ウガンダ稲作普及×難民支援

−「長期化した難民」支援でUNHCRと連携−

2014年11月14日

MOUに署名したアレクサンダー・アレイニコフUNHCR副高等弁務官(左)、ネイマ・ワーサメUNHCRウガンダ事務所長(中央)と河澄恭輔JICAウガンダ事務所長(写真提供:UNHCR)

近年、局地的な紛争の長期化に伴い、元の居住地に戻れない難民や国内避難民が増加している。このような長期的に難民状態にある人々(長期化した難民)は、世界の難民数(2013年末で約5,120万人)の4分の3を占める。加えて難民受け入れ国の約8割が開発途上国であり、難民に社会サービスを提供している途上国側の負担も重いことから、近年、人道支援に開発の視点を組み込んだ恒久的解決に向けて、人道支援機関と開発機関の連携が求められている。

そのような背景から、JICAは、人道支援機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(注1)と連携して、ウガンダで実施中の「コメ振興プロジェクト(PRiDe)」(注2)を活用して、6月から7月にかけて、ウガンダ在住のコンゴ民主共和国と南スーダンからの難民、ホストコミュニティー(難民を受け入れている地域)の住民を対象に稲作栽培技術の研修を実施。両者は今後、長期化した難民の問題解決への支援を本格化していくため、10月30日、業務協力協定(MOU)に署名した。

人道と開発の連携

UNHCRは人道支援機関として従来、新たに発生した難民に対して緊急支援で応じることに専念してきたが、ここ数年、長期化した難民の問題解決にも注力している。解決策として具体的には、母国に戻るか、戻れない場合には避難国に住み続けるか、そのどちらも可能でない場合は欧米諸国などに定住するという選択肢がある。長期化した難民に解決策を提供するには、従来の「人道」の枠を超えた、教育や生計支援、就業サポートといった「開発」の支援が必要となることから、人道支援機関と開発機関の連携が重要となる。

ウガンダには現在、32ヵ国から40万人以上の難民が避難している。中でもコンゴ民主共和国の難民は2000年前後から難民状態にあることや、南スーダンからの難民流入が2013年末から激増していることが深刻な問題となっている。そこでUNHCRが支援している難民と彼らを受け入れているホストコミュニティーに、JICAが稲作栽培技術の研修を提供することで、当面は両者が調和した形で生活しながらウガンダ国内で生計を立てられるよう、さらには将来、難民が母国に戻ってもスムーズに生活が立ち上げられるよう、今から就業をサポートしていくという趣旨で、今回の連携は実施された。

稲作栽培技術の普及と同時に難民の生計向上を目指す

ウガンダで栽培されたネリカ米

田起こしの作業をする農民。アフリカでは畑でコメを栽培する陸稲が多い(撮影:篠田有史)

ウガンダの主食はメイズ(トウモロコシ)やキャッサバ(イモ)だが、味の良さや調理の容易さなどから、都市部を中心に2000年前後からコメの需要が急速に拡大。消費が生産を大きく上回っており、アジアからの輸入に依存している。そこでウガンダ政府は政策としてコメの生産高を2008年の18万トンから、2018年までに68万トンに増やす生産目標を掲げている。

ウガンダでのJICAの稲作技術の普及支援は、2004年の専門家の派遣に始まる。その専門家とはPRiDeの稲作技術上級アドバイザーであり、「ミスターネリカ」の愛称で親しまれる坪井達史専門家だ。以降、坪井専門家や同じくPRiDeのチーフアドバイザーである時田邦浩JICA国際専門員が中心となって、アフリカの風土に適したネリカ米(注3)の試験・研究、普及に携わる人材を育成してきた。

2008〜2011年には「ネリカ米振興計画」と「東部ウガンダ持続型灌漑(かんがい)農業開発計画」を実施し、現地に適した稲作技術の開発と普及を行うことによって、農家の収入向上やウガンダのコメ生産量の増加を目指した。前身の二つのプロジェクトを統合して、実施中のPRiDe(2011〜2016年)は、技術開発、普及のスケールアップに加えて、マーケティングやコメの品質向上にも取り組んでいる。これまで55県、計2万人の農民を対象に稲作研修を行い、プロジェクト終了までに4万人の研修を目指す。

ハングリー精神に期待

ウガンダではコメは換金作物だ。PRiDeの活動地域を、ホストコミュニティーに広げることで、ホストコミュニティーの食料の安全保障に貢献するとともに、農民の生計向上も目指すことができる。そこで6月から7月にかけて、南スーダンからの難民が多い北部1県とコンゴ民主共和国からの難民が多い西部の2県で12回、ホストコミュニティー住民と難民合わせて360人を対象に、ウガンダ政府が国有地を提供する形で稲作研修を実施した。

1枚にわかりやすくまとめられた教材を使って研修を行う後藤専門家(中央)

その中心となって活動したのが、ウガンダで6年間、稲作の普及に携わってきた後藤明生JICA専門家だ。「まずUNHCRが支援するホストコミュニティーの中から、稲作に適した地域を選定するところから始め、作付けの時期(雨期)に間に合うように研修を計画した」と語る。

1ヵ所での研修は、定員50人で半日程度。ネリカ米の特徴などの講義と種のまき方などの実習が組み合わされている。受講者にはPRiDeで作成した農家向け稲作教材と、ネリカ米の種子1キログラムを無料で配布。「1キロの種子から、50キロのネリカ米が収穫できる。そのうち2キロを近所の栽培希望農家に配布するように依頼している。『倍返しの約束』は坪井専門家が長年続けてきた普及方針」と後藤専門家は説明する。

コンゴ民主共和国の人々の主食はコメ。西部で研修を受けたコンゴ民主共和国の難民は「ウガンダではコメはぜいたく品。難民になってからは入手することが難しかった。これからは自分でコメを作って食べることができる」と大喜びした。また「自国で使っていた種は収穫まで6ヵ月かかった。120日で収穫できるネリカ米はすごい」との声も上がった。

北部で研修を受けた南スーダンからの難民は「これまでメイズやキャッサバを栽培してきたが、お金を得ることはできなかった。稲作なら家族に十分な食料を確保した上で、現金収入も得られる。子どもの就学費用になればうれしい」と生計向上に対する期待を語った。

「今回の研修では、的確で詳細な質問が次々に飛び出し、難民の人たちのハングリー精神に圧倒された。新しい技術を学びたいと目を輝かせる人々に技術を伝える経験は専門家冥利(みょうり)に尽きる」と後藤専門家は目を細める。

現在、UNHCRが今回の取り組みの成果をモニタリング中だが、その結果を踏まえて、長期化した難民の自立とホストコミュニティー住民の生計向上とを支援する新たな研修の実施を検討していく。

5月に作付けした稲は収穫を終え、8月の作付け分が、今、収穫の時期を迎えている。「アフリカのためのコメ」と名付けられたネリカ米——。ウガンダでその栽培技術開発と普及のために行われてきた地道な協力が、難民とホストコミュニティー住民の希望の種子となるよう、PRiDeによる稲作技術普及の取り組みは続く。 


(注1)世界各地の難民の保護と支援を行う国連機関。スイスのジュネーブを拠点に1951年に活動を開始。
(注2)Promotion of Rice Development Project。
(注3)New Rice for Africaの略。高収量のアジア稲と病気・雑草に強いアフリカ稲の交配によって1994年に開発された稲のこと。