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社会的投資による開発援助を考える

−個人向け「JICA債」発行を機に、地球規模での社会貢献を訴え−

2011年12月02日

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会場には多数の聴衆が詰めかけた

欧州発の財政危機が新興国や開発途上国の市場に大きな影響を与え、新興国のインフレが先進国の景気回復を左右する今、開発途上国への支援はどうあるべきか—。11月17日、途上国支援を考えるセミナー「激動する世界経済−今こそ求められる地球規模での社会貢献とは」が、大和証券グループ、日本経済新聞社、JICA共催により大和コンファレンスホール(東京都千代田区)で開かれた。

個人投資家向けの「JICA債」を発行

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小寺理事はグローバル化が進む時代の支援のあり方を訴えた

JICAは個人向けの「JICA債」を12月5日に発行する。JICAはこれまでも、機関投資家向けに債券を発行してきたが、政府系機関として個人投資家向けに独自に債券を発行するのは、初めての試みとなる。今回のセミナーは「JICA債」発行を控え、一般個人投資家を対象に国際経済・援助の動向を紹介するとともに、JICAの活動への理解を深めてもらうことを目的に実施された。

オープニングスピーチで、JICAの小寺清理事は、欧州発の財政危機が先進国だけでなく新興国や途上国の市場にも大きな影響を与えていること、11月に開催されたG20サミットの共同声明の約半分を開発問題が占めていたことなどに触れ、「世界経済を語るときには、新興国や途上国の開発問題も同時に考えなくてはいけない時代。途上国が抱える問題を解決するためには、民間資金を呼び込むことが必要。本日のセミナーが、皆さんが投資を検討する際、そして世界の諸問題を検討する際の一助になれば」と会場に語りかけた。

市場の成長促進支援の有効性

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「世界への日本のかかわり方が問われる時代」と述べる伊藤教授

第1部では、東京大学大学院経済学研究科の伊藤元重教授が、「世界の抱える問題と日本の果たすべき役割」をテーマに基調講演を行った。伊藤教授は、21世紀の地球にとって最も重要な課題として、人口問題(食料、貧困)、環境問題(CO2排出、エネルギー)、政治的安定(テロ、戦争)を挙げ、「これらは日本から遠い問題ではない。昔から『情は人のためならず』というが、21世紀の問題を解決し、社会を安定させ平和的な発展を続けるためには、世界の問題に日本がどう取り組むかが非常に重要」と、世界に目を向けるよう訴えた。

また、かつては豊かな国(先進国)と貧しい国(低所得国)に二分されていた世界経済が、先進国、新興工業国、低所得国の三層構造に変化している世界経済の現状についても解説。新興工業国に成長した東南アジアを例に挙げ、「市場の成長を支援することが開発援助には有効である」と説明した。一方で、市場メカニズムだけでは貧困から抜け出せない低所得国に対しては、別の形での支援が必要であることも認め、「援助を本当に必要としているところに確実に届ける仕組みをつくるためには、民の力、市場の力、資金が必要」と強調した。

寄付から社会的投資へ変わる社会の意識

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川上氏は「途上国支援では、経済の拡大と国民の満足度が必ずしも比例するとは限らないことも念頭に入れるべき」と述べた

第2部では「民間の知恵や資金による地球規模での社会貢献」をテーマにパネルディスカッションが行われた。パネリストは、投資家の資金を仲介する株式会社大和証券の山本聡氏、途上国の社会起業家に対する投資を行っているARUN(アルン)合同会社の功能(こうの)聡子氏、JICAの小寺理事の3人。経営コンサルタントのショーン・マクアードル川上氏をモデレーターに、今、世界で何が起きているのか、民の力で何ができるのか、何をすべきかを議論した。

まずJICAの小寺理事が、「JICA債」が充当される有償資金協力(円借款)について、気候変動対策、ゲイツ財団との連携など、最近の事例を挙げて紹介し、JICAの事業への理解を求めた。

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「援助に頼るだけでなく自立的に行動していきたいという声が現地から上がったことが事業を起こすきっかけ」と語る功能氏

ARUNは、日本の投資家から集めた資金を元に、主にカンボジアの社会起業家への投資活動を行っている。功能氏は「2年前は社会的投資よりも寄付を選ぶ人が多かったが、今年になって社会的投資を選ぶ人が増えている。日本社会の意識の変化を感じる」と、社会的投資に関心のある個人・企業が増えていることを指摘。投資による経済的リターンだけでなく、ソーシャルリターン(社会的利益)を期待できる投資の意義を訴えた。

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「持続可能性確保には利益を生む仕組みが欠かせない」と言う山本氏

大和証券の山本氏は、社会的事業には「People(人)」「Planet(地球)」「 Profit(利益)」の3Pが必要であると説明し、「利益を生まない限り継続はできない。上げた利益を再投資することで、より多くの人を救うことができる」と語った。また、社会的事業においてはガバナンスが育ちにくいという指摘があることに触れ、「投資家を呼び込むことで関心が集まり、ガバナンスは機能していく」とし、社会的事業への投資の有効性を強調した。

最後にJICA資金・管理部の中村隆司部長が、個人向けの「JICA債」の概要を説明。「JICAが個人向けに債券を発行することについては、今年になって賛成の声が増え、社会の変化を感じている。ぜひ投資を通じた社会貢献を検討してほしい」と結んだ。