地震研究の神様・故フリオ・クロイワ名誉教授が紡いだ日本とペルーとの防災協力の絆

2020年3月9日

「地震の神様」とペルーの防災関係者から呼ばれるフリオ・クロイワ・ペルー国立工科大学名誉教授が昨年、83歳で永眠されました。今もなお、多くの人々からの尊敬を集めるその背景には、クロイワ教授が日本とペルーを結ぶ懸け橋となって紡いできた防災協力の絆があります。JICAの帰国研修員でもあるクロイワ教授の業績と、半世紀以上にわたる日本とペルーの防災協力のこれまでを振り返ります。

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フリオ・クロイワ名誉教授は1936年ペルー生まれの日系二世。地震・津波被害軽減の研究、コンサルティングなど、50年以上にわたり防災研究活動に従事しました。2019年7月逝去

JICAと出会い、日本とペルーの防災協力の礎を築いた 

1970年に発生した犠牲者約7万人もの大惨事となったペルー北部・アンカシュ大地震の復興計画で、クロイワ教授はJICA(当時はOTCA)が派遣した調査チームの受け入れなどを担当し、ペルーにおける地震防災研究の必要性をより強く認識。1975~76年のJICAの研修をきっかけに地震防災研究の道を本格的に歩み始めました。

クロイワ教授の教え子でもある、ペルーの前・住宅建設衛生省大臣、ミゲル・エストラーダ氏は当時を次のように語ります。

「クロイワ教授からは、インフラの図面作成と建設の際は必ず耐震の技術側面を重視するよう教え込まれました」と、ペルー国立工科大学の学生時代を振り返るミゲル・エストラーダ氏

「クロイワ教授は1960年代から日本の建築研究所で地震工学を学び、1975~76年にJICAの地震工学研修に参加されました。ペルーに帰国後、工学系大学の最高峰、ペルー国立工科大学にペルー初となる地震工学コースを導入。その後、JICAの技術協力『日本・ペルー地震防災センター』プロジェクトでは、元国立工科大学学長の故ロベルト・モラーレス氏や同大学の他の研究者らと共に日本・ペルー地震防災センター(CISMID)の創設を推進し、同センターの初代所長に就任されました。今やCISMIDはペルー国内にとどまらず、南米エリアにおける地震防災の一大拠点となっています」

ペルーや隣国チリは日本と同様に環太平洋地震帯に位置し、昔から地震や津波の被害を受けてきました。山岳地域(シエラ)、熱帯雨林(セルバ)、海岸エリア(コスタ)と多様な自然・地形を有するペルーは、都市部の建物倒壊や山間部の土砂崩れだけでなく、沿岸部の津波に対する防災も不可欠です。

「教授は1960年代から地震津波防災に関心を持つ、ペルーでは数少ない専門家の一人でした。2011年3月の東日本大震災を契機に、ペルー海岸部の津波の危険性とその対策の重要性について、行政や教育機関へのセミナーなどを通じて繰り返し強く提言していました」と、エストラーダ氏はクロイワ教授の先見の明と精力的な研究姿勢を称えます。

日本の緊急警報放送システムを活用 

2010年~2015年にJICAと日本科学技術振興機構(JST)が共同で実施した「ペルーにおける地震・津波減災技術の向上」プロジェクトでは、顧問として助言を行うなど、日本とペルーの防災協力の絆には常にクロイワ教授の存在がありました。2016年11月5日「世界津波の日」にはペルー初となる全国レベルの津波避難訓練が実施され、日本が供与した地上デジタル放送機材による緊急警報放送システム(EWBS)が活用されました。

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津波避難訓練の様子
(左)モニターに流れる緊急警報放送システム(EWBS)からのメッセージ
(右)夜間の避難訓練ではEWBSの情報を基に住民が避難

ミゲル・エストラーダ氏は「クロイワ教授は後継者の育成にも力を注ぎ、その教えは地方行政機関にも広く伝わり実践され続けています」と語り、あわせて長年にわたる日本の協力、特に日本・ペルー地震防災センターを通じた国立工科大学へのJICAの支援に感謝の言葉を述べました。

JICA理事長賞を授与

授与セレモニーでのクロイワ教授のご家族と教え子でもあるビスカラ大統領(写真中央)。セレモニーの様子はテレビ放映や主要新聞の一面を飾るなど、大きく報道されました

昨年、その偉大な功績によりクロイワ教授にJICA理事長賞が授与されました。12月にペルーで開催されたセレモニーで、教え子でもあるマルティン・ビスカラ大統領は「いつ訪れるか分からない自然災害への備えの意識を住民レベルまで浸透させたことが、クロイワ教授の最大の功績」と称賛。その意志を引き継ぎ、これからも「ペルー国民、政府、そしてJICAをはじめとする国際機関と連携し、より一層の防災対策の強化が必要である」とスピーチを結びました。

クロイワ教授が生み育てた日本・ペルー地震防災センターが中核となり、ペルーと日本の防災協力の絆は今後もさらに強まっていきます。