キューバへの協力拡大に向けて——トップバッターとして農業省副大臣らが来日

2015年9月14日

キューバにおける農業の現状と課題を説明するペレス副大臣

今年7月、米国との国交を半世紀ぶりに回復したキューバでは、各国要人の訪問が相次ぐ中、新外国投資法が発効し、マリエル新経済特区への外国投資誘致が促進されるなど、今後の開発動向が注目されている。

米国がキューバに対して経済制裁を発動していた間も、JICAは10年以上にわたって同国への農業開発協力を続けてきた。さらなる協力の拡大に向けて、8月15 〜27日、農業省のイダエル・ペレス・ブリト副大臣をはじめとするキューバ政府高官5人を日本に招き、農業関連施設の視察や一般公開セミナーを実施。日本の農業セクターとの関係構築の機会を提供した。これを皮切りとして年内に「保健医療」「運輸交通」「エネルギー」分野の同国政府高官を招く予定だ。

10年以上にわたるJICAの対キューバ農業開発協力

キューバの首都ハバナ郊外の稲作農家。キューバの国民一人当たりのGDPは6,833ドルだ(2013年、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)

JICAのキューバに対する支援は、1960年代から行政官などを日本に招いて行う研修が中心となっている。その中でも「農業開発」の分野は、日本の対キューバ援助重点分野の一つとして位置づけられていることから、JICAは10年以上にわたって、同国の主食である米生産分野を中心に技術協力(注1)を継続してきた。

米生産への支援は、2003年から2006年にかけて実施された「中央地域における持続的稲作技術開発計画調査」に始まる。調査では、米生産の主要地域中部5県(注2)における自由流通米(注3)の生産向上を目標にした計画が策定された。この計画に基づき、優良品種の導入を促進するため、2008〜2010年、2012〜2016年の2度にわたって技術協力プロジェクトを実施し、稲の種子を生産する技術を農家に伝え、米の生産拡大を目指している。並行して、2003年から2007年にかけて同国の農業分野の技術者などを日本に招き、「小規模稲作」をはじめとする研修コースを実施し、約60人の技術者を育成した(注4)。

キューバの食料自給率(カロリーベース)は35パーセント程度で、外貨が不足する厳しい財政の下、食料の多くを輸入に頼らざるを得ない状況にある。また全就労人口の約20パーセントが農業に従事しているが、農業の生産性は低く、土地の効率的な利用ができていない上に、農業従事者の高齢化が課題となっている。このような背景から、JICAは食料安全保障の観点に加え、輸入代替促進のための農産物の生産性向上を目指し、同国農業セクターの課題に対応して協力を継続している。

農業のブランド化・付加価値化の重要性

帯広畜産大学の施設を視察する一行

道の駅で説明を聞くペレス副大臣(左)

来日したキューバ政府一行は、北海道の帯広畜産大学で大規模農業経営や農業のブランド化について講義を受けた後、大学内の農産加工施設などを視察した。広島県や島根県では比較的小規模な米や野菜の生産現場や農事組合法人(注5)を訪問したほか、岡山県や茨城県などでは日本の農業機材メーカーを訪れ、日本の技術や経験に触れた。

ペレス副大臣は日本各地での視察を終え、「日本と同様に農業従事者の高齢化が進むキューバでは、農作業の効率化が課題だ。そのためには旧ソ連時代から使用している農業機材の整備や、農業の機械化が必要となる」と述べるとともに、「農産物加工を通じたブランド化、付加価値化の日本の経験は大変参考になる。この経験をキューバに伝える機会を作っていただきたい」と語るなど、日本の技術に高い関心を寄せた。

また、2006年に日本での研修「小規模稲作」コースに参加した経験を持つテルセ・ゴンサレス・モレラ穀物研究所長は、「農作物の『質』に対する日本の生産者の意識や、農業協同組合や農業関連企業の組織の体制や理念から学ぶ点が多い」と言い、「農業人口の高齢化対策にも、日本のIT技術を駆使した農業の展開も必要となってくるだろう」と話した。

セミナーを通じてキューバと日本企業をつなぐ

新規分野における協力への期待を語るゴンサレス所長

最終日の8月27日、都内で「キューバにおける農業開発協力について」をテーマにセミナーを開催した。ペレス副大臣はキューバにおける農業の現状と開発課題に加え、政府の主要な政策や取り組みを紹介した。ゴンサレス所長は米生産を中心としたJICAの研修や、プロジェクトによる人材育成と技術力向上への貢献と成果を発表した上で、今後は米の加工や米以外の農作物生産における技術移転など、新規分野での協力への期待を語った。

セミナーには、キューバの農業分野への技術協力やビジネス展開を考える商社、農機具や農薬メーカー、メディア関係者など80人以上が参加。「入手が難しいキューバの農業事情について、多くのデータ、情報を得ることができた」といったコメントが多く寄せられた。

JICAは農業分野に続き、「保健医療」「運輸交通」「エネルギー」分野の招へいも予定している。各分野でもセミナーの開催を通じて情報を発信するとともに、キューバの政府関係者と日本のビジネス関係者との意見交換の場を提供していく。

(注1)

(注2)シエンフエゴス県、ビジャクララ県、サンクティスピリトゥス県、シエゴデアビラ県、カマグウェイ県。
(注3)キューバでは管理形態から政府米と自由流通米に区分されている。政府米は、政府の統制を受ける配給米に充当され、「自由流通米」は自家消費不足分を補うことを目的として、個人農家や生産組織により古くから自発的に生産されてきた。
(注4)キューバにおけるJICAの農業分野の取り組みは、『国際農林業協力(2015年9月、Vol.38 No.2.)』(公益社団法人国際農林業協働協会発行)に掲載された「キューバにおける農業−概要とJICAの取り組み」(北中真人JICA農村開発部長著)に詳しい。
(注5)農業協同組合法に基づいて設立される、農業生産の協業を図る法人。組合員は原則として農民で、農業にかかわる共同利用施設の設置や農作業の共同化に関する事業を行うことができる。