一村一品運動で生まれた商品を世界へ(キルギス)

−コミュニティービジネスが地域を変える−

2013年12月19日

12月6〜7日、「無印良品」有楽町店(東京都千代田区)で、キルギスで作られたフェルトの携帯機器ケースにフェルトの原毛で刺しゅうをするワークショップが開催された。講師はキルギスの「一村一品アプローチによる小規模ビジネス振興を通じたイシククリ州コミュニティ活性化プロジェクト」で、一村一品組合のリーダーとして生産者をまとめているマハバット・ジャキエバさん。通りがかった買い物客もフェルトの携帯機器ケースに目をとめ、「かわいい!」と声を挙げていた。

キルギスからのクリスマスギフト

ワークショップで指導するマハバットさん(中央)。フェルトの原毛を針の先で押し込んで模様を作る

JICAと株式会社良品計画(MUJI)は「MUJI×JICAプロジェクト」を展開し、JICAが一村一品運動(注)を通じて支援しているキルギスとケニアの商品を、良品計画が運営する「無印良品」の店舗でクリスマスギフトとして販売している。きっかけは、2010年末に、クリスマス商品の企画で協力できないか、良品計画がJICAに打診したこと。全世界のJICA事務所から80以上のアイデアが寄せられ、その中からキルギスとケニアの一村一品プロジェクトの提案が選ばれた。

フェルトの携帯機器ケースは、MUJI×JICAプロジェクトで企画し、キルギスの一村一品組合が作った商品の一つ。商品化に当たっては、品質テスト、デザイン、生産体制など、厳しさでは日本でもトップレベルといわれる良品計画の基準を適用し、生産管理や品質管理の体制づくりをJICAが支援。携帯機器ケースのほかに、カードケースやペンケース、オーナメントなどのフェルト製品が開発された。

「最初のころは組合側に品質管理や納期厳守の意識がなく、現地の日本人駐在員の婦人会などに協力を依頼してチェックをすることもあったが、今はすべての工程を生産者が行っている」と話すのは、プロジェクトにかかわって5年目になるJICAの原口明久専門家。良品計画の厳しい品質管理によって生産者の技術力は着実にアップし、出荷数も初年度の約1万3,000点から2013年は約2万点と、年々増えている。

崩壊したコミュニティーを再生

ワークショップで刺繍を入れた携帯機器ケース。右はフェルトで作ったロバとヒツジの置物

キルギスは中国、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンと国境を接する中央アジアの国で、国土は日本の半分ほど。1991年に旧ソビエト連邦から独立したが、経済体制の変革の中で、地域の社会活動や経済活動の基盤となるコミュニティー組織は崩壊した。JICAはコミュニティー組織の再構築を目指すキルギス政府の方針に従い、2006年から一村一品運動を核とした「イシククリ州コミュニティ活性化プロジェクト」を実施。モデル地域を対象に、地域の資源を使った商品を販売するコミュニティービジネスを行うための組織化、商品開発、生産管理などを支援してきた。

キルギスの首都ビシュケクに2012年11月にオープンした一村一品プロジェクトのショップ。草木染めで染められた色とりどりのフェルト商品が並ぶ

商品開発の際には、フェルトやチーズなど牧畜が盛んなキルギスならではの資源を活用するのはもちろんのこと、旧ソ連時代に途絶えた石けんづくりの技術を復活させたりもした。また、牧畜のエサとして栽培していた花をハチミツの採取やフェルトの染色にも利用するなど、新たな活用法を開発し商品のバリエーションを増やしていった。

2012年からは、モデル地域以外に本格的にコミュニティービジネスを普及させることを目的に、後継プロジェクトとして「一村一品アプローチによる小規模ビジネス振興を通じたイシククリ州コミュニティ活性化プロジェクト」を展開している。

現金収入がもたらした変化

フェルトのバッグを手にする一村一品組合のメンバーたち。組合のメンバーは1,000人。約90前後のグループに分かれて商品を作っている

先行プロジェクトから一村一品運動に取り組んできた原口専門家が特に重視しているのは、生産者たちの自主性だ。一村一品運動を説明するミーティングを開いても、参加するための交通費や日当は支払わず、JICA側から「こんな製品を作ろう」「組合を立ち上げよう」という提案も一切行わない。「こんなものを作りたい」「こんなことをしたい」という声が生産者から挙がってくるのを待ち、生産者のやる気を試しながら、自主性を育てることを意識してきた。2010年に誕生した一村一品組合も、そうした中から生まれた組織だ。

キルギスでは女性の地位が低く、女性が現金収入を得る機会も少ない。しかし、一村一品プロジェクトで女性の雇用が生まれ、安定した現金収入を得られるようになったことで、地域にも変化が現れている。「主婦が現金収入を得ることで家庭内での地位が上がり、コミュニティーでの発言力も増している。当初は妻が組合に参加することに反対していた夫たちも、最近は協力的になるなど、女性だけでなく男性の意識も変わりつつある」と、原口専門家はプロジェクトの成果を説明する。

日本、そして世界へ、販路拡大中

キルギスの一村一品プロジェクトのメンバー。右から原口専門家、ナルギザさん、マハバットさん、吉澤由美子専門家

今回、一村一品組合のリーダーであるマハバットさんと、プロジェクトマネージャーであるナルギザ・エルキンバエバさんが来日したのは、良品計画の品質管理や商品開発などの現場の視察のほかに、日本企業との商談も目的の一つだった。「良品計画のほかにも、一村一品組合に興味を持つ企業が日本やアメリカに現れている。着実に販路は拡大しており、それが生産者のモチベーションにつながっている」と原口専門家は話す。

今回の来日で無印良品の店舗や品質管理センター、物流センターなどを視察したことで、二人のモチベーションはさらに高まっている。マハバットさんは「自分たちが作った商品が売られている現場を見て、商品のクオリティーをさらに上げていかなければいけないと強く感じた。また、品質管理や物流、商品開発の現場を見せてもらったことも、とても勉強になった。この仕組みをキルギスバージョンに変化させていきたい」と意欲的だ。

また、ナルギザさんは、「キルギスでは『ビジネス=大きな工場を作ること』というイメージがあったが、一村一品プロジェクトを通じて、手を使ってモノを作れば何かを達成できるということを体験できたことは、非常に意味がある。重要なのは、プロジェクト終了後もキルギス人だけで一村一品運動を継続していくこと。この運動をイシククリからキルギス全土へ広げていきたい」と、プロジェクト後を見据えている。

一村一品運動から生まれたコミュニティービジネスは、確実に地域を変えている。


(注)1979年に当時の平松守彦大分県知事(現・大分一村一品国際交流推進協会理事長)が提唱した運動。それぞれの地域の特産物を生かして国内外に通用する商品を作り上げることで、住民による地域活性化を目指す。