【防災の日に寄せて】地域コミュニティ力の活用で「地震に強い家」をネパールへ

2019年8月30日

9月1日は「防災の日」。地震大国の日本は、これまでの経験を活かし、途上国の被災地支援や復興に取り組んでいます。

M7.8を記録したネパール地震から4年。さまざまな国が復興支援を進めるなか、JICAの進める住宅復興支援が高い完工率を記録しています。その背景にあるのが、地域の相互扶助を進めながら、住宅再建を支援する「コミュニティ・モビライゼーション・プログラム」。震災からの復興、そして災害に強い国へと生まれ変わる鍵は、“地域コミュニティ力の活用”でした。

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住民たちが協力し合い、地震に強い住宅の再建を進める

地震直後から住宅復興支援を開始 

「次にもっと強い地震が起こったとしても以前のように簡単に家が崩れることはないでしょう。地震に強い家に住むことができて、みんな本当に喜んでいます」。新しく完成した住宅を前に、再建に携わった石工はこう話します。

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JICAの支援によって建てられた地震に強い住宅

地震によって跡形もなく崩れた住宅

2015年4月、首都カトマンズから北西約80キロメートルを震源とする地震が発生。死者8,790人、負傷者2万2300人以上の犠牲者が出ました。JICAは日本政府の決定を受けて、地震発生後に国際緊急援助隊と復興支援調査団を派遣します。調査の結果から判明したのは、住宅被害の深刻さ。地震の震源となったゴルカ郡をはじめとする地方部では、住民や石工が石やレンガを積み上げて隙間を泥で埋める伝統的工法によって建てた住宅が95%。これらの住宅は耐震性が低く、全壊家屋約50万戸、半壊家屋約27万戸という甚大な被害を受けました。

そこでまず、JICAが立ち上げたのが、「ネパール地震復旧・復興プロジェクト」です。ネパールの既存の耐震基準を基に、JICAの専門家が再建住宅の耐震建築ガイドラインを整備しました。さらに「緊急住宅復興事業」も開始し、ネパール政府の住宅再建支援制度に資金援助を行うと同時に、地震被害が最も大きかったゴルカ郡とシンドパルチョーク郡の住民や石工に住宅づくりの研修を実施し、村の人々が主導となる住宅の再建を支援しました。この地域の家の再建には、平均年収の約6年分の資金が必要となりますが、住宅再建支援制度の補助金を利用することで、住民の負担は平均して5割にまで軽減されました。

「モバイルメイソン」が住宅再建の鍵      

しかし、当初は計画が難航しました。地震被害の大きい地域は山奥とあって、住民が資材を運ぶ車や石工を手配するのもひと苦労。家と家との間隔が遠い地域においては、手伝う人も足りず、スムーズに住宅再建が進まないケースもありました。また、ネパールは、働き手となる男性が国外での出稼ぎのため村を出てしまい、女性と子ども、高齢者だけという世帯も少なくなかったのです。住宅再建を諦めて都市部に移る住民もいるなか、JICAが2017年5月に始めた「コミュニティ・モビライゼーション・プログラム」が功を奏します。

このプログラムは、ネパールの村落では住民同士の繋がりが強く相互に助け合って暮らしていることに着目し、住民が村落で住宅再建に関係する問題の解決方法を考え実行し、さらに、JICAの研修を受けた地域の石工らが「モバイルメイソン(=移動する石工)」として村々を巡回して助言することにより、村落ごとの住宅再建をサポートし地域扶助を促進しようというものです。

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モバイルメイソンの実技研修の様子。ヘルメットを着用するなど、耐震技術に加え安全管理も学んだ

モバイルメイソンの存在によって、状況は飛躍的に改善されます。まず、巡回時に各住宅の再建状況を確認し、今何が必要なのかを把握できます。同時に、モバイルメイソンは住宅再建工事そのものも手伝うので、再建の進行速度や住民のモチベーションが上がります。さらに、住民からモバイルメイソンに対して「あそこの人の家、手が止まってしまっているので手伝ってあげてくれないかな」などと相談・協力する仕組みもできました。このようにモバイルメイソンは地域コミュニティの潤滑油となり、住宅再建の推進剤として活躍しています。

「モバイルメイソンは、その村落出身で、地震に強い家の建設方法をよく理解し、かつリーダーシップのある石工から選定されました。彼ら彼女らは村落の状況をよく知っているので、各住民に細やかなサポートを提供すると共に、建設現場では他の石工に建設方法を教える指導者としての立場も担っています。また、村落の会議では現場の状況を報告し、今後の住宅再建の進め方を提案することもあります」と、プロジェクトの司令塔を務める宮野智希専門家は述べます。

「より良い復興」を実現するために   

多くの住民が住宅再建補助金の申込会に詰め掛けた

JICAが支援するゴルカ郡とシンドパルチョーク郡(対象約5万8000世帯)での耐震住宅の完工率は、2019年7月時点で87.6%に達しています。この数値は他国の援助機関が進める住宅復興支援と比べて高く、住民とモバイルメイソンを中心とした、地域コミュニティによる相互扶助を生かした“日本型支援”が、その他の地域のモデルケースとなっています。

ネパール大地震から4年を迎えた今年4月、復興の進捗や教訓を共有するためのセミナーが首都カトマンズで開催されました。途上国の復興事業への取り組みでJICAと連携する宮城県東松島市の小山修副市長は、現地を訪れ、地域コミュニティの力が復興を大きく後押しする現状をまのあたりにし、次のように述べました。

「シンドパルチョーク郡の被災地で、再建を手掛けている女性技術者や住民の方から「住まい」について直接声を聞くことができました。東日本大震災での復興に取り組んでいる私たちの経験とこの方々の直接の「声」を含めて、自助・共助・公助の協働による取り組みが大切であることを、ネパール復興庁長官や多くの関係機関の方にも共感いただいたと感じております」

ネパール復興への道のりは、いまだ途上です。JICAは今後も、地震・災害大国日本の被災経験に基づく知見を共有し、より災害に対して強靭な地域づくりを目指す復興への取り組みをサポートしていきます。