日本の「食育」をモデルにガーナで栄養改善

2014年7月11日

学生と共に「教育農場」で農作業を体験する研修員(恵泉女学園大学)

栄養不足による子どもの成長不良が深刻なガーナでは、年内に「国家栄養政策」が国会で承認される見込みだ。その政策の実施計画策定を目前に控えた同国から、保健省や農業省、NGOなど栄養改善にかかわる8機関の担当者8人を招いて、JICAは6月16〜26日、「官民連携アプローチによるScale Up Nutrition(SUN)(注1)」研修を実施した。

日本の栄養対策は、厚生労働省が進める健康づくりの取り組み「健康日本21」(注2)や「食育基本法」などに基づき、すべての年齢層の国民を対象に推進されている。「食育」は、内閣府、厚生労働省、文部科学省、農林水産省をはじめとする12省庁と、地方自治体、専門機関や地域組織、民間企業などのマルチセクターによって推進され、広く一般に認知されている。

この研修は、日本の食育の取り組みを、ガーナの栄養改善政策の具体的な計画づくりに役立ててもらうことを目的に実施された。

給食費が地方自治体の財政を圧迫

給食を試食する研修員(多摩市学校給食センター)

研修ではまず、日本の栄養改善の歴史について学び、内閣府で食育推進の施策、厚生労働省で健康日本21、文部科学省で学校給食、農林水産省で食品安全などについて聞いた。

18日は「生活園芸」を全学生の必修科目としている恵泉女学園大学(東京都多摩市)を訪問。大学の「教育農場」(注3)で有機農業の実習を体験した。「実習を通じて食物連鎖や環境問題、食の安全性など、食やライフスタイルに関する適切な知識を得ることを目的としている」と語る澤登早苗教授の講義を受けた後、研修員は長靴と麦わら帽子を身に付け、除草作業や、サトイモの植え付け、キュウリの収穫を体験した。

保健省政策計画モニタリング評価局のアウスー・アンサー・エマニュエル政策分析ユニット長は「自分たちで作物の種をまき、育て、食べるという一連の流れを体験することで、食物に対する感謝の念が生まれるすばらしい取り組みだ」と述べた。

午後は多摩市学校給食センター南野調理所を訪問。日本の学校給食の変遷などについて説明を聞いた。糟谷泰宏センター長は「給食の献立は栄養素だけではなく、食べることの重要性、望ましい食生活、食文化の継承、生産者への感謝、生命への感謝なども学べるように考案されている」と多岐にわたる給食の目的について語った。

「日本では給食費を保護者が負担していると聞き驚いた。ガーナでは給食は無料で提供され、就学率の向上に役立っているが、地方自治体が給食費を負担しているため、持続性に課題がある」と地方自治・農村開発省政策計画モニタリング評価局のスフィアン・ワシラ開発政策オフィサーは述べた。

日本企業がガーナの食育にも貢献

味の素を訪問し、ガーナの栄養対策について話し合った研修員(味の素川崎工場)

日本の食育ではマルチセクターによる取り組みが進み、民間企業が中核的な役割を果たしている。地方自治体と連携して、健康増進や栄養啓発のイベントなどを実施することもある。国民全体の栄養知識を向上させることが、自社製品の消費拡大にもつながるからだ。

さらに近年、開発途上国の社会課題の解決を持続可能なビジネスを通して実現しようとするソーシャルビジネスの立ち上げに着手している大手食品企業がある。24日は、JICAの支援を受けてガーナで「離乳期栄養強化食品事業化準備調査(BOPビジネス連携促進)」を実施した味の素株式会社の川崎工場(神奈川県川崎市)を訪れた。

KOKO(ココ)と呼ばれるガーナの伝統的な離乳食は、発酵したトウモロコシから作られたおかゆで、たんぱく質や微量栄養素など乳幼児の成長に必要な栄養素が不足している。そこで味の素はガーナ大学などと共同で離乳食栄養補助サプリメント「KOKO plus(ココプラス)」を開発し、普及に取り組んでいる。

味の素株式会社研究開発企画部の取出恭彦専任部長は「ガーナ保健省などと協力し、農村コミュニティーでの栄養教育などを実施している」と説明した。研修員から、栄養教育活動での連携の可能性についての質問が出ると、取出部長は「栄養教育は、ガーナ政府との連携が必須であり、今後さらに連携を強化してガーナ全土の活動に発展させていきたい」と答えた。

ガーナ農業食品省女性農業開発局のポウリーナ・アディー副局長は「日本の食品会社は、国民全体の食育推進に積極的にかかわっている。企業が作成して無償で配布している栄養教材の質が大変高く、素晴らしい社会貢献だと思う」と企業の取り組みを称賛した。

マルチセクター連携に向けて

管理栄養士(右)から離乳食の与え方について聞く研修員(渋谷区保健所)

研修員はそのほかに、渋谷区保健所で離乳食の指導現場を視察し、また日本栄養士会で栄養士の役割なども学んだ。保健省家庭保健局栄養部のアモアフル・エシ・フォリワさんは、「食の楽しさを伝えるとともに、乳児に合った食材や調理方法を選ぶなど、離乳食の段階から給食まで、食育が一貫性を持って実施されていることがわかった」と語った。

研修を終えて、国家開発計画委員会開発政策局オドテイ・エベネザー・オドイオポティ局長は「今回の研修は、ガーナの栄養改善計画にさまざまな提言をしてくれた。官民連携、マルチセクターによる栄養対策をガーナで実施するためには、日本の内閣府のような役割を、私が所属する国家開発計画委員会が担う必要がある。また食育基本法が関係機関の役割を明確に示しているように、ガーナでも各機関の役割を明確にすることが、マルチセクターの取り組みを円滑にするものだとわかった」と研修の成果を述べた。

研修員は帰国後、栄養改善の具体的な計画作りを開始する。マルチセクターによる連携、民間企業の参画の促進、さらにSUN活動に必要な財源の確保や組織的支援体制を強化していくことになる。研修のコースリーダーを務めた萩原明子JICA国際協力専門員は、「日本の食育の取り組みは、ガーナをはじめとする途上国に栄養改善分野での官民連携の具体的方策を示すことができる」と語る。

JICAは現在ガーナで母子保健分野への協力を行っているが、今後は、栄養対策も含めた支援を検討していく。


(注1)2010年4月に発足した国際的な栄養不良対策計画。日本政府が世界銀行に設置した、重度栄養不良国36ヵ国を対象にした「栄養不良対策スケールアップ信託基金」を基に作られた。現在はG8、国際機関、財団、民間企業を含む100以上の団体が参加。
(注2)2000年から厚生省(当時)が推進している「21世紀における国民健康づくり運動」の略称。
(注3)農林水産省が推進する政策で、作物を育てるところから食べるところまでを一貫して行う体験学習を通じて、食育を実践、体感する取り組みのこと。近年は小中学校だけでなく、大学生の農業体験も積極的に推進されている。