日本企業の技術と哲学を途上国メディアが取材

2013年12月27日

コミュニケーション・プラザ川崎にある管制センターでリポートするキルギスのリナーラさん

「トヨタの『カイゼン』をはじめとして、日本の企業はそれぞれに哲学を持っているのが印象的」。キルギスのテレビ局、ニューブロードキャスティングネットワークでニュースアンカーを務めるビックーロヴァ・リナーラさんが残した感想は、12月1〜14日、JICAの招きで来日した開発途上国のメディア関係者が感じたことを端的に表現していた。

JICAは毎年、途上国の新聞、テレビなどのメディア関係者を日本に招く「海外メディア本邦招へいプログラム」を実施している。視察や取材の機会を提供し、JICA事業や日本の技術について理解を深めてもらうためだ。

今年はキルギス、サモア、セネガル、ネパール、トルコ、ブラジル、南アフリカ共和国、モザンビーク、ラオスの計9ヵ国から13人が参加。昨年に続き「開発途上国の課題解決に貢献する日本の技術」をテーマに、インフラ、産業開発、農業、環境など途上国が抱えるさまざまな分野の問題解決に、ビジネスを通じて取り組んでいる企業などを訪問してもらった。

「イノベーティブ」な農業の新しい形に関心

モクモクファームの直売所でリポートするトルコ国営ラジオ・テレビ局のセルカン・グナイ記者

プログラム前半では、輸送インフラ関連企業を訪れた。高速鉄道や幹線道路などの建設計画が目白押しの東南アジアやアフリカでは、特に関心が高い分野だ。3日は日本の鉄道技術の海外展開に取り組む日本コンサルタンツ株式会社(東京都千代田区)と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の総合車両センター(東京都品川区)を訪問。日本コンサルタンツでは、日本の鉄道事業の運営や海外展開について、JR東日本では車両の点検や維持管理について聞いた。5日は中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)のコミュニケーション・プラザ川崎(神奈川県川崎市)などを訪問し、高速道路の建設や管理、サービスエリアの運営などについて取材した。

6日は「伊賀の里モクモク手づくりファーム」(三重県伊賀市)を訪れた。このファームは、伊賀の養豚家ら19人が出資して1987年に設立。当初はハム、ソーセージなどの手作り販売を主体にしていたが、ソーセージの手作り体験教室の開始をきっかけに、交流型の農業公園となった。生産(一次産業)、加工(二次産業)から販売(三次産業)までを自ら手掛ける「六次産業」と呼ばれる新しい農業を実践している。「モクモク」は三重県の食品ブランドの一つになっており、県内の百貨店やインターネットでも販売している。

ネパール・カトマンズポスト紙のムクル・フマガイ記者は「生産、加工し、それらの製品を直営店舗やレストランで販売したり、宿泊施設の運営まで行う多角的に展開するビジネスは、非常にイノベーティブ(革新的)だ」と賞賛し、サモア・オブザーバー紙のパイ・ムリタロ記者は「流通業者などを通さず、地域の農家と契約して、農家が自ら価格を決めて販売することにより、地域に利益を還元できる仕組みが素晴らしい」と語った。

「カイゼン」はあらゆる業種で役立つ

産業技術記念館で織機を見学するメディア関係者

プログラム後半の9日、日本のモノづくりの原点である製造業を代表する企業として、トヨタ自動車株式会社のトヨタ会館と工場(共に愛知県豊田市)を訪れた。トヨタ会館ではトヨタ車の最新モデルだけでなく、ロボットや未来の乗り物などを見たり、試乗したりし、工場ではトヨタの生産方式を見学して、参加者の国々でもよく知られているトヨタ車の品質を再認識した。

10日は「トヨタテクノミュージアム産業技術記念館」(愛知県豊田市)を訪問。繊維機械メーカーの一部署が分離独立し、自動車会社として成長を遂げた同社の歴史などを聞いた。続いて豊田自動織機グループで総合人材サービスなどを行う株式会社サンスタッフ(本社:愛知県刈谷市)の講師から「カイゼン」をテーマにしたセミナーを受講。3S(整理、清掃、整頓)をはじめとする改善推進の基本や、改善個所の着眼点や意識づけなどの具体的な運用について、事例を交えて紹介された。「カイゼン」活動は、JICAもアフリカなどで普及を進めている。

製造業だけでなく、あらゆる業種に適用できる「カイゼン」の考え方と実践に、多くの記者らが感銘を受けていたようだ。南アフリカのスター紙のマシェゴ・マジャレファ記者は「南アフリカの企業では労使が対立し、暴動やストが多発している。カイゼンはトップダウンではなく、ボトムアップでイノベーションを起こす起爆剤になっており、従業員のモチベーションを維持する意味でも重要。すばらしいビジネス哲学だ」と語った。

社会性の高いビジネス展開を考える中小企業5社と交流

「途上国の環境を守りたい」と力説する会宝産業の近藤社長

12日は、JICAの中小企業海外展開支援プログラムを利用して、途上国で調査や実証事業を実施している日本の企業5社が、JICA本部(東京都千代田区)に集まり、プログラム参加者に自社製品や技術を紹介した。

プレゼンテーションを行ったのは、自然環境の修復に取り組んでいる多機能フィルター株式会社(山口県下松市)、水をろ過する水道機材を持つ株式会社トーケミ(大阪府大阪市)、自動車リサイクルの会宝産業株式会社(石川県金沢市)、1,200度の高温に対応する耐熱カメラを製造・販売する株式会社セキュリティージャパンとオガワ精機株式会社の共同企業(東京都江東区)、遠隔医療システムを持つViewSend ICT株式会社(東京都台東区)の5社。病院や医師の数が足りない国も多いため、ViewSend ICTの遠隔医療システムに対して、費用やインターネット環境、必要な機材など、参加者から矢継ぎ早に質問が飛び交った。

その後の意見交換会では、キルギスのニューブロードキャスティングネットワークが、その場で会宝産業の近藤典彦代表取締役社長にインタビューし、収録していた。キルギスのチャンネル5のクレショーヴァ・ユリヤ記者は、「中古自動車部品の輸入には需要がある。将来的には環境に配慮した自動車のリサイクルにも関心が向かうと思う」と語った。

また、記者らは防災への関心も高く、土砂災害の防止に役立つフィルターの機能について、多機能フィルター株式会社の山本一夫代表取締役社長を囲み、多くの質問を投げかけていた。ラオス国営放送のビエンラティ・ケッサター記者は「日本の中小企業は、利益の追求だけでなく、環境や保健医療など、社会が抱える問題の解決に貢献する企業が多く、感銘を受けた」と語った。

プログラムを終えて、モザンビークのノティシアス紙のジル・フィリペ記者は「今回取材した技術やビジネルモデルは、モザンビークが抱える問題の解決に役立つ。紙面でこれらを紹介することで、モザンビークの政策決定者にも伝えたい」と言う。ネパールのフマガイ記者は「日本の援助やビジネスは、金額の大きさや即効性だけではなく、真に持続的な開発を目指すものであることが理解できた。民間企業との連携をもっと進めてほしい」と希望を語った。