新たに生まれゆくウランバートル:急拡大する都市で10年にわたり都市開発に取り組む

2019年9月10日

モンゴルの首都ウランバートルは、自由経済化の波や数年に一度起こる深刻な雪害などにより、放牧を営むことのできなくなった遊牧民が大量に流入し、急速かつ無秩序な都市化が進みました。環境汚染や地区整備などの問題が深刻化していくなか、モンゴル政府は「第三の隣国」と慕う日本に支援を求めます。近代都市として生まれゆく、ウランバートルの今。10年にわたるJICAの都市開発への取り組みを振り返ります。

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都市再開発法に定められた再開発手法の一つである「ゲルのアパート化事業」対象地の事業風景。ゲル地域の低層住宅地がインフラ整備されたアパート地区に(ウランバートル第7地区、2015年撮影)

住民参加型の都市開発政策  

2006年6月のウランバートルのゲル地域。生活インフラは電気だけなので、石炭ストーブによる大気汚染や、地中に穴を掘った20万ものトイレが地下水汚染を引き起こし、大きな環境・社会問題となります

モンゴルは、1992年に制定された民主的な憲法に則した土地私有化法により、人々は自由に居住地を選択できるようになりました。雪害により資産である家畜を失った多くの遊牧民は、親戚・知人などのいるウランバートルに移住し、移動式住居の“ゲル”を設営。1998年に約65万人だったウランバートル市の人口は、2018年には約149万人にまで増加しました(同年のモンゴル国の人口は約323万人※モンゴル国家統計局HPより)。多くのゲルが建つ市街地周辺は“ゲル地域”と呼ばれ、市の人口の約6割を占める人々が生活しています。

ウランバートルの都市問題を解決するため、JICAは2007年から2018年にわたって、3つの技術協力プロジェクトを実施。一連のプロジェクトに携わった長山勝英専門家は、都市開発について次のように話します。

「都市で提供できるサービスの容量を超えて、より多くの人が都市に集まると、街が荒廃してしまう。つまり、ウランバートルの人口に対して、街の環境が伴っていなかったのです。人々が快適に暮らせるための都市開発が必要でした」


●JICAが実施したウランバートル開発ための技術協力プロジェクト

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ウランバードルのバトゥール市長(当時)による区画整理事業候補エリアの地権者とのタウンミーティング。再開発に対する住民の機運を高める大きなきっかけとなりました(2015年撮影)

都市マスタープランは、政策の素案は“市民目線”に寄り添ったものであるべきと、住民参加型で作成されました。住民の意見を取り入れるという発想は同国のこれまでの行政制度にはなかったため、「行政が決めることに意見していいのだろうか」と敬遠する人々の姿もありましたが、徐々に“公共(=社会全体のこと)”という概念が浸透。その主役が、自分たち自身であることに住民たちは気付くようになったと長山専門家は述べます。住民が一体となって作り上げたマスタープランは、モンゴル省庁の確認を経て、2013年に国会で承認されました。

さらに、プロジェクトでは都市開発に関する法整備も支援しました。ゲル地域のアパート化などを進めることにより居住環境の向上を図るための「都市再開発法」が2015年に制定されます。法律や制度作成に必要だったのは、その国における社会規範の議論。長山専門家は「モンゴルの省庁関係者と根気よく協議を重ねた」と振り返ります。

また、インフラ整備にあたっては、ウランバートルと同じ寒冷地である北海道旭川市との技術交流がありました。凍結路面対策、高断熱・高気密建築による省エネルギー対策など、行政をはじめ、NGOや民間企業が支援に協力。2011年には両市間で寒冷地技術協力に関する覚書を締結し、複数の草の根技術協力事業の実施や、ウランバートル市からの技術研修員の受け入れなども行われました。

より良い住環境の整備に向け  

都市再開発法が採択された背景には、ゲル地域の人々の「より良い住環境」を求める機運の高まりがありました。ゲルはモンゴルの伝統的住居ですが、ウランバートルの都市生活者となった彼らが求めていたのは、重い石炭を運び、水を汲む毎日よりも、水道が通り、温水や暖房がある利便性の高い生活。また、住民に“理想の都市の姿”をアンケートしたところ、多かったのが「健康で安全な都市」という回答でした。

現在ウランバートルでは、ゲル地域の改善事業、低所得者に対する新しい住宅政策の検討などが進められており、これらの課題解決へ向けて、引き続きJICAの技術支援が求められています。

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ゲルのアパート化事業で建設された新しいアパート。住民は、上下水、温水、暖房に接続されたことで生活が便利になったと喜んでいます(UB第7地区、2016年9月)

「彼らが思い描く“2030年のウランバートル”のモデル像は札幌です。冷寒地にある都市ということで友好関係があり、モンゴルのテレビ番組でも度々紹介されているのです。近代都市として発展しながらも、ゆったりとしていて、ウランバートルに似ている。札幌の風景を見ては『こんな風に成長するといいね』と話しているんですよ」と、ウランバートルと長い付き合いを続けてきた長山専門家は語ります。