協力隊員がコーチとして世界卓球に参戦(エルサルバドル)

2014年5月12日

代表チームのコーチとして、ニューカレドニアとの試合に臨むアリアス選手に指示を出す森部さん

日本選手の大活躍もあって大いに盛り上がりを見せた世界卓球2014東京大会(4月28日〜5月5日開催)。国立代々木競技場第一体育館で、日本(世界ランキング男子3位、女子2位)をはじめとする世界ランキング上位のチームが熱戦を繰り広げていたちょうどそのころ、別会場の東京体育館では、ランキング25位以下のディビジョン2〜4(注1)のチームによる試合が行われていた。そのディビジョン3の中に、4年ぶりとなる世界選手権に挑むエルサルバドルの女子代表チームがいた。世界ランキングは68位。コーチとしてチームを率いたのは、青年海外協力隊の森部淳隊員(滋賀県出身)だ。

日本とのレベルの差に愕然

森部さんは、選手として国体に4回、全日本卓球選手権に8回出場したほか、指導者として滋賀県、京都府の中学校や高校、地域の卓球クラブを中心に活躍してきた実績を持つ。エルサルバドルには卓球隊員として昨年7月に赴任。エルサルバドル卓球連盟の要請で、各年代の代表強化指定選手への技術指導と、国内の卓球愛好家を増やすための普及活動を行っている。

熱意と意欲を持ってエルサルバドルに赴任した森部さんだが、当初は代表チームのレベルの低さに愕然(がくぜん)としたという。国内の競技人口が600人と少ないため競い合う意識が育ちにくい、練習時間が満足にとれないなど、レベルアップできない理由はいろいろ考えられたが、森部さんが特に問題視したのは練習に取り組む選手たちの姿勢だった。「練習の時間に遅れたり、練習中におしゃべりをしたりと、普段の練習に緊張感がまったくないので、試合になると緊張に耐えられず自滅してしまうんです。まずは、緊張感を持って練習に臨むように心構えを変えることが必要だと思いました」と言う。「最初のうちは、なかなか理解してもらえませんでしたが、練習がいかに大切かを粘り強く説いた結果、楽しいだけでは強くなれないと気づいてくれる選手が現れるようになりました」

昨年12月にメキシコで開催された中米卓球大会で。右端がカルデロン選手

森部さんの指導を受け、着実に結果を出している選手もいる。今回は来日していないが、男子選手のフリオ・カルデロン選手は、森部さんのアドバイスを受けて練習方法を変えたことがきっかけでスランプから脱出し、エルサルバドルの国内大会では、共に参加した森部さんに勝つほどのレベルアップを見せている。「僕をコーチとして認めてくれたのか、休憩時間になると僕に水を持ってきてくれるようになりました。たぶん、練習方法を変えることで自分が成長できたと実感しているのだと思います」。彼以外にも、森部さんのプレーをまねる選手が出てきたり、ほかのコーチが森部さんに練習方法を相談したりするなど、代表チームの雰囲気は変わりつつある。

コーチOBが見たメンタル面の成長

昨年1月、JICAオフィシャルサポーターの高橋尚子さん(中央)がエルサルバドルを視察し、仲澤さん(前列左端)を訪問

世界選手権の大会期間中は、森部さんの前任者である仲澤毅さん(秋田県出身)も応援に駆けつけた。仲澤さんは、エルサルバドルの初代卓球隊員として、2011年6月〜2013年6月の2年間活動した。仲澤さんも赴任当初は選手たちのレベルの低さに驚き、言葉もわからない中で、とまどいながら指導を続けてきた。「文化の違いなのか、こちらが強く注意をすると、選手は『コーチに嫌われた』と思ってモチベーションをなくしてしまう。嫌っているのではないことを理解してもらうのに、ずいぶん時間がかかりました」と当時を振り返る。

だからこそ、世界選手権という舞台で真剣勝負に挑む、かつての教え子たちの姿は、仲澤さんには頼もしくも映ったようだ。あいにく、仲澤さんが観戦に訪れた4月29日のカザフスタン戦は0-3のストレート負けだったが、「以前は試合に負けてくると途中で投げ出したり泣いたりしていましたが、今日は負けはしたものの、最後まであきらめずに試合をしていました。技術的なレベルはまだまだですが、メンタル面では少しずつ成長していると感じました」と感慨深げだった。

目標は2020年の東京オリンピック出場

エルサルバドルの女子代表チーム(前列)。後列右から3人目が森部さん

世界選手権の最終結果は、2勝3敗で順位は64位(注2)。「最初から勝てると思っていないので、彼女たちの中には悔しいという気持ちがあまりないんです。それをどう変えていくかも、これからの課題です」。一方で、大会期間中は代々木競技場第一体育館で、世界ランキング上位のチームの試合を見る機会も得た。「憧れの選手を間近で見て、目を輝かせていました。僕が思っていた以上に、彼女たちが卓球に興味があることがわかり、うれしく感じました」

「技術はもちろん、取り組みやモチベーションの面で、上位のチームとは大きな差があることを、あらためて感じさせられた大会でした。しかし、今までは別世界だと思っていた世界選手権を生で経験したことで、選手たちが今よりも上を目指すという気持ちを持つようになったことは、大きな収穫だったと思います」

選手の一人であるエンミ・アリアスさんは現在16歳。6年後の東京オリンピックでは、エルサルバドル代表として来日したアリアスさんの雄姿を見られるかもしれない。


(注1)世界ランキングに基づいて参加チームを24チームずつ5つのディビジョンに分け、ディビジョンごとに順位を競う。日本代表が参加したディビジョン1はチャンピオンシップディビジョンと呼ばれ、ここで優勝したチームが世界チャンピオンになる。エルサルバドル女子はディビジョン3に参加した。
(注2)予選リーグでは2勝3敗で64位だったが、その後に順位決定戦があり、通算3勝4敗で63位となった。