【Featuring Africa】アフリカの若者に明るい未来を

−JICA、世銀、AfDBがアフリカの若年層雇用促進に関する共同提案書を発表−

2013年6月10日

アフリカ諸国は近年、目覚ましい経済発展を遂げている。一方で、若者の3人に2人が失業していたり、生計を立てるには不十分な賃金で就業している状況にある。その結果、多くのアフリカの若者が希望を持てず、一部の国では社会や政治の不安定化の原因になっている。

多くの若者がそのような状態にあるのは、読み書きや計算などの働くために必要な基礎的能力が身に付いていないためだ。その原因は、母親の懐妊期から幼年期に至るまでの間(人生の最初の1,000日間)の栄養不良により知的能力の発達が不十分であったり、教育の機会を十分に得られていないことが挙げられる。また、開発途上国の多くで見られる、職を求める若者と雇用する側が求める能力やスキルのミスマッチがある。

しかし、アフリカの若者は実際には活力があり、才能にあふれ、たくましい起業家精神を持っている。アフリカ諸国で今後予想される急速な若年層人口の拡大は、グローバル経済の中でアフリカ経済が持つ強みといえる。各国の政府や援助機関、市民社会が適切に介入することによって、そうした強みを現実のものとすることができる。

こうした問題意識から、2012年6月からこれまで、JICAは神戸大学に委託し、アフリカの若年層の失業に関する調査研究を実施してきた。調査には、アフリカからガーナ大学などの大学・研究機関やタンザニア中央銀行のベノ・ンドゥル総裁が参加し、また、イェール大学のグスタブ・ラニス名誉教授をはじめとする欧米の著名な学識経験者や、開発経済学で最先端を行くMIT J-PAL(注1)が参加し、JICA専門家の日野博之ケニア大統領府アドバイザーの強力な関与を得て、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に向けた政策提言「アフリカの若者に明るい未来を」を取りまとめた。

【画像】

左からガボンのボンゴ・オンディンバ大統領、南アのズマ大統領、タンザニアのキクウェテ大統領、世界銀行のキム総裁、AfDBのカベルカ総裁、JICAの田中理事長、MIT J-PALのグレネスター氏

TICAD Vでハイレベル・パネルディスカッションが実現

JICAは政策提言を発表する場として、6月2日、神奈川県横浜市において、神戸大学、世界銀行、アフリカ開発銀行(AfDB)と共に、「若年層と雇用:アフリカの若者に明るい未来を」と題したアフリカの若年層失業に関するハイレベル・パネルディスカッションを開催した。昨年5月に「アフリカ経済の見通し2012年版」で若年層の失業を特集したAfDB、11月に「世界開発報告(WDR)2013:仕事」を発表した世界銀行、そして政策提言に当たり中核的な役割を担った神戸大学との共催によるTICAD Vのサイドイベントだ。

パネリストにはアフリカの首脳を代表して、ガボンのアリ・ボンゴ・オンディンバ大統領、南アフリカ共和国のジェイコブ・ズマ大統領、タンザニアのジャカヤ・キクウェテ大統領が、開発機関からは世界銀行のジム・ヨン・キム総裁、AfDBのドナルド・カベルカ総裁、JICAの田中明彦理事長が、そして研究機関からMIT J-PALのエグゼクティブディレクターのレイチェル・グレネスター氏が登壇し、アフリカ諸国が抱えている若年層失業について議論した。会場には、アフリカ連合(AU)のジャン・ピン委員長や『東アジアの奇跡−経済成長と政府の役割』(1993年、世界銀行)の執筆者の一人であるブルッキングス研究所シニアフェローのジョン・ペイジ氏などをはじめ、アフリカ政府や開発機関、大学関係者など190人が集まった。

JICA、世界銀行、AfDBなどの世界の主要開発機関が共同提案書を発表することは画期的な試みであるとともに、アフリカ諸国の首脳と開発機関のトップが一堂に会して議論する貴重な機会となった。

若者の就労のための基礎的能力を強化

ガーナ大学のアリエッティ副学長

パネルディスカッションの冒頭、アフリカの若年層雇用問題をけん引するJICA、世界銀行、AfDBで共同提案書を発表した。発表にはガーナ大学のアーネスト・アリエッティ副学長が当たり、「多くのアフリカ諸国の雇用に関する問題は、失業や狭義の労働市場の現象としてとらえるべきではなく、マクロ経済の運営や、生産性の低さ、就労のための基礎的能力不足のほか、広範囲にわたる課題によるものであり、政策や施策には具体的な証例に基づいたアプローチが不可欠である」とし、求められる政策として、雇用増に焦点を当てた成長指向の戦略を強化し、農業の生産性を向上させ、インフォーマルセクター(注2)の存在を受け入れ、若年層の働くための基礎的能力を強化していくことの四つを挙げた。

そして、「若年層雇用のための計画に含まれる政策や施策は、厳密な評価によって有効性が検証されたものであるか、成功する可能性が高いといえる確固たる根拠があるものでなければならない」とした。

続けて、開発パートナーが取るべきアクションとして、重要性が高いものの、これまでうまく対処できなかった課題に対して、新しい手法を用いることを提案。そして有効性が実証されている例として、就労のための基礎的能力の開発、農業、マイクロ・クレジット(注3)やマイクロ・フランチャイズ・プログラム(注4)などを挙げた。最後に各国首脳に対し、若年層の雇用を目的とした、革新的なアイデアに資金を提供する「イノベーションファンド」の設立を提案した。

問題は失業ではなく雇用のミスマッチ

ガボンのボンゴ・オンディンバ大統領

続いて行われたパネルディスカッションでアフリカ首脳陣は、各国の若年層失業の状況と雇用促進策を紹介した。まずガボンのボンゴ・オンディンバ大統領が「わが国は天然資源が豊富だが、持続的な成長を可能にするため、経済の多角化を図っている。天然資源をそのまま輸出するのではなく、加工することで雇用を創出できる」と経済政策を述べた。

南アフリカ共和国のズマ大統領は、「アパルトヘイト(人種隔離政策)という歴史的な問題から、依然として所得格差が激しい。35歳以下の黒人の失業率は73パーセントにも上る。フォーマルセクターは労働組合が機能してきたが、インフォーマルセクターは最低賃金が守られないなど、問題が解決されていない」と現状を訴えた。

世界銀行のキム総裁

タンザニアのキクウェテ大統領は、「わが国は雇用とともに貧困の問題を抱えている。それらを経済成長によって解決するために、政府が大規模なインフラ事業に関与して投資を呼び込んだり、農業改革によって生産性を上げることに力を入れている」と力説した。

開発機関からは、世界銀行のキム総裁が、「雇用の問題は失業ではなく、低い生産性にある」と問題点を指摘した上で、「労働市場の90パーセントは、民間セクターが生み出している。企業の不動産や金融へのアクセスを容易にすることが、究極的には若者の就業を助けることになる」と強調した。

AfDBのカベルカ総裁

AfDBのカベルカ総裁は、「低所得国では、まず農道などのインフラの整備。中所得国では、職業訓練や教育に力を入れるべき」と対応策の優先順位を明確にした。

JICAの田中理事長は、アフリカの雇用促進のためにこれまでJICAが実施してきた、効果が高い三つの技術協力プロジェクトを紹介。

田中理事長

「エチオピアなどでの『カイゼン』プロジェクトによって、日々、生産性が高まっている。ケニアの小規模園芸農業を支援するプロジェクトでは、農家が市場情報にアクセスし、有利に調達や販売ができるようになった結果、農家の所得が倍増してきている。また、ケニアを中心に10年近く実施した理数科教員研修により、理数科に関心を持つ生徒が増え、将来の産業人材のベースを広げることに貢献した」と語り、「これらのプロジェクトをスケールアップし、アフリカの他の国々で実行することを検討している」と述べた。

MIT J-PALのグレネスター氏は、「幼少期における栄養改善や保健ケアが、長い目で見ると労働市場での生産性を高めることが実証されている」とし、「幼少期の栄養改善は、飢餓撲滅の側面からなされてきたが、それを労働市場で人材を育てるという側面から見直し、新しい尺度で課題の本質を見つけ出し、アクションを起こすことが重要だ」と訴えた。

最後に、ガボンのボンゴ・オンディンバ大統領は、「われわれは、これからはアフリカの時代であるという自信を持つべき。あとは、明日ではなく今日やるという、政治的意思の問題だ」と力強く語った。

JICAは今回の議論も踏まえて、8月ごろまでに神戸大学と研究結果を報告書に取りまとめる。その後、若年層人口の拡大がアフリカ諸国の経済成長のエンジンとなり、若者が明るい未来を描けるよう、JICAは雇用のミスマッチなどの課題解決に貢献していく。

(注1)米国マサチューセッツ工科大学のアブドゥル・ラティーフ・ジャミール貧困アクション研究所。J-PALはAbdul Latif Jameel Poverty Action Labの略。
(注2)会社として登記されておらず、社会保険や税金を納めていない結果、公的サービスや保険などによって守られていない団体・個人。
(注3)個人への少額の融資。
(注4)知名度のあるフランチャイズを持つ大企業が、意欲的な若い企業家に少額の資金を供与するもの。

【TICAD Vの開催に合わせて、アフリカの開発課題、事業の最新動向、援助の在り方についての分析など、アフリカをシリーズで特集しています】