パプアニューギニア初の国定教科書が完成:日本のノウハウを活用し、現地の実情に合わせる

2020年3月11日

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一人一冊、自分用の教科書を使って学ぶ子どもたち

2月に新学期を迎えたパプアニューギニアの小学生が手にしているのは、同国初の国定教科書。子どもたちは初めて自分用の算数の教科書を手に「写真とイラストがたくさんあってカラフル。勉強が楽しくなりそう」と笑顔で話します。また、先生は、教員用の指導書を見て「教えるために必要な情報が載っていて、板書の図も付いている」とうれしそうに語ります。

小学校3年生の算数教科書

これまで、全国統一の教科書や指導書がなく、子どもの学力低下という課題を抱えてきたパプアニューギニア。長年、同国の教育支援に関わってきたJICAはパプアニューギニアの教育省とともに、子どもたちの学力向上に向け、約4年間にわたり理数科の教科書と指導書の開発に取り組みました。

教育の質の向上が大きな課題

子どもの学力低下の要因は、教材や教員数の不足、教員の質の低さに加え、豪州の支援で2001年から開始された「成果主義カリキュラム(OBC)」などがありました。OBCでは、到達すべき学習目標は明示されているものの授業を進めるための教材(教科書、指導書)などがなく、教員は授業の質の確保が難しい状況でした。

2014年にOBCは廃止が決定し、2019年からは、授業を進めるための教材を整備し、教育省が設定した学習基準の達成を目指して学習を行う「基準達成カリキュラム(SBC)」が導入されることになりました。これに向け、パプアニューギニア教育省とJICAは2016年に全国の小学校3~6年生を対象にした理数科の教科書と教員用の指導書を開発する「理数科教育の質の改善プロジェクト」を開始しました。

日本の教科書会社がノウハウを提供

日本のノウハウを活かしつつ現地の人々が現地の実情に合わせて教科書を編集していきました

今回開発された教科書は、日本の教科書会社がノウハウを提供し、パプニューギニアの子どもと教員にとってわかりやすい英語や、国の文化・自然に合った写真や内容を記載するなど、ローカル化を徹底しました。「学校現場で試行を繰り返し、日本のノウハウを活かしながらパプアニューギニアに適した内容の教科書が完成しました」とプロジェクトの総括である伊藤明徳専門家は話します。

伊藤専門家は、パプアニューギニアの人々の情熱が教科書開発を支えたと言い、こんなエピソードについて語ります。

「ある夜、教育省の担当者とパイロット校の教員を集めて教科書の検証作業を行っていると停電で真っ暗になったんです。すでに20時頃だったこともあり、『今日はもう終了かな』と思ったのですが、参加者たちはスマートフォンのライトを点けて作業を続けたのです。最後まで止めずに取り組む姿には心を打たれました」

そして、約4年の年月をかけて理数科の教科書と指導書は完成。2020年2月の新学期から全国の小学校3、4年生が、2021年2月からは5、6年生が使用を開始する予定です。

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理科の実験を試す教科書作成チーム

プロジェクトでは、これまで教科書のない授業をしてきた教員たちが新しい教科書を戸惑いなく活用できるよう、教員向けの研修教材や附属のDVDも配布しています。

「教科書が完成したからといって、“これで終わり”ではありません。むしろ、重要なのはこれからです。今後は、教育省に教科書の使い方や活用の啓発を徹底してほしいと思っています。パプアニューギニアの教員は、今はまだ教科書のよさが実感できていないかもしれませんが、使い続けるうちにほかの学年や教科も必要だという話が出てくるかもしれません。反響が楽しみです」と伊藤専門家は語ります。そして、「まだ課題は残されており、今後もパプアニューギニアの教育の質の向上に協力していきたいです」と言葉に力を込めます。

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パイロット校での教科書を使った理科の実験風景。試行を繰り返すことによりパプアニューギニアの教育現場の意見をくみあげ、同国初の国定教科書と呼ぶにふさわしい現地に適した内容の教科書が完成しました