ソマリアで内戦からの復興を「若者の雇用機会の拡大」で後押し

2019年12月24日

JICAは内戦が続いていたソマリアで、若年層の就業能力の強化を後押ししています。2018年から、26年ぶりとなるソマリアでの支援事業「ソマリア国若年層雇用に係る能力強化プロジェクト」を開始し、2019年9月にはウガンダで、ソマリア起業支援分野ワークショップも開催しました。ソマリアの政府関係者や起業を支援する民間団体などが参加して、起業する若者や中小零細企業への具体的な支援方法などを話し合いました。

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2019年9月に開かれたソマリア起業支援分野ワークショップの様子

周辺国をベースにした遠隔支援  

ワークショップでは、ビジネスモデルを可視化するテンプレート「ビジネスモデルキャンバス」の作成方法などをケニア人講師から学びました

「ソマリアの政府関係者とのやり取りは、基本的にスカイプや電話。ワークショップや会議などで直接会える機会は非常に重要です」と話すのは、ワークショップに参加した山下里愛専門家(株式会社JIN)です。

2012年に内戦が終結したものの、ソマリアは現在もテロが起きるなど危険な状況が続く状態。日本人渡航禁止国であることから、JICAの職員や専門家は隣国のケニアを活動拠点にしてプロジェクトを進めています。2019年9月にウガンダで開催したソマリア起業分野支援ワークショップは、普段はモニター越しでやり取りをしていた専門家とソマリア政府関係者が直接対面する貴重な場とあり、熱のこもった活発なやり取りが交わされました。

ウガンダではシングルマザーや夜勤の保護者も多いため、保育分野での需要も高まっています。ワークショップでは、保育分野で起業した企業が運営するウガンダ初の24時間体制の子どもケアセンター(保育園)も訪問

ワークショップは5日にわたって開催され、ソマリア政府関係者や、同国で起業家や中小零細企業の支援を行う民間団体(=組合、コンサルタント、NGO・NPO団体、大学など)が参加。JICAの専門家による講義のほかにも、ウガンダの起業家が成功体験や苦労話を語るパネルディスカッションや、注目を集めているベンチャー企業への訪問などを実施しました。

今回、起業を目指す人ではなく、起業家支援を行う団体に向けてワークショップを行ったのは、起業家を支えるメンターやトレーナーが育つことで、将来的により多くの起業家がソマリアで生まれることを期待してのことです。

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ワークショップでは、竹の葉や炭、ハーブを原料としたオーガニック化粧品・整髪料のメーカーといったベンチャー企業を訪問しました

就業能力を高めて、若者が反政府集団になるのを防ぐ 

このプロジェクトの背景にあるのは、国民の7割を占める若者の雇用状況です。1991年から2012年まで内戦が続いたソマリアでは若者の雇用先がなく、不安定な収入しか得られないことから、海賊や反政府武装集団に生活の糧を求め、治安の悪化を招く事態につながると言われています。

過去には、JICA以外の国際開発援助機関やNGOらが、職業訓練プロジェクトを通じて技能の習得などを進めてきましたが、そのスキルが労働市場のニーズとマッチせず、期待する成果に至らなかったという経緯があります。そこで、ソマリアから支援要請を受けたJICAでは、経済発展に重点を置いたプロジェクトを提案。まずは、雇用の受け皿となる産業のポテンシャルを把握し、ニーズに合った産業人材育成を目指します。

パイロット事業として挙げられているのは、水産業と建築業です。海に面したソマリアでは漁業が盛ん。ウガンダのほか、中東やマレーシアなどにも輸出。加工技術や冷凍技術を高めることで、遠方への輸出や商品のバリエーションを増やしていくことが期待されます。また、ソマリアは内戦で破損した建物が多く、建築業は国の復興にも欠かせない存在。住居や商業ビルなど、建築ラッシュが続いています。

政府と民間団体が心を通じあわせた一夜

ソマリアは公務員の兼業が認められているなど、スモールビジネスを立ち上げるハードルは決して高くありません。もともと、企業の数が少なく、雇用が不安定なこともあり、小規模でも自営業を営む人が多いためです。

近年は、内戦の影響で欧米や中東に移住していた人々“ディアスポラ”が、ソマリアに帰国。移住先の国々でのビジネスモデルを取り入れ、eコマース事業や食品のデリバリーシステムが国内に誕生するなど、新しい産業の発展も見込まれています。

笑顔で交流するワークショップの参加者

今回のワークショップに参加した山下専門家は、“ある出来事”にソマリア復興の希望を感じたと話します。

「ホテルの部屋の数が限られており、政府関係者と民間の方たちで宿泊先が分かれていたのですが、政府の方たちから『我々のホテルのランクが下がっても構わない。みんなで同じところに泊まれないだろうか。ワークショップだけではなく、寝食を共にする時間も大切なんだ』との要望がありました。その後、同じ宿泊先になってからは、ワークショップ会場やレストランで何度も席を入れ替えて交流する参加者の姿が見られました。さらに、『ソマリアに帰国後、一緒に勉強会をしよう』と話し合う参加者もいました」

一丸となって、自国の復興を目指すソマリア。プロジェクトは2021年まで継続され、水産・建築分野への支援が中心に、今後は農業や畜産、ICT分野への発展も期待されています。

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ウガンダの産業研究所を訪問したワークショップ参加者と山下専門家(前列中央)