動き始めたカリブの大国キューバ、新たな協力を目指して

−日本の医療技術の海外展開に挑戦−

2014年1月9日

キューバは、カリブ地域で最大の面積を誇る島国で、本州の半分程度に当たる約11万平方キロメートルの国土に、約1,116万人が暮らしている。東にはハイチとドミニカ共和国、西にはメキシコ、南にはジャマイカ、北には米国フロリダ州を臨む要路に位置している。

キューバの首都はハバナ、2011年の経済成長率は2.8パーセント(外務省、各国・地域情勢)

1959年のキューバ革命以降、米国との外交関係は断絶しているが(注1)、中南米、アフリカ地域の非同盟国諸国(注2)に、数多くのキューバ人医師や教師を派遣するなど、独自に積極的な外交を展開している。他方、近年米国のオバマ政権誕生後にキューバを取り巻く国際情勢に変化の兆しが現れ始めており、キューバ国内でも2011年に策定された新たな経済社会政策の下で、海外渡航の自由化や自営業の拡大などの規制緩和や経済モデルの刷新が徐々に進められるなど、変革の動きが見られる。また、2013年7月から独立行政法人日本貿易保険のキューバ向け民間貿易保険が条件付きながらも再開し、日本でも対キューバ貿易・投資環境は改善しつつある。

医療分野で官民連携型の協力を促進

これまで日本の対キューバ経済協力は、キューバの主要産業である「農業(食料増産)」と「環境保全」の二つの分野を中心に行われてきたが、2013年4月に、外務省とJICA、キューバ政府関係者が協議を行い、キューバの優先開発課題であり、また、日本の民間セクターが持つ高い技術やサービスの活用が可能な分野で、官民連携型の協力を促進していくこととなった(注3)。

国立国際医療研究センター(東京都新宿区)の視察を行う

これを受け、同年11月24〜30日には、キューバのニーズが高く、日本に技術的な比較優位性のある、医療機器を含む保健医療分野での協力推進を目的に、キューバ外国貿易・外国投資省と公衆衛生省から病院長や州保健局長、経済協力担当者など5人を招へい。5人は、外務省、経済産業省、日本・キューバ経済懇話会、一般社団法人Medical Excellence JAPANとの意見交換のほか、複数の医療機器メーカーと病院を視察し、日本の医療制度や医療機器に関する説明を受けた。

キューバ公衆衛生省を代表して来日したサンチアゴ・デ・キューバ州保健局長のホルヘ・アルベルト・ミランダ・キンタナ局長は、「誰でもどこででも同じ医療を受けることができることを主眼にしている点で、日本・キューバ両国の保健医療のビジョンや哲学は、相通じるものがある」と語った。また、「日本の高い技術とキューバの医療人材を連携させれば、キューバだけでなく他国の医療の発展にも貢献し得る。技術とアフターサービスがしっかりした日本製の内視鏡を使った外科手術を普及させたいので、機材や研修に関する情報がほしい」と語るなど、高い関心を寄せていた。

キューバビジネスの高い潜在性に関心を寄せる企業

11月28日には、JICA本部で「キューバ官民連携セミナー」を開催。キューバ側の参加者が、外国貿易・投資の制度や現状、保健医療事情などについて包括的に発表。日本側は外務省が日本の国際保健外交について、JICAが民間連携制度について説明を行った。

セミナーには、キューバへの技術協力や、自社の医療技術の海外展開を考える企業や団体から約50人が参加。「これほど詳細なキューバの保健医療の状況や、取り組みに関する情報に接する機会はこれまでなかった」といったコメントが多く寄せられ、キューバビジネスへの高い関心がうかがわれた。

医療大国キューバと高齢化

キューバの保健医療体制を紹介するミランダ局長(右から二人目)

公衆衛生省サンチアゴ・デ・キューバ州保健局のミランダ局長の発表によると、キューバでは憲法で「すべての者は健康のために必要な支援を受け、健康に関する保護を受ける権利を有し、国家はこの権利を保障する」と規定されており、国民の健康は国が守るという強い意識の下で、医療費の完全無料化(全額公費負担)、家庭医と看護師で構成する基礎医療チームによる各家庭の健康増進活動、医療人材育成、医薬品研究強化などが行われている。中でも、医師一人が受け持つ患者数が世界最小の137人という数字が、その充実ぶりを示している。

キューバは、予防医療に積極的に取り組み、ワクチン接種による疾病予防を徹底している

さらに、医療・福祉系の大学では、1万人超の外国人留学生を受け入れるほか、僻地での医師不足に悩む中南米やアフリカ諸国に医師を派遣するなど、キューバにとって、医療は外貨獲得の一つの重要なツールとなっている。

政府が主導する保健医療サービス強化の結果、キューバの2013年の乳児死亡率は4.3(出生1,000対)、妊産婦死亡率は23.5(出生10万対)(注4)と、先進国並みの水準にある。さらに、徹底した予防接種キャンペーンにより、ポリオ(小児まひ)は根絶。麻疹、風疹、ジフテリアなどの発生もなくなった。

循環器系の専門病院。キューバ国民は無料で利用できる

一方、平均寿命は77.97歳、60歳以上が全人口の18.3パーセントを占め、2030年には30パーセントに達すると推定されるなど、キューバは日本同様、高齢化社会を迎えている。このような状況下、キューバの保健課題は、生活習慣病、高齢化などに起因する悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患へとシフトし、これらが死亡要因の上位を占めるようになっている。医療の完全無料化を掲げる政府にとって、今後も増え続ける社会保障費をどのように賄うのか、また死亡要因の上位を占める疾患に対する正確な診断、そして治療に欠かせない高度な医療機器とその適切なメンテナンスの確保も大きな課題となっている。

官民連携型の協力実現のためのアクション

キューバが直面する社会保障の課題は、今日の日本が取り組む課題と共通する部分があり、日本が持つ医療技術やサービスに対する期待は大きい。招へいプログラムの最終日には、キューバ側参加者と共に、今後、両国が取るべきアクションについて議論を行った。その結果を踏まえ、JICAは医療機器分野を中心とした官民連携型の協力案件の発掘や形成を支援する個別専門家を派遣するとともに、民間連携制度の活用を推進していく予定だ。


(注1)1962年以降、米国はキューバとの輸出入を全面的に禁止し、ブッシュ前政権下では経済制裁が強化されたが、現オバマ政権下では対キューバ政策に軟化の兆しが見られる。2009年キューバ系米国人のキューバへの渡航制限と送金制限の撤廃、米企業のキューバ通信事業参入などを含む緩和措置を実施。また、2013年12月10日に南アフリカで執り行われたマンデラ元大統領の追悼式に出席したオバマ大統領とカストロ国家評議会議長との間で歴史的な握手が交わされた。
(注2)第2次世界大戦後の東西冷戦期以降に、東西いずれの陣営にも公式には加盟していない諸国。
(注3)JICAでは、開発協力のパートナーである民間企業の技術を生かした各種の事業を展開している。
(注4)ユニセフ『世界子供白書』によると、先進工業国の乳児死亡率は4、開発途上国では54(2006年)、妊産婦死亡率は先進工業国では8、開発途上国では450(2005年)。