コロンビアで紛争により障害を負った被害者が参加できる社会を目指して:意識改革で当事者と社会をつなぐ

2019年12月9日

約50年間、国内紛争が続くコロンビア。現在、国民の約17%にあたる約800万人の紛争被害者がおり、その中には、身体的・精神的な障害を抱える人も多くいます。JICAは2015年から、紛争被害の有無に関わらず、障害のある人が参加できる社会を実現するための戦略をコロンビア各省向けにまとめるプロジェクトを開始。パイロット地域で就労、教育、医療・保健、心のケア、啓発活動、リーダーの育成など多角的なアプローチを行い、障害がある人の意識改革を含む今後のコロンビア政府の障害者支援政策の土台をつくり上げています。

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ピア・カウンセリングの集中講座を終えたコロンビアの障害のある紛争被害者たち

社会の仕組みづくりと心のケアへの取り組みを同時に 

就労支援分野では、障害がある人への偏見をなくすための働きかけなど、就労して定着する仕組みを開発。障害者の収入向上や家から出る機会のなかった農村部の障害者を医療や保健サービスへとつなげるなどの成果をあげました

コロンビアでは、軍事、治安維持関連予算が大きく、社会保障関連予算は限定的です。紛争被害者支援には予算が重点的に配分されていますが、障害のある人全体に向けた基礎年金制度や福祉サービス制度がまだまだ確立されていません。プロジェクト開始当時、国内法で、障害がある人の社会参加を掲げていたものの、実施するためには課題が多い状況でした。

JICAが取り組む「障害のある紛争被害者のソーシャル・インクルージョン・プロジェクト」では、政令が示す、障害のある人が基本的な就労支援や教育、医療・保健サービスを受けることができ、社会参加する権利を守るための団体活動をしていける社会を目指しました。2016年4月から2019年8月にかけて8つの市で、「就労」「教育」「医療・保健」「心のケア」「啓発活動を行うリーダーの育成」など5つの取り組みを行いました。

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(写真左)教育支援分野では、就学し定着する仕組みの開発を行い、障害のある子どもが学校に通うシステムを強化するほか、個別指導計画を導入。教育省の職員が県の教育局職員に向けて啓発研修なども行いました
(写真右)医療・保健情報分野では、医療サービスを障害のある人が優先的に受けられるようシステムを構築。医療従事者に対する研修も行いました

ピア・カウンセリングで意識が変わっていった  

5つの取り組みの中でも、障害のある人たちの意識改革を後押ししたのが、心のケアにあたるピア・カウンセラー育成などの支援です。

プロジェクトでは、日本型のピア・カウンセリングを学んだ専門家をコスタリカから招き、育成研修と集中講座を行い、計72名のピア・カウンセラーを育成しました。

効果が顕著に表れたピア・カウンセリングの導入。研修の運営にあたったコロンビア政府職員によると、障害のある行政官に対する態度もリスペクトのあるものに変わっていったそうです

「プロジェクトに共に取り組む行政官に聞いてみると、ピア・カウンセリングを実施するうちに障害のある紛争被害者たちが変化していくのがよくわかったと言います。コロンビアの多くを占める農村部では、障害のある人は家族との接点しかなく、家族に依存し、生活の決定権を家族に委ねて生きている人が少なくありません。しかし、ピア・カウンセリングの手法を取り入れていくことで、自分の生活を自分で切り開いていこうと変化した姿勢がコロンビア政府に高く評価されています」と、プロジェクトを担当する磯部陽子専門家は語ります。

ピア・カウンセリング研修を受けたネフタリ・アッロヤヴェさん(全盲/地雷被災)は、それまで家族をはじめとする周囲に対していら立った態度をとってしまうこともあったそうですが、研修後、怒りの原因が「自身が障害を受容していなかったこと」「自分のことを下に見ていたのは、周囲ではなく自分自身だったこと」に気づき、自分のポテンシャルを信じてポジティブに周囲と関わっていけるようになったと語りました。

また、同じく意識改革に貢献したのがピア・カウンセラー育成研修もカリキュラムに組み込まれているリーダーシップ育成研修。全国各地で啓発活動を行っている研修卒業生は計42名に上ります。現在は内務省が主導となりこの研修を全国展開しています。

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リーダーシップ育成研修の様子。1年5カ月の長期講座が行われました

支援のノウハウをまとめたマニュアルを作成中 

「就労」に関するマニュアルの表紙

プロジェクトでは現在は、ピア・カウンセラー、リーダーの育成だけでなく、パイロット地域の活動をもとにコロンビア政府職員向けのマニュアルを作成中です。パイロット地域で行った「就労」「就学」「医療・保健」「ピア・カウンセラー育成」「リーダー育成」という5つの支援ノウハウが各1冊(イントロダクションを含め計6冊)にまとめられており、今後、支援活動をコロンビア全土で展開していく際の基礎マニュアルとして活用されていくことが期待されます。

また、内務省が主導で各地の障害団体を設立していく動きもあり、プロジェクト終了後も障害がある人の社会参加の促進は全国に広がっていく予定です。

「将来的に障害のある人の団体同士がまとまり、全国規模の団体となって政府と交渉できるような力をつけていくよう育っていってほしいと考えています」と、磯部専門家の言葉に力がこもります。