西アフリカのエボラ出血熱対策の拠点として(ガーナ)

2015年2月10日

西アフリカのエボラ出血熱発生国(WHO発表)セネガル、ナイジェリア、マリでは終息

2014年8月末から西アフリカで猛威を振るっているエボラ出血病。セネガル、ナイジェリアに続き、比較的被害が小さかったマリでは、1月18日に終息宣言が出された。計8,000人以上の死者を出しているリベリア、 ギニア、シエラレオネでは、世界保健機関(WHO)の発表(1月28日付)によると、3ヵ国での1週間の新規患者数が初めて100例を切り、感染のペースは落ちているものの、いまだ深刻な状況が続いている。

発生国の周辺に位置するガーナは、リベリア、シエラレオネ、ギニアにおけるエボラ対策の重要な拠点となっている。国連は「国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)」(注1)本部をガーナに設置し、西アフリカでのエボラ対策を統括しているほか、日本や各国から送られてくる緊急援助物資の経由地となっている。在ガーナ日本大使館、JICAガーナ事務所は、リベリア、シエラレオネも管轄していることから、両国の支援に尽力している 。

ガーナでは今回の流行でエボラ出血熱の発生は報告されていないが、国境をまたいだ人の往来が多いことから、エボラ出血熱の感染リスクの最も高い国ともいわれている(注2)。これまでガーナ全土から集められた100件以上の感染の疑いがある患者の血液サンプルを検査しているのは、35年前に日本の支援で建設されたガーナ大学野口英世記念医学研究所(通称:野口研)だ。

ガーナで引き継がれる野口英世の志

日本の無償資金協力で建設された野口研(写真:久野武志)

千円札の肖像でおなじみの野口英世は、今から100年ほど前に単身でガーナに赴き、黄熱病の研究に貢献したが、自らも黄熱病に感染して、ガーナで生涯を閉じた。その功績に敬意を表して、35年前、野口研は基礎医学研究所として日本の無償資金協力で建設された。

JICAは完成した研究所で複数の感染症対策の技術協力プロジェクトを展開し、ガーナの基礎医学研究の底上げを支援した。今日では他の研究機関と共同研究を行うまでに発展し、日本の大学とも交流を持つ。

2010年から、野口研は東京医科歯科大学、長崎国際大学と共同で、JICAと独立行政法人科学技術振興機構(JST)による科学技術協力SATREPS(注3)「ガーナ由来薬用生物による抗ウイルスおよび抗寄生虫活性候補物質の研究」を実施中だ。これまで実施してきたプロジェクトでも、日本の大学の協力を得て専門家を派遣するとともに、多くのガーナ人研究者が日本に留学し、修士、博士などの学位を取得している。

かつて東京医科歯科大学で博士号を取得した野口研のウィリアム・アンポフォ・ウイルス学部長は、WHOのエボラ出血熱に関する緊急委員会のアドバイザーを務めているほか、今回、感染被害の大きいギニアでも技術支援を行っている。

野口研の検査体制を紹介するドキュメンタリー制作を支援

野口研コラム所長に検査時に着用する防護服を手渡す吉村馨(かおる)在ガーナ日本大使。左から二人目がアンポフォ・ウイルス学部長

野口研はガーナ唯一のエボラ出血熱検査機関としてWHOの指定を受けて、ガーナのエボラ出血熱対策に貢献している。ところが一時、周辺住民から、持ち込まれた検体からの感染を心配する声が上がった。

住民の不安を払しょくするために野口研は、研究所内でどのように検査が行われているのかを紹介する約15分間のドキュメンタリー映像を制作。JICAはその制作とガーナ国内での放映を支援した。

映像の中では、ガーナ保健省とWHO現地事務所が、野口研の検査対応能力を保証するコメントを寄せている。また、日本人専門家の派遣やガーナ人研究者の日本での研修など、JICAの技術協力が野口研の研究能力向上に貢献してきたことも紹介され、野口研のコジョ・コラム所長が、長年にわたる日本の支援に対する謝辞を述べる場面もある。この映像はガーナ国営放送のゴールデンタイムに繰り返し放映され、近々、民間の放送局でも放映される予定だ。

予防活動を精力的に実施

ポスターを使って地域住民に予防情報を伝える青年海外協力隊員(中央右)(写真:久野武志)

野口研への支援に加えて、JICAは保健省とその下部機関であるガーナ保健サービスと協力し、「ガーナ国家エボラ対策計画」に沿って包括的な支援を行っている。まずは住民がパニックに陥ることなく適切な予防ができるように、ポスターやパンフレットの印刷を支援した。そのポスターなどを使用して、青年海外協力隊員が現場で予防のための活動を実施中だ。

また、国境地域や医療施設で感染者をスクリーニングするため、128個の日本製の非接触型体温計(直接肌に触れずに体温を測れる機器)を提供した。この体温計はエボラ出血熱の水際対策に貢献していることはもちろん、エボラ出血熱の発生が確認されておらず、現場の危機感が薄いところに導入されたことから、「検疫官や医療従事者のエボラ対策活動への士気向上にも貢献している」とガーナ保健サービスのエラスムス・アゴンゴ政策計画モニタリング評価局長は言う。

研修で非接触型体温計の使用方法を説明するJICAガーナ事務所のスタッフ(正面左)

さらに、ガーナ保健サービスが全国のエボラ対策チームを対象に実施した「エボラ出血熱対策研修」の一部を支援した。研修では、感染の疑いのある人を発見した際の初動対応や、防護服の着脱方法のほか、JICAが供与した非接触型体温計の使用方法も伝えた。

研修を担当するガーナ保健サービスの保健施設内ケア局のゲートゥルドゥ・アボトリ氏は「エボラ出血熱対策研修は緊急を要するものだった。国家予算が極めて厳しい状況の中、JICAの支援のおかげで、エボラ出血熱が発生しても、ある程度対応できる能力を、全国の多数の保健医療従事者や警察官、入国管理員などが身に付けることができた」と述べている。

これらの支援は、現在実施中の保健省とガーナ保健サービスへの技術協力の一環として行われ、現場ではJICA専門家や青年海外協力隊員が支援に当たっている。現在もJICAのエボラ出血熱対策への支援は続いており、国境地域でのスムーズなスクリーニングに貢献するために、日本製のサーモカメラの導入を支援する予定だ。また、感染症対策のJICA専門家が、エボラ対策活動の補強と促進に向けて活動している。

(注1)UN Mission for Ebola Emergency Response 。西アフリカで感染が広がるエボラ出血熱への対応のために2014年9月に国連が設置した。
(注2)米国オンラインニュースサイト「ビジネスインサイダー」2014年10月13日付 記事「Here Are The Countries Where Ebola Is Most Likely To Show Up Next」による。
(注3)地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)。JICA とJSTが連携し、環境、防災、感染症といった地球規模の課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プロジェクト。