JICA在外事務所長が語る途上国の今

−企業向けに途上国の現場をレポート−

2013年9月19日

200席を用意した会場は、満席の状態に

JICAは9月5日、JICA本部(東京都千代田区)で民間企業を対象としたセミナー「JICA事務所長による途上国現場レポート」を開催した。開発途上国への進出を検討している民間企業を支援する民間連携はJICAの重要な事業の一つであり、また社団法人日本経済団体連合会(経団連)や社団法人日本貿易会(JFTC)などから寄せられた「開発途上国の生の情報を聞きたい」との声に応じ、セミナーの開催に至った。

当日は、民間企業からの関心が特に高いタンザニア、ケニア、モザンビーク、ミャンマー、ベトナム、インドネシア、インド、バングラデシュ、イラクの事務所長が発表を行った。その中でも、最も関心を集めたのはミャンマー。ミャンマーのセッションには、定員の200席を上回る400人の応募が寄せられた。

インフラ案件形成、産業構造転換、人材育成、国民の生活向上のための協力

ミャンマー事務所の田中所長

ミャンマーは、タイと同じ規模の国土と人口を持つ。しかしGDPはタイの約15パーセントにすぎず、一人当たりGDPはメコン諸国で最も低い。インフラ整備の遅れも深刻で、道路の舗装率は約12パーセント、電化率は約26パーセントにとどまっている。また、「ミッシングミドル」と呼ばれるほど、30〜50歳代前半の人材不足が大きな問題となっており、人材育成も成長の鍵の一つといえる。

今年5月、36年ぶりとなる日本首脳のミャンマー訪問を安倍晋三首相が実現し、国民の生活向上、経済・社会を支える人材の能力向上や制度の整備、持続的経済成長に必要なインフラや制度の整備などを優先分野として、2013年度末までに合計約910億円の協力を行うことを表明した。JICAは、これまで継続して行ってきた人材育成の支援に加え、2013年6月にミャンマー政府との間で総額約511億円にも上る円借款契約を締結し、インフラ整備を支援する方針だ。ミャンマー事務所の田中雅彦所長は、「ミャンマーは、明治維新のような転換期にあり、日本のほか、米国、韓国、中国など多くの国が進出を目指している。支援のニーズは膨大であり、民間企業の協力も欠かせない」と現状を説明した。

農業と産業、運輸、電力・エネルギーが重要課題

タンザニア事務所の大西所長

タンザニアは日本の約2.5倍の国土に、約4,500万人が暮らしている。主な産業は農業だが、道路舗装率は全体で約8パーセント、電化率は20パーセントに届かず、最貧国の一つに数えられている。一方で、海外直接投資はバングラデシュやミャンマーなどと比べて比較的高い水準で推移し、域内輸出は順調に伸び、年率約7パーセントの高い経済成長が続いている。高い人口増加率や若年層の厚さから、人材の宝庫としても、将来的な市場としても、高いポテンシャルを持っている。

現在、JICAが力を入れているのは、農業、運輸、電力とエネルギー分野への支援。特に、国民の7割以上を占める農業従事者の生活を向上させるため、農業振興にとどまらず、農産物加工を軸に産業(製造業)振興へ結びつけた支援を重視している。タンザニア事務所の大西靖典所長は「タンザニアは非常にポテンシャルの高い国。日本への期待も高く、民間連携を通じてタンザニアのため、日本のためにもなる支援に取り組みたい」と語った。

第2回の開催に期待

現場レポートは、4時間という限られた時間の中で9人の所長が発表したため、駆け足にならざるを得ないところもあったが、全セッションに参加する人も多く、9ヵ国への関心の高さがうかがえた。

参加者からは「内容の濃い発表ばかりで、その国の開発の方向性をよく知ることができる貴重な機会となった」(メーカー)、「ベトナムとイラクの情報を得ることを目的に参加したが、結局、9ヵ国すべての話を聞いた。現地の情報を得る上で、所長の生の声を聞けることは非常に有意義だ」(商社)、「普段つきあいのあるメーカーとは立場の違うJICA所長の生の声を聞きたくて参加した。その国に暮らしているからこそわかるビジネス環境や国民性などをもっと詳しく聞きたかった。ぜひ2回目も開催してほしい」(ゼネコン)といった声が聞かれた。

昨今、開発途上国の持続的な経済成長や貧困削減の面で、民間企業の重要性は増すばかりだ。JICA本部や在外事務所での民間企業との意見交換を通じて、引き続き双方が情報交換を行っていくことが求められている。