【国際協力60周年】「市場志向型農業」をアフリカ全土へ(前編)

−神戸でビジネスとしての農業を学ぶ−

2014年7月1日

箱詰めされたキャベツを前に出荷予定表を確認する研修員(神戸西営農総合センター)

JICAは現在、アフリカ地域の小規模農家の収入向上を目指して、日本とケニアの技術協力によって生まれたSHEPアプローチをアフリカ全体に広げる取り組みを行っている。2013年6月に開催された「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」で、日本はアフリカ農業支援の柱の一つとして「SHEPアプローチ」のアフリカ域内展開を掲げ、小規模農家の所得向上、貧困削減への貢献を目指している。

その第一歩として、5月11日から30日にかけて日本とケニアで実施されたのが、「アフリカ地域市場志向型農業振興(行政官)」研修だ。研修を受けたアフリカ各国の行政官に、研修成果として作成したアクションプラン(行動計画)を自国で実践してもらうことで、SHEPアプローチを普及させ、小規模農家を支援していくことを目的としている。

SHEPアプローチとは

SHEP-UPプロジェクトで栽培しているブロッコリーの畑(ケニア)

SHEPアプローチとは、2006 年から2009年にJICA がケニアで行った技術協力プロジェクト「小規模園芸農民組織強化計画」(SHEP)で生まれた取り組み。「作ってから売り先を探す」という発想から「売り先を考えてから作る」という発想へ転換を図ることで、所得の向上を目指し、わずか2年間で2,500もの農家の収入を倍増させた。農家が農家自身で市場調査を行い、売れ筋の作物、時期による価格変動などを知ることで、複数の販売先と取引する競争力を得る。また、農民組織の強化によって、共同で販売、購入、契約するメリットを享受するといった取り組みだ。さらに、家庭を一つの「経営ユニット」としてとらえ、男性は経営者、女性は労働者という従来の意識に風穴を開け、女性の経営参画を加速したこともプロジェクト成功の要因となった。

ケニア政府はSHEPアプローチをケニア全土に広げ、小規模農家の所得向上を図るため、農業畜産水産省内に専門部局(SHEPユニット)を設置した。JICAはユニットの活動をサポートする「小規模園芸農民組織強化・振興ユニットプロジェクト」(SHEP-UP)を2010年から実施している。

流通から消費者ニーズをつかむ

ピカリショップに並んだ野菜を見る研修員

ケニアで始まったSHEPアプローチだが、日本の農業振興や消費者志向のものづくりが根底にある。日本の農家が普通に実践している「ビジネスとしての農業」を伝えるため、国内でも早くから農産物のブランド化や消費者目線の作物づくりに取り組んできた兵庫県神戸市で、「アフリカ地域市場志向型農業振興(行政官)」研修を実施した。

5月11日に来日したのはウガンダ、エチオピア、ケニア、ジンバブエ、ナミビア、マダガスカル、南アフリカ共和国、ルワンダ、レソトの9ヵ国の、農業省など農業政策に携わる行政官18人。24日までの約2週間、農産物の流通システムや農家の市場活用などの事例を学んだ。

まずは日本の農業行政と関連団体の役割、流通や普及の仕組みに関する講義を受けた。そして、地域の農業協同組合の役割をさらに知るため、JA兵庫六甲神戸西営農総合センターを訪問。センターは農家の経営や栽培技術の相談を受けるだけでなく、販売先との商談、肥料や農薬の共同購入などを支援している。センターで行われた農家代表との意見交換会では、同じ作物を作る農家十数人から成る部会の活動について聞いた。部会では定期的な会合を開き、技術情報や市場情報を共有し、生産物の販売も行っている。こうした取り組みの紹介は、SHEPアプローチで重視する農民組織化の意味を理解するための大きなヒントとなる。

一行はまた、女性農業従事者グループが中心となって運営するJAの直営店「JA兵庫六甲ピカリショップ岩岡」も訪れた。店舗に併設された加工所では、女性グループがレシピから開発した「牛ゴボウ飯」の製造工程を見学。女性の視点を生かした農産物加工品の開発や販路の開拓、配達サービスの実施に至る過程など、アフリカから来た研修員にとっては目新しいものばかりだった。

マダガスカル農業省農業技術指導部のラハリスア・エプ・ラコトアリマララ・ジョーゼット部長は「女性グループは20年以上にわたって、陳列や販売、運営を自分たちで行うだけでなく、さまざまなことに挑戦している」と女性の自立した取り組みをたたえた。

「ビジネスとしての農業」に触れる

「価格より安心・安全が大事」と語る田中さん(右から2人目。右端が金谷さん)

仲買人を通さず農家と流通業者が直接つながるシステムとして、生活協同組合コープこうべから有機野菜ブランド「フードプラン」事業について聞いた。この事業には、特定の農家と栽培契約を結ぶことで、消費者に安心・安全な商品が提供できるだけでなく、農家は販路を安定して確保できるという利点がある。

その後、「フードプラン」の契約先、兵庫県養父市大屋町「おおや高原有機野菜部会」のハウス農場を訪問。金谷智之部会長と田中利夫さんが、地域の農業の歴史を説明した。岩盤だらけで作物栽培に適さない土地を、市の援助を受けて1978年から10年かけて開墾。ダイコンやレタスなどを作っていたが、徐々に土地がやせて作物が作れなくなっていた。2003年、「フードプラン」に出合い、天候に左右されにくい雨よけハウスを利用したホウレンソウやキクナなどの有機栽培に切り替えた。高地という農業生産上の不利な条件を逆手にとり、低地では生産できない葉物野菜を作ることで、市場での競争力を高めた。以降、安定した収入を得ているという。

レソト農業食糧安全省作物支援/園芸作物部のマコアエ・リマカッツォ主任作物生産官は「厳しい条件下にありながら有機栽培を始めた農家の皆さんの勇気に感動した」と称賛。ジンバブエ農業省農業技術普及サービス局農業機械化・灌漑(かんがい)開発部のマチェ・ベルナルド部長代理は「ジンバブエでは農家が情報を得ようにも仲買人がなかなか教えてくれない。日本では取引の透明性が高く、農家と流通の関係者との間に強い信頼がある」と驚きの表情を見せた。

日本の「ビジネスとしての農業」の根底には、農家が他者とつながりながら、自ら考え、行動し、切磋琢磨(せっさたくま)するプロセスがあった。SHEPアプローチにはまさにこのプロセスが息づいている。こうした気づきを得て、研修員は5月25日、研修の次なる目的地ケニアに向かった。そこで待つのは日本とケニアのノウハウの融合だ。

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