【国際協力60周年】国際協力60周年記念シンポジウム開催——日本のODAに期待される役割を考える

2014年11月21日

2014年は、日本が政府開発援助(ODA)を通じて国際協力を開始してから60年に当たる節目の年。それを記念する国際協力60周年記念シンポジウム「成長と貧困撲滅−日本のODAに期待される役割」が、外務省とJICAの共催により2014年11月17日、イイノホール(東京都千代田区)で開催された。

シンポジウムでは、岸田文雄外務大臣(中根一幸外務大臣政務官による代読)、ヘレン・クラークUNDP総裁が基調講演を行ったあと、フィリピンのアルバート・デル・ロサリオ外務大臣、ケニアのマイケル・カマウ運輸・インフラ長官、JICAの田中明彦理事長、ブルッキングス研究所のジョン・ペイジ・シニアフェローがパネルディスカッションに参加し、議論や質疑応答を行った。ディスカッションのモデレーターは道傳(どうでん)愛子NHK解説委員が務めた。

時代とともに変化するODAの役割

岸田外務大臣の基調講演を代読する中根外務大臣政務官(左)と、あいさつする岸田外務大臣

開会のあいさつに続き、第1部では岸田外務大臣と国連開発計画(UNDP)のクラーク総裁による基調講演が行われた。

まず、岸田外務大臣基調講演を中根外務大臣政務官が代読した。テーマは「新たな時代の開発協力−平和国家・日本の目指すもの」。外務省は2014年3月にODA大綱の見直しを発表し、大綱改定に向けた検討を進めているが、「ODAが重視してきたのは、開発途上国と同じ目線に立ち、自助努力を促すこと。現在は途上国への民間資金の流入がODAを上回るなど、ODAに求められる役割は変わってきている。今後、民間投資が途上国の成長を促していけるよう、ODAは民間投資を呼び込むとともに、民間投資の質を高める触媒としての役割が求められる」と述べた。

その後、登壇した岸田外務大臣も、「日本のODAが果たしてきた役割は大きいと自負しているが、日本も、日本を取り巻く環境も大きく変化している。それに合わせてODAも進化を遂げ、国内外の期待に応えていかなければならない。新たな開発協力大綱は、平和国家日本が目指す開発協力の在り方と決意を示すものである」と、あらためてODA大綱の見直しの意味を強調した。

成長の果実をすべての人に

UNDPのクラーク総裁は、日本とUNDPが連携したプロジェクトを高く評価

続いて、UNDPのクラーク総裁が「ODAの役割とポスト2015年開発アジェンダについて」と題して講演を行った。わが国は、2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)(注1)の達成に向け、UNDPと連携してさまざまな開発課題の解決に取り組んできた。クラーク総裁は「日本の質の高いODAが途上国開発の推進力になってきた。MDGs達成においても、さまざまな分野で重要な役割を果たしている」と日本の取り組みを高く評価した。

MDGsの達成で多くの人が貧困から抜け出た一方で、いまだ開発から取り残されている人も多い。クラーク総裁は人間中心の開発の重要性を指摘した上で、「ポスト2015年開発アジェンダ(注2)を、普遍的ですべての国と地域に適用できるものにするためには、これまでよりも大胆で革新的な行動計画が必要になる。貧困を撲滅し、成長という果実をすべての人に行き渡らせるためには、支援の質が重要。そのために、UNDPは今後も日本とパートナーシップを組み、課題の解決に取り組みたい」と語った。

国際協力60年の歴史を振り返る

「人と人とのつながりが国際協力の基本」と強調するJICAの田中理事長

第2部は、NHKの道傳解説委員をモデレーターに、「日本の国際協力と期待される役割」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。

JICAの田中理事長は国際協力60年の歴史を、戦後の日本と国際社会のかかわりの歴史ととらえ、その中で国際協力がどのように展開されてきたかを振り返った。日本の国際協力の歴史は、大きく三つに分けられる。第1期は、戦後賠償から援助に至り、国際社会への復帰を遂げた1950年代半ばから70年代半ば。第2期は、経済大国となった日本が国際協力を拡充させ、日本型のODAをつくり上げた1970年代半ばから90年代半ば。そして第3期は、冷戦の終結と経済のグローバリゼーションの中で、日本型の新たな協力を展開していった1990年代以降だ。

田中理事長は「第1期、第2期はインフラ整備や農業支援が主流だったが、今は、人間の安全保障にかかわる保健・衛生、教育、平和構築などの占める割合が大きくなっている。さらに、一村一品運動、母子手帳、カイゼン、5Sなど、日本ならではの技術協力の重要性も増している」と振り返った上で、「こうした変遷からわかるのは、日本の国際協力の特徴が、相手国のオーナーシップや自助努力の尊重、人と人とのつながりの重視、経済成長を通じた貧困削減にあるということ。また、日本の技術や経験をそのまま適用するのではなく、相手国の立場に立った支援が重要である」と語った。

科学技術分野での日本の支援に期待

日本とのパートナーシップを「より革新的なものに」と話すフィリピンのデル・ロサリオ外務大臣

フィリピンのデル・ロサリオ外務大臣は、長年にわたる日本とフィリピンのパートナーシップに言及した。フィリピンにとって日本は、二国間経済連携協定を締結している唯一の国であり、最大の貿易相手国でもある。「日本の援助は非常に質が高い。相手国の自助努力と自発性を重視するという原則を守りながら、継続的な支援を続けている。気候変動や自然災害と戦う力も、わが国は日本の支援により得ることができた」と、これまでの日本の支援に感謝した。

また、今後、日本のODAに期待するものとして、科学技術分野の人材育成への支援を挙げた。「東南アジアの地域統合が進む中で必要となるのは、国際的な競争力。そのために、エンジニア、科学者など科学技術分野での人材の育成にぜひ力を貸してほしい」と訴えた。

技術開発、人材育成のスキルアップへの支援を

「安全性の確立にもインフラ整備は不可欠」と訴えるケニアのカマウ運輸・インフラ長官

ケニアのカマウ運輸・インフラ長官は、日本のODAがこれまでアフリカにもたらしたものを振り返り「日本のODAはアフリカの各国政府に、成長できるというモチベーションを与えた。他の国や組織が手本とすべきモデルだと考える。今後は、技術開発や人材育成など、スキルアップを重視した支援に期待している」と語った。

また、日本主導で1993年から2013年まで5回にわたって開催されているアフリカ開発会議(TICAD)の成果として、道路や橋などのインフラ整備を挙げ、「隣国のウガンダやタンザニアは、ケニアにとって最大の貿易相手国。国と国、都市と郊外を結ぶ輸送の大動脈が整備されたことで、経済活動が活発になり、医療や教育へのアクセスも向上した。一国だけでなく周辺国も安定し豊かになること、それがアフリカ全体の平和と安定につながっていく」と述べた。

相手国を「信じる」日本の支援

「アフリカの経済成長に貧困の削減が追い付いていない」と指摘するブルッキングス研究所のペイジ・シニアフェロー

ブルッキングス研究所のペイジ・シニアフェローは、アジアにおける日本の経験をアフリカに生かすために何が必要かを分析した。アフリカは年5パーセントのGDP成長率を維持するなど経済成長が目覚ましいが、一方で、貧困の削減や雇用の創出などはアジアに比べて遅れている。「これは、アジアの成功例がそのままアフリカに当てはまるものではないことを示している。アフリカの開発援助に際しては、アフリカとアジアの構造が違うことを理解する必要がある」と指摘した。

その上で、アフリカの開発に必要な要素は、その国の人々が、戦略、スキル、知識を持つことだと述べた。「これはまさに、日本の国際協力が得意とするもの。つまり『その国を信じる』ことだ。失敗例もあると思うが、日本は国際協力の初期の段階から、相手国の自助努力を重視し、その国を信頼するというやり方を採ってきた。また、JICAが持つ中小企業のマネジメントや研修のノウハウは非常に優れており、今後、日本がアフリカ援助のリーダーとなることを期待している」と語った。

国際協力の疑問にパネリストが答える

モデレーターを務めたNHKの道傳解説委員

その後、会場からの質問にパネリストが答えた。

「日本のODAはインフラ支援に偏っているのではないか」という質問に対して、JICAの田中理事長は「円借款は確かにそう見えるが、技術協力や無償資金協力はそれ以外の支援も多い」とした上で、「ただし、多くの開発途上国にとって、インフラ整備は経済発展の基礎であるとともに、保健や教育へのアクセス向上のために非常に重要だということを理解してほしい」と強調した。

「円借款は相手国にとって有益なのか」という質問には、カマウ長官が「ケニアのモンバサ空港は、日本の支援によって整備事業を進めることができた。地方との連結性に乏しいケニアにとって、インフラ整備は教育や医療にとっても重要な課題だ」と円借款の有益性を説明した。

BOPビジネス(注3)の展望、そして日本が期待される役割についても質問が寄せられた。ペイジ・シニアフェローは「世界銀行の試算によると、アフリカのインフラ整備には930億ドルかかるといわれている。それを整備し、世界との大きなギャップを埋めるためには、クリエイティブなアイデアが必要。そこに、BOPビジネスの可能性がある」と語った。田中理事長も「ODAの資金は限られている。インフラ整備を進めるために、BOPビジネスによる民間企業の知恵と資金の活用が必要だ」と答えた。

「学生にできる国際協力は何か」という質問には、「青年海外協力隊、大学のインターンシップなどいろいろある。貧困の撲滅、紛争の解決、感染症の予防など、世界が直面する困難な課題に関心を持つことも、その第一歩となる」(田中理事長)、「まずは勉強すること。途上国の歴史に関心を持ち、勉強して、学生同士で議論してほしい。そして次の段階として、実際に途上国に行ってほしい」(ペイジ・シニアフェロー)、「まずはアフリカに興味を持ち、アフリカのことを知ってほしい。ステレオタイプな考えにとらわれず、自分の目で見て理解を深めてほしい」(カマウ長官)と、若い世代の活躍に期待を寄せた。

最後に道傳解説委員が「この60年間で世界のパワーバランスは変化し、援助の在り方も変化している。60年という節目に国際協力の在り方を考えることは、日本が国際社会とどうかかわるのかを考えることでもある。今日の話はその議論を深めていく上で非常に有意義だったと思う」と語り、シンポジウムを締めくくった。

(注1)2015年までに国際社会が達成すべき八つの開発目標。
(注2)MDGsの2015年以降の枠組み。
(注3)途上国の低所得層が抱えるさまざまな課題解決に役立つことが期待されるビジネス。


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