「アフガン・日本感染症病院」が完成

−通院が難しい人々の治療が可能に−

2013年11月29日

こんなに素晴らしい病院は、アフガニスタンでは見たことがない――。アフガニスタン公衆衛生省のタウフィク・マシャール予防医療局長や、アミール・マンガル医師をはじめとする関係者らは口々に感嘆の声を挙げた。

工事は塀の中

完成したアフガン・日本感染症病院のエントランス

2013年8月下旬、結核、エイズ、マラリアの「3大感染症」対策に活用される80床の「アフガン・日本感染症病院」が、日本の無償資金協力によって首都カブールに完成した。

工事開始から約1年半で建物は完成したが、その間、日本の工事関係者は、不安定な治安状況の中、高いコンクリートブロックの塀と、多数の武装警護要員に囲まれた工事敷地内の宿舎に寝泊まりしながら、建設に従事した。敷地内には、緊急避難のための地下壕(ごう)も用意され、定期的に避難訓練も行われた。幸い、この地下壕を使うこともなく、予定された期間内に工事は無事終了した。

3大感染症の脅威とその対策

アフガニスタン結核対策プロジェクトで行われた喀痰(かくたん)検査研修

世界的に流行し、命を落とす人が多い結核、エイズ、マラリアは「3大感染症」と呼ばれている。3大感染症対策は、アフガニスタンでも重要であり、政府も専門的な国家プログラムを立ち上げ対策を進めている。マラリアは年間300万人、結核は年間6万人もの新規患者が発生しているといわれており、アフガニスタンは、世界で結核患者数の多い22の「高負担国」(High-burden Countries)の一つに数えられている。また、エイズ患者は2,000人程度といわれているが、注射による麻薬常習者の増加や、対策の遅れから今後の拡がりが危惧されている。  

日本は、1970年代から技術支援や結核センターの建設などを通じて、アフガニスタンの感染症対策支援で中心的な役割を果たしてきた。同国で紛争が始まった1979年以降、支援は中断していたが、タリバン政権崩壊後の2003年に再開。2004年からは、「アフガニスタン結核対策プロジェクト」を実施し、結核対策を実施する公衆衛生省「国家結核対策プログラム」の組織・能力の強化、結核菌検査体制の整備、帰還した難民など脆(ぜい)弱な人々への結核対策実施といった重要な支援を行ってきた。

毎日の通院が負担に

4人用の病室。部屋にはストーブが設置されている

3大感染症の中でも、結核治療は、感染の拡大を防ぐため専用病棟での入院加療が原則だが、病院などの施設が十分でない途上国では、やむを得ず外来治療を行っているケースも多い。その場合、最初の2ヵ月は確実に治療を行うために毎日通院する必要がある。さらに、通常の結核薬が効かない「薬剤耐性結核」の場合は、少なくとも最初の8ヵ月は毎日通院しなければならない。この間、乗合バスなどの公共交通機関の使用は避けるべきなので、場合によっては、通院交通費がひと月の収入の何倍にもなってしまうこともある。

しかも、こういった状況下にありながら、アフガニスタンでは、有給休暇制度や傷病手当金といった社会保障制度が整備されておらず、貧困層に属する多くの結核患者が、通院をあきらめずに治療を終えるのは奇跡に近い。しかし、「薬剤耐性結核」を適切に治療しないと、ほとんどの薬剤が効かない「超多剤耐性結核」が蔓(まん)延する最悪の事態にもなりかねないため、感染拡大を防ぐためにも入院による確実な治療が重要だ。

また、通常の結核治療中に合併症を起こして入院が必要になっても、結核専用病棟がないために、他の入院患者への感染に対する恐れから、一般病棟に入院できず、適切な治療を受けられないまま死亡する例も少なくなかった。エイズに関しても同様で、外来治療のみが可能で、重症になっても入院して治療を行える施設はなかった。こうした状況に危機感を覚えたアフガニスタン政府は、2008年、日本にマラリアも含めた3大感染症治療のための専用病院建設を要請した。

安心して治療できる環境を

病院長のマンガル医師(右端)と薬剤耐性結核治療担当のハシミ医師(左端)

こうして完成したアフガン・日本感染症病院は、結核の中でも入院治療の必要性が高い薬剤耐性結核、重症エイズ患者、重症マラリア患者の治療に使用される。

JICAプロジェクトが支援する「国家結核対策プログラム」では、2年前から薬剤耐性結核の治療を開始。専門的な知識に基づく管理が必要なため、現在のところ、カブールの結核センターのみで外来治療を行っている。これまで約100人を治療してきたが、そのうち半数は今も毎日通院している。体調が優れない中、通院するには相当の困難を伴う。また、多くの患者が、通院のためにカブール市内の親戚の家などに肩身の狭い思いをしながら身を寄せているが、市内に親戚がいない患者は、治療を受けたくても受けられなかったため、新しい病院の完成を心待ちにしていた。

タジキスタンと国境を接する北部のバダクシャン出身の23歳の男性患者は、カブールに簡易アパートを借り、毎日通院している。簡易といえども、貧しい生活の中、家族が苦労して家賃を工面しており、「病院が完成して入院できるので、これからは家族に経済的な負担をかけずに治療に専念できる」と喜びの声を上げる。 治療に当たっているハシミ・カーン医師も、「入院治療ができれば、患者や家族の負担を減らせるし、感染の拡大防止にも効果的だ。確実に治療できるので、医師や看護する側にも大きなメリットになる」と言う。念願の専用治療施設が整備されたことで、アフガニスタンの3大感染症対策はようやく体制が整ったといえる。

結核対策支援の総仕上げ

「アフガン・日本感染症病院」は、初の本格的な感染症対策の病院として、アフガニスタンの関係者だけでなく、他の支援機関からも大きな期待を集めている。また、JICAにとっても、これまでの長い結核対策支援の総仕上げとしての意味を持つ。病院が効果的に使用され一人でも多くの命が救われ、やがてはアフガニスタンの人々の手によって、3大感染症対策が独り立ちできるよう、引き続き技術支援を行っていく。