【3月8日は国際女性デー】安全な交通手段の整備で女性の社会参加を後押し

2020年3月6日

3月8日は、女性の社会参加を推進するため、国連が定めた「国際女性デー」です。途上国ではさまざまな理由で女性の社会参加が阻まれるなか、2017年にILO(国際労働機関)が発表した報告書によると、途上国で女性の労働参加を制約する最も大きな要因は「交通手段の欠如」とされます。

インドの首都デリーを走るデリー・メトロの女性運転手

このような状況の改善に向け、JICAは、インフラ開発においてジェンダーの視点を取り入れる取り組みをインドなどで実施。昨年からは、スリランカの最大都市コロンボで、誰もが利用しやすい都市交通整備を進め、女性たちの社会参加を後押ししています。

駅、車両、建設工事などさまざまな面でジェンダーの視点を取り入れる

JICAの円借款で支援しているスリランカの「コロンボ都市交通システム整備事業」では、コロンボ市と近郊を結ぶLRT(Light Rail Transit)システムの建設を予定し、総延長15.7kmの高架軌道の路線に16駅を設置します。2021年に工事が開始され、2025年に完成が見込まれます。JICAは現在、スリランカの都市開発、上水及び住宅建設省と協力し、駅や車両のデザイン、建設工事、鉄道の維持管理や運行において、ジェンダーの視点に立ち、どのような取り組みを実施するかをまとめた「ジェンダー・アクション・プラン」の作成を支援しています。

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コロンボに建設予定の都市鉄道(イメージ図)

計画では、それぞれの駅に、男女別トイレ、十分な照明、非常通報ボタン、防犯カメラ、男女別チケット窓口などが設置されるほか、男女の警備員を配置します。車両については、障害者、女性、子ども、高齢者用の優先席や防犯カメラの設置などを検討しています。

設備面だけでなく、建設工事では、女性の雇用を推進し、工事現場での女性用施設の整備のほか、男女同一労働同一賃金制度を取り入れます。また、鉄道の運用については、女性の運転手・車掌の採用、チケット窓口や改札などへの女性職員の配置、女性のニーズに配慮した料金や運行スケジュールの策定、利用者を対象としたセクシャル・ハラスメント防止啓発活動などを実施していく予定です。

女性参加に向けたインパクトをスリランカに

プロジェクト・リーダーのチャミンダ・アリヤダサ氏

「スリランカでは、建設や交通の分野で活躍する女性はまだまだ少ないです。バスや電車などの公共交通では現在、女性の運転手は一人もいません」と話すのは、スリランカの都市開発、上水及び住宅建設省のプロジェクト・ディレクター、チャミンダ・アリヤダサ氏。「だからこそ、今回のプロジェクトは、スリランカにおいてジェンダー平等のための社会変革の大きな第一歩になると私たちは考えています」と言葉に力を込めます。

JICAは、ジェンダー・アクション・プランの作成を支援すると同時に、プロジェクト関係者向けにジェンダーの専門家らによるセミナーやワークショップを開催。関係者の意識も高まるなか、アリヤサダ氏は、プロジェクトについて次のように期待しています。

「今回のプロジェクトはスリランカの産業に大きなインパクトを与えると思います。運転手やエンジニアとして最新のLRTで働く女性を、若い女性たちが見れば、女性の社会参加への大きな刺激となるでしょう。スリランカの公共交通セクター全体にも、良いメッセージを送ることにもなるはずです」

安全な交通手段があれば、女性の経済活動への参加も進む

インフラ分野でジェンダーの視点が重要な理由の一つは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの推進に加え、経済成長へのインパクトがあります。女性の経済的参加を男性と同等のレベルに拡大することで、2025年までに全世界のGDPが26%(28兆ドル)増加するとの試算もあります(マッキンゼー、2015年)。

「途上国では、女性は公共交通機関の利用においてハラスメントやジェンダーに基づく暴力の被害に遭いやすいです。安全な交通手段がないことが、女性の労働参加、社会参加を大きく制限しています」と亀井温子JICAジェンダー平等・貧困削減推進室室長は話します。「安全な交通手段が確保できれば、女性の経済的活動への参加も進みます。それが女性のエンパワメント、そして経済成長にもつながります」

JICAが建設・運営を支援するインドの首都デリーを走る地下鉄「デリー・メトロ」では、各路線において女性専用車両が導入されているほか、エスカレーターには、女性が着るサリーの裾が巻き込まれるのを防ぐブラシ「サリーガード」が付けられており、女性が安心して乗車できることから女性の社会進出を後押ししています。

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(左)デリー・メトロの建設に携わった女性労働者たちも開通式に参列
(右)デリー・メトロのエスカレーターには、インドの女性が着る裾の長いサリーが巻き込まれることを防ぐブラシ「サリーガード」が付けられている

「日本も、都市交通などのインフラ分野において、ジェンダー・ステレオタイプを克服するために、さまざまな努力を重ねてきました。そうした経験や教訓を活かして、途上国と一緒に考えながら、JICAは今後もジェンダー平等に貢献するインフラ事業を推進していきます」と亀井室長はこれからを見据えています。

※本記事は、「The Japan Journal」2020年1月/2月号掲載「Gender Equality: On the Right Tracks」の日本語訳を編集したものです。