オールジャパンでスリランカの電力需要に応える

−5年の中断を経てアッパーコトマレ水力発電所が完成−

2012年9月20日

スリランカで進められてきた「アッパーコトマレ水力発電所建設事業」で、このほど、発電所施設が完成した。7月14日には、完成式典が行われ、正式に運転を開始。今後、切迫する同国の電力需給の緩和が期待される。

着工から7年半。内戦(2009年に終結)が続く中、コンサルティングサービスから準備工事、本体施設・設備工事、送電線工事と、すべての工事を日本企業が協力して進めてきた特別円借款事業(注1)。急な斜面が多い山間部を切り開いて送電線を張り、現地企業のスタッフと経験や文化のギャップを埋めながら共にトンネルを貫通させるなど、数々の困難を乗り越えながら、オールジャパン体制で完成にこぎ着けた。

堅調な経済成長と急増する電力需要堅調な経済成長と急増する電力需要

悪条件の中、進められた発電所の建設工事

同発電所は、スリランカ南部の山間部を流れるコトマレ川流域に建設。川の水を引き込んで発電する流れ込み式水力発電所で、発電量は150メガワット。セイロン電力庁の統計によると、現在の同国の総設備容量は、約2,740メガワットで、電力のピーク需要は約2,000メガワット(2012年)となっている。同国の国内総生産(GDP)は近年、年率約7パーセント前後と堅調な伸びを見せており、ピーク需要は、2017年には3,397メガワット、2022年には4,513メガワットに上ると見込まれている。

同国は、中央部に標高2,500メートルを超える山岳地域があり、年間降水量が、多い地域では3,500ミリを超える。こうした地理的条件を生かし、1980年ごろから水力発電の開発を積極的に進め、2000年には、水力発電が約8割を占めるに至った。しかし、水力発電は降水量に左右されやすく、ベース電源として不安定であることから、同国政府は、増大する電力需要に対応するため、火力発電とのバランスを考慮した電源構成への転換を推進。結果、現在の電源構成は、水力が46パーセント、火力が47パーセント、再生可能エネルギーが7パーセントとなっている。

着工までの長い道のり

アッパーコトマレ水力発電所建設事業は1985年、事業化の可能性を探るフィージビリティー調査から始まった。その後、海外経済協力基金(当時)のエンジニアリングサービス借款(注2)を活用し、基本設計、環境影響調査、実施設計などが行われ、工事入札手続きの寸前まで準備が整えられたが、スリランカ国内での環境問題に対する関心の高まりから、計画は中断。その後、5年にわたる同国内での議論の末、十分な環境対策を取るという条件の下、工事が許可された。

これを受けて、スリランカ政府は、海外経済協力基金に実施設計の見直しなどを依頼。2002年3月、同基金の海外経済協力部門を引き継いだJBIC(注3)は、スリランカ政府との間で、特別円借款貸付契約を締結し、その後、2010年3月には、追加の円借款貸付契約を締結した。入札の結果、コンサルティングサービスは電源開発株式会社、準備工事は前田建設工業株式会社、本体土木工事は前田建設工業と西松建設株式会社の共同企業体(JV)、水門鉄管機器・据付工事は株式会社栗本鐵工所、電気機器・据付工事は三菱商事株式会社、送電線工事は株式会社きんでんと決定。2005年9月に準備工事に着工した。

危険やピンチをくぐり抜けて

ダムのコンクリート打設作業。セメントの調達にも苦労した

ダム建設によって水没する住宅や公共施設の建て替え、アクセス道路の整備などの準備工事を行った前田建設工業の担当者は「まさにプロジェクトの切り込み部隊だった」と当時を振り返る。現場はスリランカで最も貧しい地域で、携帯電話は圏外、インターネットも使えなかった。また、当時は内戦中だったことから、緊急事態に備えて、常に車両の燃料は満タンにし、シンガポールまでの航空券とパスポートを携帯していたという。

本体土木工事は、2007年1月から始まったが、調達先の工場の機械の故障などから、セメントの入手に苦労した。また、2009年の内戦終了後は、建設ラッシュで国内のセメント需要が急増。さらに、2011年夏には、ロンドンオリンピックを控え英国への輸出が増加し、各国からスリランカにセメントが入ってこないという事態も発生した。コンクリートに使う川砂も、同国では、環境保護の観点から採掘権や採掘量に限りがあるため、安定して入手するのが難しく、工事の進ちょくに大きな影響を与えた。

送電線工事では、現場が山間部であるため道路が整備されておらず、工事の資材運搬に大型車両が使えなかった。人一人が通れるほどの幅の曲がりくねった道を、また、時には階段があるような場所を、「バケツリレー」方式で運んだという。

育まれた信頼関係と連帯感

送電鉄塔のボルト締めの確認作業を、日本人技術者(左)から学ぶ現地スタッフ

工事の苦労が絶えない一方で、日本式の工事のやり方に対して懐疑的だった現地スタッフが理解を示し始め、また、現地の人々の発電所建設に対する期待を感じることもあった。栗本鐵工所によると、当初、現地スタッフの間には、日本人の力を『測る』というような雰囲気があったが、夜遅くまで、水圧鉄管を台車に載せて据え付けていくという、危険が伴う作業を通して指導していくうちに、それらの作業をすべて吸収していこうという姿勢が生まれていった。現地スタッフには若者が多かったが、年配の日本人技術者は彼らから「先生」と呼ばれ、親しまれるようになっていったという。

トンネル内のコンクリート工事

川の水を引くための導水路トンネル(全長15キロメートル)の掘削工事では、掘削に必要な測量に対する現地スタッフの理解が、なかなか得られなかった。西松建設の担当者は「当初は彼らの仕事に対する情熱に疑問があったが、一緒に仕事をするうちに、測量の必要性について次第に理解を示し、自ら進んで作業するようになった。共にトンネル貫通の喜びを味わえたことはとても感慨深い」と言う。

最高記録更新と最先端技術の導入

現在、スリランカには、インドや中国をはじめ、韓国、ヨーロッパ、中東などから多くの開発援助資金が投入されている。こうした中、オールジャパンの事業は、他国の事業と比較されがちだが、「地下土木工事では、トンネル延長や大規模地下掘削など、多くのスリランカ国内最高記録を大幅に更新した。また、発電所機器については、日本が持つ世界最先端の技術を導入し、事業に参加した現地のエンジニアの自信につながっていることも、コンサルタントとして誇らしく感じている」と電源開発アッパーコトマレ水力工事管理事務所の担当者は言う。

発電所(手前)を見下ろす場所に移転した新しい住宅。学校や役場なども移転し、新しいまちづくりが進められている

発電所建設によって約500戸が移転し、新たなまちづくりが進められている。建設工事のために既存の一般道路を整備したが、工事関係者だけでなく、町と町をつなぐ生活道路として、地域にとって欠くことのできない道路となっている。オールジャパンで取り組んだ発電所建設は、直接的、間接的にスリランカの人々の暮らしを支えている。

なお、アッパーコトマレ水力発電所の完成を記念して、スリランカ政府は近く、記念銀貨を発行。製造は日本の造幣局が請け負っている。

(注1)調査や設計などを対象とする円借款。
(注2)現在の本邦技術活用(STEP)案件。日本の技術を活用できる仕様や工事契約形態の提案を条件とする円借款事業。
(注3)JBIC(国際協力銀行)の海外経済協力部門は、2008年10月にJICAと統合した。