防災・復興がつないだ兵庫と世界――阪神・淡路大震災復興20年特別シンポジウムを開催

2015年1月20日

国内外の防災関連機関が集積する神戸市東部新都心「HAT神戸」は復興の象徴。JICA関西はその一角にある

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から20年――。震災は死者6,434人、行方不明者3人、負傷者4万3,792人、住宅の全半壊約25万棟のほか、道路、橋などの損壊、崖崩れなどの甚大な被害をもたらした。

震災直後、JICAでは国際緊急援助隊事務局が、登録する医療関係者を派遣するなどして被災地を支援。その後、2007年に兵庫県と共同でJICA関西(当時はJICA兵庫)内に設立した「国際防災研修センター(DRLC)」で開発途上国の行政官などを対象にした研修を実施し、延べ100ヵ国、2,000人以上に震災の教訓を伝えてきた。

震災から20年の節目に、追悼式典をはじめさまざまなイベントが行われる中、JICAは公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構、兵庫県と共に、18日、阪神・淡路大震災復興20年特別シンポジウム「災害の教訓とこれからの国際協力−防災・復興がつないだ兵庫と世界−」を開催した。

JICAの田中明彦理事長は17日、シンポジウムに先立って神戸入りし、兵庫県公館で行われた追悼式典に参列した後、市内の会場に移動し、「国際防災・人道支援フォーラム2015」に登壇した。

田中理事長が「国際防災・人道支援フォーラム2015」で登壇

国際防災・人道支援協議会(DRA)(注1)が主催する「国際防災・人道支援フォーラム2015」は、DRA設立以降、毎年開催され、国際的な防災や人道支援活動の貢献に関して討議している。2005年に「第2回国連防災世界会議」で採択された「兵庫行動枠組(HFA)」(注2)から10年の節目の今回は、「レジリエントな社会を目指す取り組みの軌跡と展望」と題して、10年間の成果発表と、2015年以降のHFA後継枠組に対する提案などについて議論した。

吉本知之兵庫県副知事のあいさつの後、DRAの構成機関である世界保健機関(WHO)神戸センター、アジア防災センター、兵庫県こころのケアセンター、国際復興支援プラットフォーム(IRP)が、それぞれHFA推進への取り組みを発表した。

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左から河田センター長、ワルストロム特別代表、田中理事長

続いて、マルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連国際防災戦略事務局(UNISDR)ヘッドが特別講演を行い、HFAの実施状況を報告するとともに、3月に仙台で開催される「第3回国連防災世界会議」で採択予定の後継枠組の課題などについて述べた。その後、人と防災未来センターの河田惠昭(よしあき)センター長、JICAの田中理事長と共に、「レジリエントな社会を目指して」と題した鼎(てい)談を行った。

田中理事長は、JICAの防災分野の取り組みに関して、災害直後に人的、物的支援を行う国際緊急援助隊の活動や、専門家の派遣、長期的な視点で途上国の防災対策で重要な役割を担う人材を育成するDRLCの研修、無償資金協力による建築物の復旧を紹介した。さらに円借款による「災害復旧スタンドバイ借款」(注3)などの新しい取り組みにも言及し、開発のあらゆる側面に防災の支援を組み込む「防災の主流化」を推進していることを強調した。

河田センター長は、2002年の設立以来、600万人以上が来場した「人と防災未来センター」をはじめ、DRAのこれまでの取り組みについて紹介。ワルストロム特別代表は、基調講演で語ったHFA後継枠組への国連の取り組みに加えて、多くの国、機関がかかわる防災分野で、防災用語の標準化を図る必要性を訴えた。

鼎談の総括として、「防災・減災に特効薬はない」といわれることから、世界中で発生する災害が頻発化、巨大化する中で、国などの公的セクターに加えて、企業や大学、NGOなどのマルチセクターが連携し、防災・減災の対策や研究を続けていくことの重要性を確認した。

災害の教訓とこれからの国際協力を考える

「しあわせ運べるように」を作詞・作曲した臼井真教諭(左から二人目)と西灘小学校の合唱団

18日のシンポジウムは、阪神・淡路大震災の教訓を振り返るとともに、DRLCが実施した研修事業を通して、その教訓が海外にどのように伝えられ、生かされているかについて、帰国研修員(注4)が発表し、今後の防災分野の国際協力の在り方について討議した。防災関係機関やNGO、企業、大学、地域で防災に取り組む人々など約200人が参加した。

午前の部は、神戸市立西灘小学校の児童による、震災2週間後に生まれた歌「しあわせ運べるように」の合唱で幕を開けた。

開会のあいさつには、ひょうご震災記念21世紀研究機構の五百旗頭真(いおきべ・まこと)理事長が当たり、日本の防災対策や災害時の支援の歴史について語った。主催者代表の井戸敏三兵庫県知事は、2013年、兵庫県とJICAが包括的な連携協定を結んだことに触れ、「創造的復興」(注5)を進めてきた20年間の実績を紹介し、今後はその教訓を風化させないことが課題であると述べた。来賓代表のワルストロム国連事務総長特別代表は、日本の取り組みが世界の防災対策に大きく貢献していることを強調した。

知見の共有と人的ネットワーク形成を通じた防災・減災の促進に取り組みたいと述べた田中理事長

続いて、JICAの田中理事長が基調講演を行い、人間の安全保障と防災の関係や国際的な防災の趨(すう)勢に触れ、直面する課題とJICAの取り組みについて語った。

災害は人間の安全保障を根幹から脅かすものであり、近年の世界的な災害の多発化、大規模化は、自然現象だけではなく、都市化やグローバリゼーションなどの社会システムと関連があり、国際社会における防災への関心が高まっているとした。その上で、「2015年はHFA後継枠組の採択に加えて、環境問題を含めた新たな開発課題であるSDGs(注6)が採択される予定。その中に防災の視点をどう位置付けていくかが大きな課題」と述べた。

また、直面する課題に対するJICAの取り組みとして、「防災の主流化」を挙げ、防災の視点を、社会・経済開発にかかわる全セクターの中に組み込んでいくことを推進していることにも触れた。

そして、強靭な社会を構築し、災害リスクを軽減するための新しい取り組みとして、防災分野への適正な投資を促す必要があるとし、特に途上国での防災投資を促進するため、投資の効果を定量的に示す経済モデルを開発していることを紹介した。また2013年11月に発生した台風30号(フィリピン名:ヨランダ)で被災したフィリピンを例に挙げ、JICAも支援して策定された復興計画では、災害に強い社会を構築する「Build Back Better」が方針として打ち出されており、JICAはその方針に沿った支援を展開していること、また、2014年3月にフィリピン政府と、復旧、復興に迅速に着手するための効果的な支援方法である「災害復旧スタンドバイ借款」に調印したことも紹介した。

「国際的な防災・減災対策の展開に当たり、人づくりは極めて重要。兵庫県や神戸市をはじめ、関係各団体の協力を得ながら、防災分野における知見の共有、人的ネットワークの形成を一層促進し、開発途上国とわが国の防災・減災の促進に寄与していきたい」と講演を締めくくった。

海外で活用された阪神・淡路大震災の教訓

午後の部は、JICAの防災関連の研修を受けた帰国研修員の自国での活動を紹介する映像の上映から始まった。

ブルサ防災館の設立について発表するトルコのハルプット内務省大臣官房知事

続いて、阪神・淡路大震災の教訓が海外で活用されている事例を、JICAの帰国研修員5人が報告した。トルコのシャハベッティン・ハルプット内務省大臣官房知事は、内務省次官だった2006年、人と防災未来センターなどの防災関連施設を日本で視察し、その後、ブルサ県知事に就任してから、同センターをモデルとした防災館を同県に設立したことを紹介した。

中国の龍迪(ロン・ディ)中国科学院心理研究所主任は、2008年に発生した四川大地震後、2009〜2014年にJICAが実施した「四川大地震復興支援こころのケア人材育成プロジェクト」に参加し、兵庫県こころのケアセンターで研修を受けた帰国研修員の現地での活動の様子や、被災地で「こころのケア」に従事する人材を多数育成した経験を語った。

チリのサエズ・ボリス・タルカワノ市リスク管理課課長は、2013年に神戸市消防局の協力で実施したコミュニティー防災研修を受けた後、市役所内にリスク管理課を立ち上げ、2014年には教育省と連携して、市内の小学校を対象とした防災意識啓発活動を実施したことを報告。今後も啓発活動を継続していくことを強調した。

発表に聞き入る各国の帰国研修員

フィリピンのパンガニバン・イサイアス・ジュニア・メンドーサ・パンパンガ州グァグァ町議会事務局長兼グァグァ町防災会議顧問は、2012年に公益財団法人神戸都市問題研究所の協力で実施した研修で、阪神・淡路大震災後の復興過程でまちづくり計画を行政と住民が一緒になって策定した事例を学んだことを生かし、グァグァ町の住民自助組織を強化する取り組みを実施した事例を報告。現在、他の自治体でも同様の取り組みが検討されていることを発表した。

インドネシアのノール・イスロディン国家捜索救助庁レスキュートレーニングセンター長は、2006年に大阪市消防局の協力で実施した救急救助技術の研修を受け、その技術を庁内の救急救助従事者に指導するとともに、2011年の東日本大震災発生時に、被災地でレスキュー隊として活動したことを語った。現在は救急救助の技術と知識をインドネシア全土に普及する活動に注力しているという。

防災は「失敗から学ぶ」ことが重要

発表に続いて、防災分野の第一線で活躍する有識者とJICAの研修協力機関の代表によるパネルディスカッション「国際協力を通じた防災人材の育成について」が行われた。

兵庫県国際交流協会の齋藤富雄理事長をコーディネーターに、神戸市消防局の岡田勇局長、人と防災未来センターの河田惠昭センター長、兵庫県こころのケアセンターの加藤寛センター長、神戸学院大学の清原桂子教授、JICAの不破雅実地球環境部長がパネリストとして登壇。防災に関しては「失敗から学ぶことが多い」ことから、成功事例だけでなく失敗事例も交えながら、登壇者と会場が一体となって、ざっくばらんに本音で語りあった。

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左から齋藤理事長、岡田局長、河田センター長、加藤センター長、清原教授、不破部長

震災の教訓を海外に伝える活動での苦労話や成果が語られる中、参加者は息の長い支援活動には、現地の人材育成が必要であるという点で一致した。不破部長は「これまでの研修を通じて、途上国で多くの貴重な人材が生まれている」と語り、その大きな成果として、2004年のスマトラ沖大地震・インド洋津波の後、日本の支援でインドネシア、フィリピン、スリランカなどで防災を担当する省庁が発足し、JICAの帰国研修員がその組織の中心となって活躍している例を挙げた。また「2015年以降のHFA後継枠組に向けた取り組みとして、防災分野における女性リーダーを育成するための研修などを検討している」と述べた。

会場の帰国研修員から「災害の大規模化、多発化に対してどのように対応していくのか」などの質問が上がると、壇上から「起こってからの対応ではなく、これから起ころうとすることへの対応、事前準備が重要であり、そのための取り組みや研究が進められなければならない」との回答があった。

閉会のあいさつで五百旗頭理事長は、帰国研修員が発表した各国の現場での取り組みは大変刺激になったと語り、日本の防災の知見を世界共有の財産とするためには、成功も失敗も含めて声高に発信していく努力が引き続き必要であると訴えた。

JICAはシンポジウムでの討議や提言を踏まえて、阪神・淡路大震災などのさまざまな災害の教訓を積み上げてきた日本の防災の知見を、国連防災世界会議などの国際会議の場を通じて発信していくとともに、今後も国内の関係機関の協力による防災研修などを通じて、途上国の防災能力の基盤となる防災人材の育成に取り組んでいく。


(注1)国際防災・人道支援協議会(DRA:Disaster Reduction Alliance)は、神戸市東部新都心を中心に立地する機関が、国際的な防災・人道支援活動に貢献することを目的として、2002年10月に設立された組織。人と防災未来センター、兵庫県、アジア防災センター(ADRC)、JICA関西、国際防災復興協力機構(IRP)、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)駐日事務所、国連人道問題調整事務局(OCHA)神戸事務所、世界保健機関(WHO)健康開発総合研究センター、ひょうご震災記念21世紀研究機構(Hem21)をはじめ18の機関で構成されている。
(注2)兵庫で行われた第2回国連防災世界会議で採択された、災害に強い国・コミュニティーの構築を目指す2005〜2015年までの行動枠組。
(注3)災害後の復旧における資金ニーズに迅速に対応するため、あらかじめ契約を締結し、準備をしておく借款。
(注4)日本でJICAの研修を受けて帰国した元研修員のこと。
(注5)故・貝原俊民前兵庫県知事が推進した阪神・淡路大震災の復興政策。その理念はJICAが進める「Build Back Better(よりよい復興)」の開発手法に受け継がれている。
(注6)持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)。2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で、地球環境の視点から見た開発目標として、ポスト2015開発アジェンダに統合することが合意された。