「JICAらしい民間連携」−地域の課題に向き合う国際協力を目指して− 

大貝隆之JICA中部所長

2012年5月29日

ユヌス教授からの問いかけ

大貝隆之JICA中部所長(筆者、左)とユヌス教授

2008年6月にバングラデシュを訪問し、10年来お付き合いさせていただいている、2006年ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス教授と面談した。その際、ユヌス教授より、「JICAは今後、途上国でソーシャルビジネスを実践しようとする民間企業をサポートする役割を果たすべきではないか」と問いかけられたことが、今でも忘れられない。

そのころ私も、経営学の大家、故C・K・プラハラード氏の著書『ネクスト・マーケット』(注1)等から、「BOP市場の可能性」「貧困緩和に欠かせない民間企業の役割」といった発想に強い関心を抱き、JICAとして果たすべき機能と役割について考えていたからである。これらの示唆がその後、JICA民間連携室初代室長として、民間企業が途上国で実施しようとする「BOPビジネス」に対して、JICAが連携・協力する制度(注2)を設計するきっかけとなったのである。そして今、私はJICA中部所長として、それらの制度を活用して、地域の民間企業との連携による「JICAらしい民間連携」の実践を担っている。

国内の地域も「現場」

国際協力や開発援助の「現場」は、開発途上国だけではない。日本国内の各地域も重要な「現場」である。JICA中部は、中部地域(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)を所管しているが、この地域においても途上国との結びつきは極めて強い。本年3月に、「日本の地域(愛知県)と開発途上国との相互依存度調査」を実施したところ、愛知県の強みである、「一次産業(農業、花き等)」と「二次産業(自動車関連産業等)」は共に、その原材料となる鉄鉱石、レアアース、リン鉱石等の大半を途上国に依存していることが明らかとなった。

またマーケットという視点からは、2010年に初めて、自動車の途上国市場が先進国市場を上回り、またサプライチェーンの観点からは、愛知県内の港湾における自動車部品の輸出入総額の割合において、近年、途上国が先進国を上回り、生産拠点としての途上国の重要性がますます高まっていることが分かる。さらに、民間企業にとって海外ビジネス展開の足がかりとなる、外国人研修員の受け入れ数も愛知県が全国第1位(2009年で全国の9.2パーセント)であることなど、開発途上国との相互依存度が、中部地域においても年々高まっていることが確認された。これは、中部地域以外も同様で、まさに国内の各地域が、国際協力そして途上国ビジネスの「現場」なのである。

地域の課題と向き合う

中部地域の課題と国際協力について意見を交換した第2回「地域有識者懇談会」(2012年4月)

国際協力を通じて向き合う地域(現場)の課題とは何なのか。JICA中部では、まず地域の課題と国際協力について、地域の有識者の方々と意見・情報を交換する場として、「地域有識者懇談会」(注3)を設置し、これまでに2回の会議を開催。JICA中部との連携を踏まえ、中小企業支援、フェアトレード、グローバル人材育成、災害復興支援、NGO等との連携、大学との連携といった六つの課題への対応等について検討を行っている。

「ODA事業紹介セミナー」では、JICAの協力スキームや民間連携制度などについて紹介している

また、JICAの事業や活動を広く周知、紹介するため、「ODA事業紹介セミナー」を中部経済連合会や名古屋商工会議所等との共催で、これまでに3回開催し、無償資金協力、有償資金協力、民間連携促進の各制度の説明や具体的な事業紹介などを行ってきた。さらに、昨年発生したタイの大洪水被害に対するJICAの支援を説明する「タイ洪水対策セミナー」を、中部地域の中小企業等へのフィードバックの観点から、テレビ会議方式で現地の専門家とつないで2回開催し、地域関係者にJICAならではの現地最新情報を提供することで、企業活動の側面的な支援や現地の復興促進に協力している。

企業からの個別相談も受け付けている。これまでに年間70件を超える問い合わせが寄せられ、途上国事情、人的ネットワーク等の情報提供を行った。また、個別相談のみならず、地方銀行、信用金庫等と連携し途上国セミナーを開催しているほか、これらの金融機関の顧客が途上国でビジネスを展開する際の個別ニーズへの対応にも協力している。

海外展開に必要不可欠なグローバル人材の育成と確保もまた、地域の課題である。JICA中部としても、青年海外協力隊への現職参加(注4)の促進、隊員の帰国報告会等を通じ、帰国隊員と民間企業とのマッチングの場の提供などを行い、具体的に海外展開を志向する中小企業への採用につながったケースも出ている。

また、去る5月21日には、メディアと共に「グローバル人材育成」をテーマとするシンポジウムを名古屋市内で開催し、約300名の参加を得た。地域の民間企業の経営層、大学関係者等に対して、民間連携ボランティア制度の活用等、JICAのボランティア事業の可能性や中小企業等との連携強化についてメッセージを発信した。

2012年3月に行われた愛知大学との連携・協力に関する覚書の調印式

地域の大学との連携の観点では、JICAは名古屋大学と愛知大学の2校と連携協定・覚書を締結しており、研修や草の根技術協力、また連携講座の実施等で協力関係を構築している。また、4月にJICA中部の隣接地に開校した愛知大学の新名古屋キャンパスの開校式典が、5月19日に行われたが、JICAを代表して田中明彦理事長と共に出席し、同大学の佐藤元彦理事長・学長ほか関係者と共に、今後の施設の相互利用、学生と研修員との相互交流等について、より一層連携・協力関係を強化していくことを確認した。

「JICAらしい民間連携」

JICA中部では、中部地域の民間企業等(特に中小企業)を国際協力における重要なステークホルダーとして位置付け、連携・協力関係の一層の強化を図っている。そのために、市民参加・民間連携協力アドバイザーが中心となり、BOPビジネス連携促進調査、PPPインフラ調査等の民間企業等との連携促進ツールを地域企業に紹介・説明し、関心を持った企業には事前のコンサルテーション等を行い、各企業の強みを生かす形での途上国展開を支援している。

その結果、BOPビジネス連携促進調査として、これまで中部地域より、「未給水地域における水供給事業の検討(スリランカ)」(豊田通商株式会社)、「西アフリカにおける浄水装置を用いた村落給水事業実証調査(セネガル)」(ヤマハ発動機株式会社)、「オイルパームバイオマスの持続的な地域利用システムの構築(コロンビア)」(マイウッド・ツー株式会社)の3件が採択された。

このうち、スリランカの案件は、長年にわたり名古屋市上下水道局と行ってきた研修事業が発端となり、中部経済連合会や「水のいのちとものづくり中部フォーラム」等が全面的にバックアップを行う「中部地域発」のBOPビジネスである。またコロンビアの案件は、JICA研修員と高い技術を持つ中小企業との連携・協力がきっかけとなり誕生したものである。いずれも結果的に、民間連携が民間企業単独ではなく、JICAの他事業との連携から途上国ビジネスの展開につながったという事例であり、まさに「JICAらしい民間連携」ということができる。

このような活動の成果として、うれしいことに最近は、地域の皆さまから「途上国に関することなら、まずJICA中部に聞いてみよう」という声が多く聞かれるようになった。また、地域の各種課題にも、国際協力という観点から貢献できる分野が多く存在していると感じている。地域のステークホルダー間のニーズマッチング、出会いの場(プラットフォーム)の提供等により、関係者同士の「化学反応」を生み出す。このような「結節点」としての役割を、地域はJICAに期待しているのである。

今後とも、地域の課題に向き合いつつ、「JICAらしい民間連携」を推進していきたいと考えている。

(注1)「ネクスト・マーケット『貧困層』を『顧客』に変える次世代ビジネス戦略」。
(注2)「BOPビジネス連携促進調査」。企業が提案する案件にJICAが調査費を出す。
(注3)中部地域の課題に国際協力を通じて貢献するという観点から、地域との連携・協働を促進することを目的に2011年10月に設置。委員は、経済、行政、大学、NGO、メディアの各関係者6人に委嘱。
(注4)帰国後の就職問題を考慮し、休職などの形で所属先に身分を残したまま、青年海外協力隊に参加する制度。

<プロフィール>
大貝隆之(おおがい・たかゆき)
JICA中部所長。1982年、海外経済協力基金(当時)に入社。旧国際協力銀行クアラルンプール首席駐在員、環境審査室長、プロジェクト開発部長等を歴任。JICA民間連携室長、評価部長を経て、2010年10月より現職。