【11月20日は世界こどもの日】モンゴルの障害のある子どもたちが、個々に合った学びで可能性を発揮できるように

2019年11月13日

11月20日は、国連で子どもの人権を保障する条約が制定された「世界子どもの日」です。JICAは、各国の子どもたちが学校に通い、安全に生活し、自らの可能性を発揮できるよう、さまざまな支援を行ってきました。その一つが、2019年7月までの4年間、モンゴルで展開してきた「障害児のための教育改善プロジェクト」です。

現在、小学校の純就学率は約96%のモンゴルですが、障害のある子どもたちは、学校の受け入れ態勢が整っていない、適切な指導が受けられない、などの理由で学校に通えなかったり、中退したりするケースが少なくありません。そんな現状を改善するため、障害のある子どもの発達支援と教育サービスの改善に取り組みました。プロジェクトで作成したガイドラインが、社会保障大臣・教育大臣・保健大臣から承認を受け、今後の包括的な支援の指針になっています。

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JICAの「障害児のための教育改善プロジェクト」が実施されたフブスグル県パイロット校での授業の様子。モンゴルでは、障害がある子もない子も一緒に教育を受けるインクルーシブ教育を推進しています

定期健診の導入で早期からの発達支援を根付かせる  

今回のプロジェクトの成果の一つが、定期健診の導入です。プロジェクトの開始当初、支援の対象とする子どもは5~16歳を想定していました。しかし、幼稚園の就園率が80%以上のモンゴルでは、2歳での幼稚園入園時が教育のスタート。就園前の支援として1歳6カ月での健診をパイロット地域であるウランバートル市、フブスグル県で行いました。

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1歳6カ月児健康診査の様子(ウランバートル市バヤンゴル区)。約2カ月の短い準備期間だったにも関わらず、対象となる家庭の約7割の親子が参加しました

健診前には、医療従事者に向けた研修を行い、正しい発達の確認が行えるよう母子健康手帳の活用を促進しました。受診の結果、発達の遅れや障害が疑われる子どもは、発達を促すような遊びを取り入れたプログラムを行う親子教室での支援へとつなげました。親子教室では、子どもの発達に不安を持つ保護者に寄り添い、必要な情報の提供や助言を行いました。

健診に参加した保護者からは「私の子は大丈夫だと漠然と考えていた。でも、受診をしてみて入園前に何を意識し、準備すればいいのかを教えてもらえる貴重な機会だと分かりました」などの声が上がりました。それまでは、発達に不安を抱えながらもやり過ごすしかなかった親子、障害があると診断されても支援がなかった親子が多くいましたが、彼らが社会生活を開始する前に準備ができるモデルケースができました。

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フブスグル県第4幼稚園で行われた親子教室の様子。障害のある子を抱える親同士の交流や、障害のある子がいる家庭の孤立を予防することにもつながりました

教育の仕組み、教材の作成で教育現場に変化が    

また、同時に行ってきたのが就学後の教育サービスの改善です。モンゴルでは、2003~2008年に「インクルーシブ教育国家プログラム」を実施。障害のある子どもも学校に通うことができますが、実際には、「障害のある子は特別支援学校へ行ってほしい」と学校側から入学拒否をされる子がいたり、授業についていけずに教室の片隅でひたすら書き取りをする子がいたりなど、課題は山積みでした。

そこで、障害のある子どもが質の高い教育が受けられるよう取り組んだのが、パイロット校での物理的な環境の改善、個々のニーズにあった指導が受けられるリソースルームの設置、そして、特別支援学校の教員による助言活動の実施などです。

プロジェクト総括の石井徹弥さん(コーエイリサーチ&コンサルティング)は「障害のある子どもが学校で困難に直面する原因の一つが教員の知識、スキル不足でした。障害のある子どもには個別の教育計画を作成し、個々の教育ニーズの把握とそれに応じた目標を立てました」と述べます。

「教員は、『2年生なら掛け算ができるように』など年齢を基準にした目標を考えてしまいがちでしたが、プロジェクトでは特別支援学校の教員による助言活動を通じて、例えば『1から5までの数字と実物をマッチングできるようになる』など、その子に合わせた目標を立てるように指導しました。実態に応じた目標を立てることで、子どもはできることが少しずつ増えていきますし、教員も子どもの成長を実感することができます。このような経験を重ねるうちに学校・教員の障害のある子への意識が変わっていきました」と支援による教育現場の変化を語ります。

プロジェクトで作成したハンドブック・教材など。同じ教材、資料集などを使うことにより、全国どこでも質の高い教育を受けられるようになります

また、プロジェクトでは、教員をサポートするために教員向けの指導法ハンドブック、教材を作成。その一つである「日々の授業で使えるイラスト集」は、誰でもダウンロードできるようにしました。

3つの省を動かし支援は全国へ  

「1歳6カ月児健診」や学校での教育モデルの構築など、プロジェクトによる発達支援の指針と内容、関係機関の役割等をまとめた「障害のある子のための包括的な発達支援ガイドライン」は、2018年11月15日付けで、社会保障大臣・教育大臣・保健大臣合同令として承認され、今後、モンゴルにおける発達支援体制の構築と全国での具体的な実施の指針となることが期待されます。

障害の有無にかかわらず、子どもには教育を受ける権利があります。JICAでは、これからも子どもの権利と自由を守るための支援に取り組んでいきます。

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モンゴルにおける子どもへの総合的な支援に必要なメニュー