物流サービスの向上でベトナムの港を世界につなぐ:日本の中小企業の優れた技術とノウハウを途上国の課題解決に

2019年10月8日

「海外拠点での物流センター開所は、いつかかなえたいと思っていた夢。それが、思いもよらぬスピードで実現しました。JICAの事業に採択されたことで、ベトナム行政機関の人々の信頼を得られたという点が非常に大きかったです。もし、自社だけの力で市場調査を行っていたら、いつ実現できていたかわかりません」と語るのは、岩手県の物流業・白金運輸株式会社の海鋒徹哉代表取締役社長です。

白金運輸が出資する合弁会社によるベトナムでの物流センターの設置は、2015年に開発途上国と日本企業をマッチングさせるJICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」として採択され、今年6月、物流センターが開所しました。物流センターがあるバリア・ブンタウ省は、日本の円借款を通じて支援したベトナム最大の国際港カイメップ港がある産業集積地。今後、現地の日系企業を中心に配送・保管・通関の手続きなど、総合的な物流サービスが展開される予定です。

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左:完成した物流センターでの配送作業
右:10年後には物流センターの職員数を100人規模に拡大する計画です

民間企業の途上国への参入を後押し 

JICAが2012年度から実施している「中小企業・SDGsビジネス支援事業(旧『中小企業海外展開支援事業』)」は、民間の資金と活力を生かすことで、途上国で高まる開発ニーズに幅広く応えようというものです。同時に、企業にとっては、発展が見込まれる途上国への参入チャンスとなり、言わばwin-winの関係。

JICAの調査団(右側)がベトナム行政職員(左側)に物流改善の調査結果を説明。相手国政府関係者と直接の接点を持てるのはJICA事業ならではの強みです

この事業では、日本の民間企業から事業提案書を募集し、「開発途上国の課題開発への貢献」「ビジネス展開計画の熟度」など、いくつかの基準から採択する提案書を決定します。提案が採択されると、JICAから提案企業に事業の実現可能性の調査などが委託され、現地事業に関する情報収集および相手国政府機関との関係構築をJICAがサポートします。

港の活性化や利便性向上を目指す 

白金運輸の日本国内倉庫での作業風景。物流拠点にはさまざまなノウハウが蓄積されています

白金運輸は、岩手県の内陸南部に位置する奥州市の物流企業で、国内物流では、自動車部品・建築資材・食料品・日用品雑貨などを運送し、国際物流ではコンテナによる輸出入などを手掛けています。特徴的なのが、3PL(3rd Party Logistics/サードパーティ・ロジスティクス)」という業務形態を強みとしていることです。それに伴い、発注側は、「トラック輸送」にはじまり、倉庫での組み立て・包装などを行う「流通加工」、商品の在庫管理などを行う「情報管理」など、ノウハウが必要な物流業務を一括委託でき、コストダウンやスピードアップを図ることができます。

今回の中小企業・SDGsビジネス支援事業でも、白金運種は3PLで培ったノウハウを生かし、カイメップ港の機能向上と流通サービス提供のための案件化調査を提案。物流サービスが乏しく、稼働率の低いカイメップ港に物流センターを開設し、共同配送(1台のトラックで複数依頼主の積荷を運送すること)や流通加工などを導入することで利便性を高くし、港の活性化を図ろうという計画です。

中小企業・SDGsビジネス支援事業を担当するJICA民間連携事業部の井戸翔太郎職員は、白金運輸の提案の優位点を次のように話します。

「以前、積荷の多くは、カイメップ港よりも内陸に位置するホーチミン市周辺の港に流れていました。しかし、近年円借款で支援したカイメップ港の利便性が高まり、そのためニーズが1カ所に集中することで周辺道路に渋滞が発生するなど課題が発生しています。白金運輸さんの提案には、スケジュール通りに出入荷や製造ラインを維持できるなどノウハウと気概がありました」

カイメップ港を国際ハブ港に

カイメップ港は、ASEANと欧州をつなぐハブ港として「自由で開かれたインド太平洋」構想への期待が寄せられています。太平洋とインド洋のどちらにも船を出しやすい地理にあるだけでなく、水深が深いことから大型船の入港が可能。欧州への国際ハブ港になりうるポテンシャルがありました。白金運輸が日越共同声明に基づき設立されたフーミー3特別工業団地を運営するタンビンフーミー社と合弁会社「ビナ・ジャパン・シロガネ・ロジスティクス」を設立し、物流センターを開所したことは、カイメップ港のさらなる発展を後押しするとベトナム側からも期待されます。

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カイメップ港物流センターの開所式。バリア・ブンタウ省の指導者や在ホーチミン日本国総領事館の河上総領事など、多くの行政関係者が参加し、物流センターへの期待が伺えます

また、追い風となっているのが、ベトナムで近年相次いでいる日系企業の進出。今後、物流センターでは日系企業からの物流需要がさらに高まっていくと予想されます。

白金運輸の海鋒社長は今後の抱負について、「東日本大震災で、県内の大船渡港や釜石港が被災しました。復興した港を活用する呼び水になりたいというのが、海外進出のきっかけです。しかし、今は、岩手だけでなく、カイメップ港の未来も考えています。日本・アジア・世界をつなぐ物流サービスを提供することで物流センターが大きくなれば、人手が必要になり、地域の雇用促進にもつながるはずです」と語ります。