アフガニスタンの女性警官として暴力にどう向き合うか——トルコでジェンダー・ワークショップを開催

2015年2月27日

グループワークで意見を交わす女性警察官

JICAは2014年12月23〜25日の三日間、ジェンダー分野の日本人専門家3人をトルコに派遣し、女性警察官の能力強化に向けたワークショップを開催した。アフガニスタン警察の将来を担う、幹部候補の新人女性警察官191人が参加した。

JICA初のアフガニスタン女性警察官支援

研修が行われているトルコのシヴァス警察研修所

治安の問題を抱えるアフガニスタンを支援するため、JICAは近隣のトルコやイランなどに参加者を招いて「第三国研修」(注1)を行っている。2001年のタリバン政権崩壊から14年が経過した今も、紛争が続くアフガニスタンでは、治安の安定は最重要課題の一つだ。治安維持の現場で活躍する警察官を育成するため、アフガニスタンの警察官を対象にトルコで行われている研修に、JICAは日本から柔道講師を派遣し、4年間で2,000人が受講している。本格的なアフガニスタンの女性警察官支援は今回が初の試みだ。

アフガニスタンではドメスティックバイオレンス(DV)や性暴力、セクシュアルハラスメント、幼児婚や名誉殺人(注2)といった「女性に対する暴力」が蔓(まん)延しており、女性の人権と安全が脅かされる状況が続いている。男女隔離などの社会規範が根強く、女性や女児が男性警察官に被害の実態を報告することは難しい。

そのため、女性被害者の相談や保護、病院への付き添い、地域住民の警察に対する信頼を高めるための活動などを担う女性警察官に、大きな期待が寄せられている。一方、女性警察官自身が、働くことに対する偏見や差別、性暴力、セクシャルハラスメントの被害を受けているとの指摘もあり、女性警察官が置かれた現実も厳しい。

日本政府はトルコ政府や国連開発計画(UNDP)などと協力して、女性警察官を対象にした警察業務に関する研修を、2014年11月1日から2015年2月27日にかけてトルコで実施した。

体験を語り合い、「女性に対する暴力」への理解を深める

約4ヵ月にわたる研修のうち3日間を利用して、JICAは「女性に対する暴力を考える」と題したワークショップを開催。参加した女性警察官たちは、日本人専門家による講義や少人数でのグループワークに積極的に取り組んだ。

久保田専門員

田上専門家

石本専門家

ジェンダーと開発を専門とし、アフガニスタン滞在経験もある久保田真紀子JICA国際協力専門員は、「女性に対する暴力の現状や要因」について講義した。久保田専門員は、女性に対する暴力の撤廃に向けた国際的な取り組みを紹介するとともに、女性に対する暴力がアフガニスタンだけではなく、先進国を含めたあらゆる国で発生している普遍的課題であることを示した。

NPO法人女性と子どものエンパワメント関西の理事長でジェンダー分野に詳しい田上時子専門家は、メインファシリテーターとして、社会におけるジェンダー不平等がどのように暴力とつながっているかを、参加者自身に気付いてもらうためのグループワークを行った。各グループの発表の際、ある参加者は「男性はやりたいことを応援されるが、女性は何でも反対される。私も警察官になることを家族から反対された。これも『女性に対する暴力』ではないか」と訴えた。また、自身が暴力の被害者であることを打ち明けた参加者は、そうした体験を踏まえ、警察官として女性に対する暴力の撤廃に向けて行動していくと決意を語った。

ソーシャルワーカーとして長年にわたって女性支援に携わる石本宗子専門家は、暴力被害を受けた女性のトラウマを理解し、警察官として取るべき対応を考えるためのグループワークを行った。意見発表ではどのグループも「被害女性の状況や心情をよく理解した発言を行うこと」「被害者を安心させて話を聞き、精神的な支えとなる取り組みを行うこと」が重要であると強調した。また石本専門家は「女性の働く権利と課題」について講義し、女性が安全に働くための環境整備の必要性とともに、職場でのセクシュアルハラスメントの特徴やその対処方法についても語った。

ワークショップには二人のゲストスピーカーも参加。アフガニスタン内務省ジェンダー・人権・子どもの権利局のヘクマト・シャヒー局長が「アフガニスタンにおける女性への暴力の現状と政府の取り組み」について語り、UNDPの推薦で招かれたボスニア・ヘルツェゴビナ警察のヴェリカ・ゴリジャニン警部補が、世界の女性警察官の活動や女性警察官同士のネットワークの重要性について紹介すると、研修員は熱心に耳を傾けた。

積極的に意志を語った女性警察官たち

専門家の話を熱心に聴く女性警官

ワークショップ実施前には、社会的規範から、女性警察官たちは積極的に発言しないのではとの懸念があった。しかし三日間のワークショップの間に、「女性に対する暴力」に関する理解を深め、警察官として「暴力被害を受けた女性をサポートしていきたい」「女性への暴力防止には地域の有力者からの理解も重要となるので、彼らと話をするような機会をつくりたい」「メディア、学校教育、セミナーなどを通じた女性の権利に関する啓蒙活動を計画し、実施していきたい」などと、積極的に意志を語った。

ワークショップ終了後、参加者から「『女性に対する暴力』についての専門的な知識を得ることができた」「警察に対する住民の信頼を高めるための姿勢や視点を学ぶことができた」といった声が寄せられた。

シャヒー局長は「グループワークを通じて参加者の意見を拾い上げながら、日本人専門家が巧みにまとめ上げていく手法に感銘を受けた。ワークショップは大変有意義であったと感じた。今後も継続していくことが重要だ」と述べた。

久保田専門員は「自らの体験や思いを聞いてほしいと、絶叫に近い声を上げ続ける参加者の姿に胸を打たれた」と言い、「参加者に対して、今後の現場での活動の方向性を示すことができた」と研修の手応えを語った。

アフガニスタンの女性警察官が置かれた状況は依然として厳しいが、ワークショップで得た知見や教訓を生かして、自国の女性の支援に当たることが期待されている。JICAは今後もアフガニスタンの女性警察官への支援を続けていく。


(注1)過去に日本の技術支援を受けた開発途上国の機関が、他の途上国から研修員を受け入れて技術指導を行い、日本はそれを資金面や技術面で支援する援助手法のこと。
(注2)一般的には、婚前・婚外交渉や親が決めた結婚に応じないことなどを理由に、女性が家族への不名誉をもたらしたとして家族から殺害されることを指す。