コメはアフリカを救えるか

−普及に取り組む二人のJICA専門家−

2013年3月15日

ネリカは従来のアフリカ稲の2〜3倍の収量が見込める(写真:船尾修)

コメというとアジアの主食というイメージが強いが、アフリカにもコートジボワール、シエラレオネ、マリなど、コメを主食とする国が数多くある。JICAは2008年に、国際NGO「アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)」と共同で「アフリカ稲作開発のための共同体(Coalition for African Rice Development: CARD)」を立ち上げ、アフリカのコメ生産量の倍増を目指している。

中でも、現在、最も注目を集めているコメが、「ネリカ(注1)」という品種。これは、乾燥したアフリカの畑でも高収量の稲を育てられるように、もともとアフリカにあったアフリカ稲と収量の高いアジア稲を交配させてつくった新しい品種で、水田が少ないアフリカで十分な灌漑施設や肥料がなくても栽培ができるのが強み。このネリカを含めた稲作振興の最前線で活動しているのが、現地に派遣されているJICAの専門家たちだ。

東アフリカで活躍する「ミスター・ネリカ」

坪井専門家は、青年海外協力隊員としてフィリピンに派遣されてから30年以上にわたり国際協力の世界で活躍(写真:篠田有史

その一人が、2009年、Newsweek誌が選ぶ「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた、「ミスター・ネリカ」こと坪井達史専門家(大分県出身)だ。坪井専門家は、1981年からJICA専門家として、インドネシア、フィリピン、コートジボワール、ガーナ、イランなどで稲作の指導を行い、2003年からネリカ普及プロジェクトにも参加。2004年からはウガンダを拠点に、東南部アフリカ諸国で稲作の普及に携わっている。

ウガンダでのネリカの耕作面積は、現在約6万ヘクタール。坪井専門家がウガンダに赴任した2004年当時の約8,000ヘクタールからは7.5倍にも増えている。また、坪井専門家が指導し選定したネリカ奨励品種は、すでに、ウガンダ、エチオピア、ケニア、ザンビア、ジンバブエ、スーダン、タンザニア、マラウイ、南スーダン、モザンビークなど、東南部アフリカ諸国で栽培が始まるなど、耕作面積は順調に増えている。

「新しく導入した作物なので、当初は農業普及員、農家ともに稲作に関する知識は乏しく、普及への道のりは山あり谷ありだった」と坪井専門家は振り返る。そこで、ウガンダに赴任してまず取り組んだのは、稲作経験のある人を増やすことだった。農民たちに稲作を覚えてもらうために、試験場の畑や水田で実地訓練を行うほか、ウガンダ国内外に出張し、農業普及員や農民を対象にした研修を実施。結果、これまでに3,000人以上の研究者・農業普及員と1万人以上の農民を指導し、ウガンダ人の専門家も育っている。

ネリカ普及の鍵は日本人指導者の育成

アフリカでは、畑で稲を栽培する陸稲が多い(写真:篠田有史

コメの中でもネリカを普及させる際に、坪井専門家が大きな期待を寄せているのが、青年海外協力隊の隊員たちの力だ。協力隊員に稲作技術を伝え、その技術を、隊員から任地の農民に伝えてもらう。もちろん、隊員も最初から稲作の知識があるわけではないので、まずは研修を受け、栽培の知識を実地訓練を通して習得してもらうところから始める。また、ネリカへの関心を高めるために、ネリカについての研修を受けた日本人に「ネリカ検定」の認定証を渡す工夫も行っている。

日本の稲作専門家でも、ネリカについての知識を持っている人はまだまだ少ない。「ネリカ普及の一番の課題は、農家を指導する農業普及員のための研修を充実させること。そのためには、まずは日本人の稲作専門家を育成する必要がある」と意欲を燃やす。

西・中央アフリカのプロジェクトを牽引

高校生の時にアフリカでの稲作振興を志した惣慶専門家。青年海外協力隊員としてタンザニアに赴任した経験も持つ

惣慶嘉(そうけい・よしみ)専門家(千葉県出身)は、西アフリカでネリカの普及に取り組んでいる。アフリカの稲作振興のため2005年からコートジボワールのアフリカライスセンター(旧西アフリカ稲開発協会)(注2)に赴任し、西アフリカの気候に合ったネリカの栽培方法を研究。2011年からはカメルーンで「熱帯雨林地域陸稲振興プロジェクト」に携わっている。

カメルーンでは稲作の経験がある人は少なく、プロジェクトは耕作面積ゼロ、稲作従事者ゼロからのスタートだった。惣慶専門家の業務内容も、カメルーン農業開発研究所(IRAD)にある種子生産圃場や試験・展示圃場のチェック、カメルーン側との打ち合わせから、プロジェクトの認知度を高めるためのプロモーション展開まで多岐にわたり、時には、西・中央アフリカ地域でのプロジェクト形成のための稲作調査や助言などを行うこともある。

プロジェクト2年目の耕作時期が終わった2012年12月現在、研修を受けた農業普及員は約200人、農家は約2,600人。延べ2,300人にネリカの種子を配布した。種子の配布は、2013年度中には延べ1万人に達する見込みだ。「これまでの調査から、種をまくのは配布した農家の7〜8割。稲作を理解し耕作面積を増やす農家がある一方、ほかの作物よりも手間がかかるためやめてしまう人もいるので、今後の動向を注意深く見守りたい」と惣慶専門家は言う。

特性を正しく理解することが重要

研修を受けた農家に、ネリカの種子を配布

農業普及員に、ネリカについての正しい知識を身につけてもらうために教材も作った。青年海外協力隊員がネリカの研修で習ったことをまとめた「やさしいネリカの作り方」に追加や修正を加えたもので、専門用語をなるべく使わないわかりやすい言葉でまとめられている。ただし、教材に頼り過ぎると、実技を学ぶ研修に集中しなくなって逆効果になってしまうこともある。「正しい知識は、研修、実践、巡回指導を繰り返すことで実になる」というのが、惣慶専門家の信条だ。

今後の課題は、農業普及員や農家に、ネリカを正しく理解してもらうこと。「乾燥や雑草に強いといっても稲であることに変わりはなく、特性を理解しないとネリカの能力を十分に発揮させることはできない。今後は品種の特性、降水量、土壌肥沃度の維持管理も考慮して普及していくことが必要」と語る。

経済発展による人口増加とともに、アフリカでの食料需要は今後ますます高まっていく。ネリカが普及しコメの収量が上がれば、食料不足が改善されるだけでなく、農家は現金収入を確保できる。現地の農家からは「コメは贅沢(せいたく)品でクリスマスなど特別な日にしか食べられなかったが、自分で生産するようになり、週2〜3回食べるようになった」「コメを売ったお金で、子どもをハイスクールに通わせられるようなった」などの声も寄せられている。さらに、農業だけでなく、精米、流通など、関連産業での雇用も生まれている。

稲作振興に携わるJICAの専門家たちは、そんな声があちこちで聞ける未来を描いて、今日もアフリカでコメと向き合っている。

(注1)「New Rice for Africa——アフリカのための新しい米」という意味を込めて、NERICAと名付けられた。
(注2)本部は、現在、ベナンに置かれている。そのほか、セネガル、ナイジェリア、タンザニア、コートジボワールに支所がある。