ソマリアの保健人材育成をエジプトで

2015年4月2日

講義を受けるモハメッド医師(手前から2人目)

ソマリアの首都モガディシュにあるバナディール病院で小児科長を務めるルル・マフムード・モハメッド医師が、エジプトのファイユーム大学(注1)で実施しているアフリカ向け第三国研修(注2)「保健医療サービスの総合的品質管理フェーズ2」に参加した。エジプトにとって、ソマリアからの研修員の受け入れは初めてとなる。

モハメッド医師は研修後「学ぶべきことが非常に多かった。特に品質管理や品質保証の部署をソマリア保健省内に創設する必要性を痛感した。帰国後すぐに、新しい部署の設立を提案したい」と意欲を見せた。

最重要課題は保健人材の育成

東アフリカの「アフリカの角」に位置するソマリアは、1991年に政権が崩壊して以降、内戦状態に陥り、南部をイスラム過激派が支配し、沖合には海賊が出現するなど、混乱の時代が続いた。しかし、2012年11月に21年ぶりにソマリア連邦政府が成立し、現在は国づくりに向けた国際社会の支援が進んでいる。JICAは、治安上の問題から日本人関係者を現地に派遣できないため、政府高官を日本に招いての研修や、ケニアやタンザニアでの第三国研修を通じて、保健や海上保安、道路、水・衛生、農業などにかかわるソマリア政府機関の人材育成を支援している。

ソマリアの保健医療は劣悪な状況にある。ユニセフによると、2013年の5歳未満乳幼児死亡率は1,000人あたり146と、世界で4番目に高い(注3)。下痢や栄養失調などの子どものほか、結核などの感染症患者も多い。こうした状況を改善し、保健システムの再構築を進めていく上で最重要課題とされているのが、保健システムの整備や強化、そして保健人材の育成だ。JICAはケニアの「ニャンザ州保健マネジメント強化プロジェクト」で行われていた研修に、ソマリアからの研修員を受け入れ、第三国研修として「保健リーダーシップ研修」を実施するなど、これまでもソマリアの保健人材の育成に力を入れてきた。

エジプトで行われている「保健医療サービスの総合的品質管理」研修の対象国は23ヵ国(注4)。そのうち2月8〜26日の研修に参加したのは、ソマリアを含むアフリカの8ヵ国からの18人。保健医療従事者の中でも制度管理、病院管理に携わる人を対象に、組織運営に必要なコミュニケーションシステム、リーダーシップ、人材管理、5S-KAIZEN-TQMアプローチ(注5)などの手法を伝え、病院運営の向上につなげることを目指している。過去の研修の講師には、5S実践で成功を収めているスリランカやタンザニアのJICAプロジェクト関係者も招かれている。

祖国のために英国から帰国

修了式に出席したモハメッド医師(左から3人目)。ファイユーム大学、JICA、エジプト外務省の関係者とともに

モハメッド医師が勤務するバナディール病院は、1977年に設立された産婦人科と小児科を持つ病院。内戦で多くの病院が破壊される中、職員や住民によって守られた数少ない病院の一つで、現在は500床のベッドや血液銀行、研究室などを備え、400人のスタッフが医療に従事。小児科では年間1万8,000人の外来患者、6,400人の入院患者を受け入れ、救急患者にも24時間対応している。また、予防接種や子育て相談などにも応じ、貧しい人には無料で診療を行うなど、保健へのアクセス向上にも積極的に取り組んでいる。

モハメッド医師は、内戦が勃(ぼっ)発する前にソマリアで医師の資格を取得した。当時のソマリアでは教育は無償で、女性も能力次第で高等教育を受けることができた。しかし、大学院在学中に内戦が勃発し大学が封鎖されたため、ドイツに留学して博士号を取得。その後は英国で医師として職を得た。欧州に残るという選択肢もあったが、ソマリアに暮らす家族や、医師不足に苦しむソマリアの人々のために活動したいという思いから、2005年、約10年ぶりに帰国した。今でこそ20人の小児科の医師を抱えるバナドール病院だが、モハメッド医師が帰国した直後は、ほかに医師は一人もいない状況だったという。

病院運営のノウハウと研修員との出会いが財産に

講義で発表するモハメッド医師(左奥)

エジプトでの研修についてモハメッド医師は、「医師としての知識と技術はドイツで学んだが、病院運営やマネジメントに関する知識はまったくなかった。中でも、5S-KAIZEN-TQMアプローチを用いた在庫管理の見直しで、支出を大きく削減予定だというファイユーム大学の事例は印象的だった」と振り返った。

また「ここで知り合った人は私の財産。今後も情報交換をしていきたい」と語るモハメッド医師は、アフリカ諸国の研修員とさまざまな課題について話し合ったことは、大きな刺激になったという。「5Sの実践を開始するのは難しくはないが、継続することは難しい。まずは1ヵ所から始め、徐々に拡大していこうと思う。そのためには、モニタリングと評価の実施が重要だ」と、早速ソマリアで実践するための課題も挙げた。

国際社会の支援を受けて復興に向かうソマリアだが、今なお政情は安定しているとはいえず、今後もJICA関係者が現地に入って支援することは難しい。しかし、日本に招いての研修やエジプトでの第三国研修などを通じて、JICAは今後もソマリアの保健人材の育成や、保健サービス提供能力の改善に取り組んでいく。

(注1)エジプトの国立大学。
(注2)ある分野で進んでいる開発途上国が援助する側になり、援助を受ける側の途上国の技術者を集め、開発経験や知識、技術の移転を行うこと。
(注3)シエラレオネ182が一番高く、アンゴラ164、チャド150に次ぐ。
(注4)ウガンダ、エチオピア、エリトリア、ガーナ、ケニア、コモロ、コンゴ民共和国、ザンビア、シエラレオネ、ジブチ、ジンバブエ、スーダン、スワジランド、セイシェル、ソマリア、タンザニア、ナミビア、ブルンジ、マラウイ、南スーダン、モーリシャス、リベリア、ルワンダ。
(注5)5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を定着させ、業務環境を改善することで、生産性やサービスの質の向上、コスト管理、サービスの効率的提供、医療安全、要員の士気の向上、組織としてのモラルの確立など、保健医療施設で必要とされる基本的な経営ビジョンを根づかせることを目指している。「カイゼン」は日本の製造業界に起源を持つ。