【Featuring Africa】感染症空白地帯で「運び屋」を特定せよ

−日本人研究者がマラウイの本格調査に挑む−

2013年4月23日

マラリアを媒介するガンビエハマダラカ。どの蚊がどの感染症を媒介するのかを把握することが重要

アフリカでは、黄熱病やリフトバレー熱、デング熱、チクングニア熱、オニョンニョン熱など(注)、蚊が媒介する感染症の流行がしばしば報告されているが、マラウイでは報告例がほとんどない。マラウイで流行していないからなのかというと、実はそうではない。病院や保健所で十分な検査を行うことができず、熱性疾患の多くがマラリアと誤診されている可能性が高いのだ。しかし、科学的な証拠に基づいた感染症のデータや報告はほとんどなく、その実態は明らかになっていない。まさに感染症の空白地帯だ。

知的パートナーズとの協働

JICAは、マラウイの蚊媒介性ウイルスと媒介蚊を監視する調査方法とツールを開発するため、2011年5月に科学技術研究員派遣(JICA-JSPS)プロジェクト「再興感染症ウイルスおよび媒介蚊の調査方法開発」を開始した。

科学技術研究員派遣制度は、外務省とJICA、文部科学省と独立行政法人日本学術振興会(JSPS)が連携した協力形態で、途上国のニーズに基づき、日本の研究者をJICA専門家として途上国に派遣し、現地研究者との研究基盤整備活動や共同研究を通じて、彼らのキャパシティ・ビルディングを支援する。マラウイには、長崎大学熱帯医学研究所の前川芳秀客員研究員(兵庫県出身)がJICA専門家として赴任し、蚊採集からウイルス検出までの技術指導を行いながら蚊媒介性ウイルス疾患の本格的な調査を行うとともに、感染症の研究基盤の整備に取り組んだ。

マラウイ初のウイルスを検出か

村長に調査の許可を得てから、トラップを設置。採集方法を説明すると、大人も子どもも興味津々

蚊媒介性疾患の研究を進める上で鍵となるのは、「運び屋=媒介蚊」を特定すること。病原体がどのような環境下で、どのような感染サイクルで伝播するのか。さらに蚊が媒介するウイルス性疾患であれば、その地域にどのような蚊群がいて、どの蚊種が媒介蚊となるかを絞り込み、絞り込んだ蚊種からウイルスが検出できるかを確認することが必要だ。プロジェクトは、まずはマラウイ全土で蚊を採集するフィールド調査から始まった。そして、18地域30地点、150家屋(屋内と屋外)にトラップを仕掛け、雨季13属47種、乾季11属41種、合計1万8,679個体の蚊を採集した。

子どもたちに採集した蚊を見せる前川専門家(右)。どの村に行っても子どもが駆け寄ってくる

その結果、マラウイには6種類のウイルス性疾患、フィラリア症、マラリアの計8疾患に対して、3属9種の媒介蚊が存在している可能性があることが判明。さらに、マラウイの実験室でウイルス検出実験を行ったところ、オニョンニョンウイルスと思われる陽性反応が検出された。ウイルス種を最終的に確定するための確認作業は、現在、長崎大学熱帯医学研究所で進められているが、これが確定されれば、マラウイで初めて検出されたオニョンニョンウイルスになる。このウイルスを媒介する蚊はマラリア媒介蚊でもあることから、これまでマラリアと診断されていた熱性疾患の中に、マラリア以外の疾患が混じっていたことはほぼ確定的となり、適切な検査や治療方針などを導入するための重要な証拠となる。さらに、マラウイ国内での蚊媒介性ウイルス疾患研究が促進され、これまで知られていなかった疾患の特定、新しい診断キットや薬の導入・開発、防除プログラムの導入など、研究成果に基づいた医療活動への発展の可能性も秘めている。

若い研究者のレベル向上を目指す

蚊を実験室に持ち帰りウイルス検出実験を行う。将来の研究者を育てることもプロジェクトの重要な役割

プロジェクトでは、マラウイ大学生物学部にウイルス検出のための実験室を設置。学生3人と若手研究者3人が、初めて見る実験機材や蚊採集トラップに戸惑い、長時間にわたる細やかな作業の連続に驚きながらも、技術を身につけようと必死に取り組んでいる。フィールドでは夜明け前にトラップを回収し種同定を行うが、採集数が多いときには、作業は深夜にまで及ぶこともあった。実験室では、事前に決められた手順に従い、次々とウイルス検出実験を行う。開始当初は、実験に失敗する日々が続き、前川専門家が「失敗は多くのことを学ぶチャンス」と励ますこともあった。

科学技術研究員派遣制度では、キャパシティ・ビルディング支援だけでなく、日本人専門家を通じた日本国内の研究機関との交流や、さらなる研究の発展も期待されている。プロジェクト自体は今年5月に終了する。今後は、日本学術振興会の研究助成金制度を活用した研究が、長崎大学熱帯医学研究所によって本格的に開始される。「マラウイのウイルス検出実験で擬陽性、あるいは疑わしいと判断されるサンプルは、より高度な実験施設を持つ日本の大学や研究機関で確認する必要がある。知的パートナーズシップとしての連携を保ち、今後もこのようなバックアップ体制を継続してとれることが、プロジェクトの強み」と前川専門家は説明する。

さらに、在マラウイ日本大使館と日本学術振興会の国費留学制度で、マラウイ大学の学生や若手研究者を日本に招き、マラウイの将来の研究者を育成することも計画している。「今は、研究者を『種』から育てる研究基盤形成の段階。今後は研究成果を現地の人たちへ還元するために、マラウイの研究者の育成とレベル向上を目指し、研究を通した国際協力に貢献したい」と前川専門家は言う。専門家が植えた種は、これから勢いよく芽を伸ばそうとしている。


(注)いずれもウイルスを保有する蚊や他の吸血性昆虫に刺されたり咬まれたりすることで感染する感染症。中には死に至るものもある。

【TICAD Vに向けて、アフリカの開発課題、事業の最新動向、援助の在り方についての分析など、アフリカをシリーズで特集しています】