【Featuring Africa】ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・アフリカカイゼン

−本間徹JICA国際協力専門員−

2013年5月27日

1984年、ボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロが、BBCニュースで見たエチオピアの飢餓について話をしていたころ、本間徹JICA国際協力専門員(46歳、千葉県出身)(以後、敬称略)は、県立高校に通う高校生だった。しばらくして、近所のレコード店で購入したのが、『ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス』の12インチシングル。当時の英国とアイルランドのスターたちが集結した「バンド・エイド」による、エチオピア飢餓を救済するためのチャリティーソングだった。「これが、私がアフリカに目覚めた一つのきっかけであり、レコードを買うことで初めて社会貢献をしたという意識を持った瞬間でした」

改=change、善=better

【画像】

ザンビア協力隊員時代のカウンターパートだったジュリアス・カオマ氏(右)と15年ぶりに再会。氏が設立した鉄鋼会社(背景)は、ザンビアの将来を担う存在といわれるまでに成長

それから、20数年。本間は、JICA国際協力専門員として、アフリカ南部、ザンビアにいた。民間企業や地場産業の活力を伸ばすことで開発途上国の経済発展に貢献することを目指す「民間セクター開発」を専門とし、これまで多くの中小企業振興、産業政策支援、投資環境整備や貿易投資促進などの協力に携わってきた。最近では、アフリカ諸国のカイゼン協力をリードするなど、1年の半分以上は、アフリカを中心に各地を飛び回っている。

カイゼンとは、文字通り「改=change、善=better」であり、品質と生産性の向上が目的の活動・アプローチだ。現場が参加して地道にコツコツやり続けることが重要で、「あるものでやる」のが大前提。手法や哲学・考え方があるので取り組みやすく、どんなセクターでも使えるという利点もある。また、TOYOTAをはじめとする日本の有名企業の成功の秘訣として世界中で知られており、目に見えて結果が出るので「やる気」にもつながる。

アフリカの市役所でカイゼン

製造業のカイゼン事例。工具の位置を決め、整理整頓して効率化を図る(写真上)。床に直置きだったスパイス類(手前)を棚に移動。スペースを有効に利用し衛生面も改善(写真下)(エチオピア)

こうしたカイゼン協力を支援する立場にある本間だが、例えばここザンビアでは、製造業、サービス業、公共セクターまで幅広くカイゼン協力が実施されている。例えばこうだ。ある日、市役所から、「税金の徴収率が上がらずに困っている」と相談があった。JICA専門家が市役所を訪れると、ホールはどんよりと薄暗く人けがない。見渡すと、支払いカウンターが設置され受付もいることはいるが、まったく覇気が感じられず無愛想。それだけで十分近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。そこで、専門家は担当者らを巻き込み、カイゼンの手法(注1)で問題点を探り出し、早速実行に移す。

まず、待っているだけでなく集金するようにしたら、それだけで税金の徴収率が上がった。さらに、ホールの電灯を明るいものに交換し、次にカウンター周辺を整理整頓して掃除したら、受付担当者にきちんとした身なりをしてもらい、今後はニコニコ元気よく対応するようにお願いをする。これでツカミはOK。「たったそれだけですか」と、担当者も拍子抜けする。しかし、「たったそれだけのこと」なのに、いくらもしないうちに、たくさんの人が支払いカウンターを訪れるようになり、さらに徴収率が上がった。最初は首をかしげていた担当者も、実際にカイゼンの威力に触れると、率先して身の回りの問題解決から取り組み始める。「このように、身近なちょっとしたことに気づくきっかけや仕組みを導入するのも、カイゼンのポイントなのです」

15年前には考えられなかった展開に

JICAのカイゼン協力は、1983年にシンガポールから始まり、アジア諸国で実施され、90年代にはベルリンの壁崩壊後の東欧諸国で市場経済化の一環として広がり、やがて中南米を経て、2000年代になって北アフリカに入り、今はサブサハラ・アフリカ(注2)で真っ盛りとなっている。

サブサハラ・アフリカ諸国でのJICAの本格的なカイゼンの歴史は、2008年にエチオピアの故メレス・ゼナウィ首相の日本への熱烈な協力要請を受け、2009年に開始された「品質・生産性向上計画調査」プロジェクトが始まりだ。その効果を目にしたこともあり、その後、数多くのカイゼン・プロジェクトが、ザンビア、ケニア、ガーナ、タンザニアなどに瞬く間に広がった。「ほんの15年前までは、アフリカが成長市場になる、あるいは、アフリカで産業振興や民間セクター開発の協力をするという考え自体、あまり受け入れられるものではなかった。そう考えると隔世の感があります」

アフリカへの熱い思い

マイナス20度、標高5,895メートルの山頂でポーズ。実は高山病にかかり激しい頭痛でフラフラだった(キリマンジャロ)

これまでに世界92ヵ国を訪れている本間だが、子どものころから好奇心旺盛で、中でも百科事典や地図に興味を持ち、字も読めないのに夢中でかじりついていた。やがてサッカーや洋楽に夢中になり、深夜の時間帯にもかかわらず、眠い目をこすりながら「ベストヒットUSA」を見た。英語は洋楽から学んだも同然という。また、当時から、知らないところに好んで出かける放浪癖もあった。

大学では、社会や産業の仕組みを理系的なセンスで紐(ひも)解くことに興味を持ち、管理工学を専攻。生産管理もこの時に初めて学んだ。在学中に、感化されていたアフリカへ放浪の旅に出て、気が向くままにのんびりと詩を作り、時に危ない目に遭いながらもアフリカのダイナミズムと熱い息吹に触れた。

ザンビアでは、豆炭・七輪を担いで低所得者移住地区を日々巡回し、家庭用燃料・燃焼器具の開発と普及に取り組んだ(左)

大学卒業後は、民間の建設会社に就職し、企業経営の基礎を学んだ。その後、青年海外協力隊に応募し、ザンビアで市場調査に携わり、開発や国際協力の現場で、失敗や教訓を含め多くを学ぶことになる。そして、「中小工業開発」の分野でJICA初のジュニア専門員となり、夢中で道を切り開き始めた。以後、インドネシアで「鋳造技術分野裾野産業育成プロジェクト」の専門家や貿易投資促進・中小企業振興の企画調査員、英国マンチェスター大学への留学(産業戦略)、経済協力開発機構(OECD)のパリ本部でのアフリカ投資イニシアティブ・プロジェクトマネージャー、JICA民間セクター開発アフリカ広域アドバイザーなどを経て、2010年から現職にある。

ゲタフン所長と喧々諤々

今、アフリカでカイゼンをリードしているのはエチオピアだ。同国は世界で初めて公的機関名にカイゼンの言葉を織り込んだ「エチオピア・カイゼン機構(EKI)」を設立し、国を挙げてカイゼンに取り組んでいる。3月に首都アディスアベバで開かれたTICAD閣僚級準備会合公式サイドイベント「アフリカ・カイゼン・セミナー」には、アフリカ諸国から160人もの参加者が集まった。本間はここでアフリカのカイゼンの取り組みについて発表し、またモデレーターとしてパネルディスカッションを取り仕切り、カイゼン効果の共有やネットワーキングへの動きを後押しした。

セミナー後に、関係者からミスター・カイゼンとして有名なEKIのトップ、ゲタフン所長(右)と談笑

アフリカ側の中心となった、ゲタフン・タデッセEKI所長とは、カイゼン導入初期から、22回に及ぶエチオピア出張の間、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を重ねた仲。「いろいろありましたが、今こうして理解を深め、エチオピアでカイゼンが破竹の勢いで普及してきているのがうれしいことの一つですね」と本間。同じく公式サイドイベントとして開催されたアフリカ・カイゼン・パネル展には、岸田文雄外務大臣をはじめとするアフリカ内外の要人が多数訪れ、ゲタフン所長と共に本間も説明に当たった。

「カイゼンには、ツールとしての側面と哲学としての側面がありますが、アフリカでは、カイゼンの哲学や考え方にひらめく人の割合が多いと感じます。自らカイゼンを牽(けん)引した故メレス首相なども『カイゼンはフィロソフィーだ』と強調していました。日本人には当たり前で、ともすれば見えにくい部分ですが、こうして突き詰めてみると、アフリカに実にフィットするのがカイゼンなのです」

道は開かれる

アフリカ各国のカイゼン実務者と共に。アフリカの国々がネットワーキングしてカイゼンが広がる機運が出てきた、と本間(右手前から2人目の赤ネクタイ、エチオピア)

ただ、カイゼンありき、導入ありきになってはいけないと警鐘を鳴らす。「日本の企業文化が広く共有されるというのは喜ばしいことですが、何を目的に導入するかが重要。カイゼンによって生産性や品質が向上し、アフリカ全体の産業の活性化につながることを期待しています」

いつでも、胸に響くのは「道は開かれる、やってみなきゃわからない」という思い。自身も大きな影響を受け、その後の世界にチャリティーブームを引き起こした「バンド・エイド」をきっかけに、若くしてアフリカのダイナミズムに感化された。経済・民間セクター開発の立場から、少しでも貢献したいという意欲が、少しずつ実を結びつつあると実感している。

「アフリカと日本が経済でもっと結びつき、一緒に躍動できる世界を見たい」。これからも本間は、カイゼンと共にアフリカ中を駆け巡る。



(注1)「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」「七つの無駄(作り過ぎ、在庫、不良を作る、動作、加工、手持ち、運搬)をなくすムダどり」「QC七つ道具」「問題分析・解決手段としてのQCサークル(小集団活動)」「IE(インダストリアル・エンジニアリング)」「TQM(トータル・クオリティー・マネジメント)」、徹底した「見える化」など。
(注2)サハラ砂漠より南の地域。


【TICAD Vに向けて、アフリカの開発課題、事業の最新動向、援助の在り方についての分析など、アフリカをシリーズで特集しています】