日本の経験をもとに南の島に循環型社会を

2014年10月30日

青い海と白い砂浜、豊かなサンゴ礁で知られる大洋州には、約4,000もの島々が散らばっている。しかし現在、都市部への人口集中、近代化に伴うライフスタイルの急激な変化や、さまざまな商品の流入によって引き起こされる「ごみ問題」によって、この美しい海と島々が危機に瀕している。

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多くの「ウエイスト・ピッカー」が集まるパプアニューギニアのバルニ最終処分場

各国が向き合うごみ問題

ごみが処分場から近くの川に流れ出ている(フィジー)

こうした島国では、先進国や新興国で生産された製品が一方的に流入してくるにもかかわらず、国土の狭さや、島同士が海によって隔てられていたり、人材が限られていたりといった事情で、大規模なごみの収集や、技術力が必要でコストが高いごみの焼却、市場に根差したリサイクルなどを行うことが難しい。これまで多くの島では、あらゆるごみを分別せずに1ヵ所に集め、ただ積み上げておくだけの「オープンダンピング」が主流で、辺りには悪臭やメタンガスが発生し、川や海へと汚水がそのまま流れ出しているところもあった。また、ごみの中には医療廃棄物などの有害廃棄物も混じっているため、ごみの山から金属などの換金できる有価物を探す「ウエイスト・ピッカー(Waste Picker)」と呼ばれる人々の健康問題も心配されていた。

日本の技術と経験を生かして

サモアでの「福岡方式」処分場の研修。ヤシの実など地元で手に入るものが資材として使われている

日本はこうした大洋州の島国に対し、自国の経験を生かした協力を続けている。特に、ごみの減量(Reduce: リデュース)、再利用(Reuse: リユース)、再資源化(Recycle: リサイクル)の3Rに加え、天然資源やエネルギーの消費をできる限り減らし、繰り返し利用し続ける仕組みを作る「循環型社会」の考え方を推進している。

JICAは2000年から、大洋州地域の環境問題の解決に取り組む国際機関であり、サモアに本部を構える太平洋地域環境計画事務局(Secretariat of the Pacific Regional Environment Programme : SPREP)と協力し、地域で廃棄物の問題に取り組む人材を育てるための研修や教育・訓練センターの建設などを行ってきた。JICAからSPREPに派遣されていた天野史郎専門家は、現地の人々を指導し、これまでオープンダンピングだったサモアの処分場を、メタンガスや汚水の発生を抑える衛生埋め立てに改修。ヤシや廃タイヤなど、現地で入手できる材料を活用し、「準好気性埋め立て(福岡方式)」と呼ばれる、埋め立て層に自然に空気を取り込める管を設け、空気中の酸素を利用して生育する好気性微生物の力で有機系ごみの分解を促進する日本発の技術を、大洋州で初めて実現した。これをきっかけに、処分場を改善するための技術が、バヌアツ、パラオ、ミクロネシアなど、他の大洋州諸国にも広がっている。

国を越え地域全体でごみ問題に取り組むプロジェクト「J-PRISM」

さらにJICAは、「自立した廃棄物管理が行えるよう、制度の開発や人材を育成するための活動をしたい」という大洋州11ヵ国の要望を受け、それまで大洋州地域で行っていた廃棄物管理支援の経験とネットワークを結集し、2011年2月から5年間の予定で「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(J-PRISM、注1)」を開始した。

J-PRISMは、各国の行政機関の廃棄物担当者や民間企業、労働組合、学校教師、地域コミュニティーのリーダーなどが、国を越え、大洋州の地域全体で学び合いながら、ごみ問題に取り組む人材を育て、組織や制度の整備・構築、社会の意識改革を含め、廃棄物管理の総合的な基盤を強化することを目的としている。ごみ問題の環境教育から、廃棄物の量や質についての調査、収集・運搬、リサイクル、最終処分場の改善に至るまで、地域レベルでのごみ問題解決を目指した、広域でありながら11ヵ国それぞれの状況に応じて対応する、世界でも類を見ない試みとなった。

しかし、大洋州という広大な地域をカバーするプロジェクトであるがゆえの悩みもある。物理的なアクセスの難しさに加えて、各国の制度や法律の整備状況、人材の教育レベルがさまざまであるため、支援の内容とカウンターパート(注2)の能力のバランスをとることが難しい。プロジェクトでは、各国の担当者や組織が自ら考え、廃棄物の問題を解決する能力を身につけることを重視し、専門家にはコーチとして、できるだけ黒子に徹することを求めている。その結果、例えばパプアニューギニアでは、プロジェクト開始から3年を経て、トレーニングや研修などによって現地の担当者が自ら福岡方式の処分場を設計できるまでになった。現在、大洋州最大のバルニ最終処分場の改修が現地担当者自身の手で進められている。総括(リーダー)としてプロジェクトを率いる天野専門家は「プロジェクトの個々の活動は、地域の人や組織の能力を強化するための機会にすぎません。廃棄物管理の状況が改善するといった成果は、あくまで人づくり・組織づくりの結果なのです」と語る。

災害の経験からも生まれた学び合い

一方で、大洋州の島々では、気候変動が原因と考えられる異常気象による洪水、干ばつ、高潮の災害や、海面上昇などの影響も心配されている。JICAは、日本の長年にわたる防災分野の経験と教訓を生かして、自然災害の被害軽減に向けた協力も行ってきた。

2009年には、サモア沖地震に伴う津波により、多くの人命や財産が奪われ、がれきなどの大量の災害廃棄物が発生した。これを放置すれば、地域の衛生環境が悪化し、復興もままならない。現地で緊急援助活動に取り組んでいたJICAは、サモア政府と協議し、サモアの天然資源環境省と共に災害廃棄物処理パイロットプロジェクトを実施した。その後、2012年にサモアとフィジーで洪水が、2013年にフィジーでサイクロンが、また2014年にはソロモンで洪水が発生し、いずれも深刻な被害に見舞われた。J-PRISMでは、2009年のパイロットプロジェクトに携わったサモア人で、現J-PRISMアシスタントチーフアドバイザーのファフェタイ・サガポルテレ専門家や、災害廃棄物処理経験のあるカウンターパートを派遣し、各国の災害廃棄物処理の指揮を執った。周辺の国々の災害対策や廃棄物の処理に貢献することで、プロジェクトの現地廃棄物担当者は、さらに自信を深めている。プロジェクトではその後、各国での経験をもとに災害廃棄物防止・対応のためのガイドラインの作成を進めている。

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(写真左)2012年12月にサモアを襲ったサイクロンによる被害 、(写真右)2014年4月ソロモンでの洪水の後、首都ホニアラ沿岸部に打ち上げられた大量のペットボトルやがれき

日本の自治体や市民が経験を伝える

志布志市で分別され、リサイクルされる段ボール

日本の都市や地方には、ごみの削減や分別収集などにかかわる、さまざまな技術やノウハウ、市民による活動の経験が引き継がれている。大洋州の廃棄物関連プロジェクトでも、これまで日本の自治体や企業、大学、NGO、市民団体と連携してきた。

例えば、同じ南の島である沖縄県の市民団体、沖縄リサイクル運動市民の会は、市民による草の根レベルのリサイクル運動の経験を生かした協力を行ってきた。リサイクルができる資源の商品化の指導や沖縄での研修を通じ、リサイクルした資源をより有利な条件で海外へ売却するための技術や、住民、行政、企業が協力する重要性について伝えている。また、鹿児島県の志布志市は、焼却炉を持たずに、2005年以降、1998年に比べて80パーセント以上の埋立ごみの減量に成功した。これは、住民と行政との連携により徹底したごみの分別を行った成果であり、2011年以降、大洋州でもこの「志布志モデル」の普及に努めている。志布志市役所の西川順一市民環境課長兼環境政策室長は、「廃棄物管理には、住民の協力が不可欠です。『分ければ資源、混ぜればごみ』といわれるように、住民がごみを分別して出せば、廃棄物管理は劇的に変わります」と胸を張る。

大洋州版3Rを発信

SIDS国際会議で3R+リターンについて発表する天野専門家

今年9月1〜4日、第3回国連小島嶼開発途上国国際会議(SIDS国際会議)がサモアの首都アピアで開催された。会議には、およそ40ヵ国の首脳や閣僚をはじめ、国際機関や市民団体の代表ら3,500人以上が集まった。大洋州に限らず、小さな島国が直面する課題について協議し、国際的な協力の方針について話し合った。

3日には、SPREP本部を会場にしてサイドイベントが行われ、J-PRISMのカウンターパートも多数参加し、プロジェクトの成果とこれからの展望について報告を行った。特に、J-PRISMでは、これまでの3Rに加えて、生ごみなどの有機ごみを自然に返し、島では処理の難しい有害廃棄物や、「リサイクル市場でなければ売れないような有価物」を島の外に戻すこと(Return:リターン)の重要性について強調し、国連機関や各国の要人からも賛同を集めた。大洋州などの国々は、リサイクル産業がほとんど存在せず、国内で資源循環のサイクルを回すことが難しい。J-PRISMは、この「3R+リターン」を大洋州版3Rとして広めるとともに、一部の国が導入している、製品の輸入時に輸入業者からデポジット金を徴収し、それを資金としてリサイクル回収の動機づけや海外にリターンする輸送費に充てる「容器デポジット制度」などの経済的手法を、他の大洋州各国にも展開すべく取り組んでいる。

島国同士の協力による「3R+リターン」を目指して

リサイクル可能な資源や有害廃棄物を島の外へ戻すリターンについては、大洋州の国々だけで実現することは難しい。今後は「3R+リターン」の実現のために、リサイクル産業だけではなく、製造や流通、販売にかかわる日本を含めた先進国の企業や政府とも、責任を分担するための仕組みや制度について、考えていかなければならない。

処分場で研修の指導に当たるファフェタイ専門家

一方で、これまでに身につけた、ごみの量や質の調査、処分場の改善などに関する知識や技術を、地域内で伝え合い学び合う姿勢が、各国に定着しつつある。今後は、研修や指導のできる人材を登録したデータベースを作り、各国の政府や行政が協力して、廃棄物にかかわる人材を地域内で育成・活用する仕組みを作り上げる必要がある。

サモアで天野専門家から廃棄物の処理について学び、今やJ-PRISMのプロジェクトを率いる指導者の一人となった、アシスタントチーフアドバイザーのファフェタイ専門家は、「かつて大洋州の島国では、どんなごみがどれだけあるのか誰も知りませんでした。しかし今では、J-PRISMのほぼすべての国で、ごみに関する情報が蓄積されており、廃棄物担当者は、自分たちだけで最新の情報を集めるための調査ができます。J-PRISMなどのプロジェクトを通じて継続して学び、私たち自身がさらに成長して、島のごみをめぐる状況を大きく変えていければと思います」と語る。


(注1)Japanese Technical Cooperation Project for Promotion of Regional Initiative on Solid Waste Management in Pacific Island Countries。キリバス、サモア、ソロモン、ツバル、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル、ミクロネシアの11ヵ国のほか、クック諸島、ナウル、ニウエも対象としている。
(注2)技術移転の対象となる相手国の行政官や技術者。

パンフレット