリンピックの開催によって、多くの人に私と同じような気持ちを持ってもらいたい。また、自分が頑張ることで、そのサポートをできれば幸いです」と抱負を語ります。

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ザンビアの選手たちにトレーニングを行う野﨑隊員(左)