「エボラ出血熱への対応は、チームワークで取り組むべき国家的闘い」(リベリア)

−日本で学んだ研修員が奮闘−

2014年11月18日

西アフリカのエボラ出血熱発生国(セネガルとナイジェリアはWHOが終息宣言:11月11日現在)

世界保健機関(WHO)は、西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱について、疑いを含む感染者が計1万4,413人、死者は5,177人に達したと発表した(11月11日現在)。感染被害が最も深刻といわれるリベリアでは、エレン・ジョンソン=サーリーフ大統領が8月に発令した非常事態宣言の解除を13日に発表したが、いまだ予断を許さない状況だ。流行拡大防止への喫緊の国際的支援態勢が求められる一方で、現地の混乱ぶりを伝える報道が多く見られる中、リベリアで日々患者と接しながらエボラ対応に取り組んでいるJICAの元研修員がいた。

病気を受け入れられない人々と医療機材不足の中で

クリニックで働くニコラス・ブリディさん

2007年以降、日本やアフリカ諸国で学んだリベリアの保健関係のJICA研修員は、約100人に上る。その一人である看護師のニコラス・ブリディさんは、リベリアの首都モンロビア市の西にある貧しい人々が住む地区、クララタウンの州立クリニックに2014年9月まで勤務していた。ブリディさんはコミュニティーの症例調査も担当していたが、この地区では8月からエボラ出血熱の感染者が激増し、9月だけでも10人以上がクリニックで亡くなった。ブリディさんが知らせを受けて駆け付けたときには、すでに亡くなっていた人もいた。

リベリアでは、国境なき医師団(MSF)をはじめとするNGOと州が協力して、エボラ予防の啓発活動を進めているが、病気の存在をいまだに受け入れられない人が多くいる。検査や隔離を勧めると、「病院に入れられると、臓器売買のために肝臓を切り取られる」と言って抵抗する人も少なくない。

ブリディさんがいたクリニックには、朝から多くの人たちが訪れた。ピストル型の非接触体温計で検温後、熱があれば別室で診察を行った。エボラ出血熱の症状が認められたり、家族をエボラ出血熱と思われる病気で失ったりしている場合は、隔離を勧めた。

医療機材不足は深刻で、約4万8,000人が住むこの地区のクリニックには、非接触体温計は一つしかなかった。防護服も不足し、救急車もなかった。隔離病棟のある市内の病院では、いずれも1日数十人の新規患者を受け入れており、病床不足で入院できないケースもあった。まさに地域中がこうした対応に追われる状況にあって、通常なら緊急対応がとられるべきマラリアなど他の感染症のケアまで手が回らないという。

感染を恐れて医療従事者が現場から離れていく

エボラ出血熱患者に直に接している医療従事者の状況も深刻だ。感染のリスクを抱えながら長時間働く関係者たちが、手当ての増額を求めて9月14日、ストライキに踏み切った。毎日、助けを求めにクリニックに来る人を見ていたブリディさんは、他の看護師たちと相談してストライキに賛同したものの、クリニックは閉めずに治療を続けた。8月以降は感染者が激増したため、休日も働き、「I was just putting all my time. (自分の時間のすべてを捧げた)」と言う。

感染を恐れて病院から逃げ出す医療従事者もいた。その中で、ブリディさんは看護師のリーダーとして医師不在のクリニックを守った。いったんはクリニックに残ったものの、その後来なくなる看護師もいたため、同僚には毎日のように現場に残ることの大切さを説いた。

人口の多いスラムではもともと妊産婦の患者が多い。出血から感染することを恐れる医療従事者の診療拒否が原因で、妊婦が亡くなるという事件が起きた。ブリディさんのクリニックでも妊婦の診療を恐れるスタッフがいたため、彼は防護服をつけて何人ものお産を手伝った。ブリディさんの元上司で、母子保健を専門とする女性医師は、現在モンロビア市のエボラ隔離病棟に勤務している。彼女の話では、知り合いの医療従事者も、すでに何人か亡くなっているという。ブリディさんは、現在最も必要な支援は、「一に防護服、二に医療従事者や、親を亡くした子どもたちのための心のケア」と言う。

研修で培った自信が、医療スタッフにチームワークをもたらした

西アフリカ保健機構(WAHO)の奨学生としてガーナ大学で学んでいる

こうした状況の中で、ブリディさんがクリニックの数十人のスタッフをまとめることができたのは、2013年に日本で受けた研修「アフリカ地域 周産期・新生児・小児保健医療」で自信をつけたことが大きく貢献している。

多くの医療従事者が、いつ自分が感染してしまうかわからない危険な環境を恐れ、よりよい報酬を求めてクリニックを去る中で、率先して休みも取らずに患者を診ることで、医療従事者としての在り方を同僚たちに示した。「エボラ出血熱への対応は、一人ひとりが協力し合って取り組むべき国家的闘い」というブリディさんの姿勢が、クリニックのスタッフにチームワークをもたらし、地域に希望を生み出した。「JICAの研修で学んだのは、チームワーク。エボラ対応でも、無力な個人がチーム力で病気に勝つことを信じてがんばった」と言う。

エボラ対策に追われるようになるより前に、ブリディさんは地域住民向けの啓発活動や母子保健、家族計画、栄養などについて語り合うトレーニングセッションを自主的に開催して研修の成果を生かしていた。週末にはタウンホールで地域住民への啓発活動を行い、ウィークデーは曜日ごとにテーマを決め、地域の女性たちが参加できる時間に報告会を開いた。

リベリアの医療分野の研修員は、日本やアフリカで母子保健、院内感染予防、病院管理などの研修を受けている。研修後帰国した研修員たちは研修の成果を生かして勤務に当たるとともに、ブリディさんと同様、エボラ対策に携わる人も多い。その数は、首都モンロビアのあるモンセラード州だけでも数十名に及ぶと見られる。

現在ブリディさんは、さらなる貢献を目指して、9月末からガーナ大学に留学し、医療関係の修士課程で勉強中。将来はリベリアに戻り、モンロビア市内の病院で働く予定だ。