ガーナから西アフリカ地域エボラ出血熱の拡大防止対策・復興を支援

−長谷川敏久JICAガーナ事務所次長−

2015年8月6日

長谷川敏久ガーナ事務所次長

ガーナ事務所が兼轄するシエラレオネとリベリアは、アフリカの中でも最も開発の遅れた国である。2002〜03年に内戦が終結して以降、国連などの主導で平和構築に向けた取り組みが進められ、治安の改善や民主的な選挙の実現等その成果が定着するとともに、鉄鉱石等鉱業分野主導による高い経済成長を達成し、平和構築段階から開発段階への移行が着実に進んでいた。しかしながら、内戦の影響による人材の不足、インフラ整備の遅れ、行政システムの脆弱さ等の課題は極めて深刻である。特に、医療人材の不足や医療施設整備の遅れは、保健医療行政上の大きな制約となっており、2010年の新生児死亡率・乳児死亡率は、それぞれシエラレオネ4位・1位、リベリア22位・19位(193ヵ国中)と深刻な状況にある。

エボラ出血熱の発生

2013年12月にシエラレオネ、リベリアに隣接するギニア国内で発生した原因不明の疾病は、2014年3月にギニア政府、世界保健機関(WHO)によりエボラ出血熱(以下EVD Ebola Virus Disease=エボラウイルス病と記載)と確認された。その直後には国境を越えて、シエラレオネ、リベリアでもEVD患者が確認された。周辺国へも拡大し、2015年7月28日時点でEVD患者数2万7,748人、死亡者数1万1,279人を記録している。

2014年6月以前は、感染地域がシエラレオネ、リベリア、ギニア3ヵ国の国境を接する地域に限定されていたため、各国政府は国境なき医師団(MSF)やWHOなどの協力を得て感染地での診断、治療対策を強化した。しかし、経済活動停滞の恐れから国境封鎖や移動制限の徹底が遅れ、感染者が感染地の治療施設を脱出し、国境を越える事例が続出した結果、EVD域内封じ込めがなされず広範囲に感染が拡大した。

流行の拡大と、拡大防止への取り組み

2014年6月以降、シエラレオネ、リベリア両国で感染者数が急増するとともに、両国の首都を含む広い範囲で感染者が確認され始めた。また、EVD患者の治療に従事した医師、看護師が感染し、多くの犠牲者を出す状況となった。この段階では、首都の基幹病院を含むほとんどの医療機関でEVD患者を適切に隔離・診断・治療する設備が未整備で、また、患者を搬送する救急車もほとんどないといった貧弱なリファレルシステム(注)のため、多数の患者が家庭内や末端の医療施設に放置されたことが感染拡大の一つの要因となった。

また、発熱、下痢等EVDの症状のある患者の診察を拒否する医療関係者や症状があっても医療施設に行かない患者が続出するなど、医療システムは壊滅状態となった。このような状況下、7月31日にシエラレオネ、8月6日にリベリアの大統領が非常事態宣言を発表し、保健当局に加え軍や警察等国を挙げてEVD対策に取り組むことを宣言するとともに国際社会に対し支援を要請した。両国保健省とともにEVD対策を進めていたWHOは、8月8日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言し、国際社会が協力してEVD対策に取り組む必要性を示した。

一方、WHOの宣言に伴い、シエラレオネ、リベリアへの航空便の多くが運航を停止し、援助関係者等の現地入りが困難な状況となった。

東京都が無償提供した個人防護具が5月14日にフリータウンKissy Dockyardに到着。全国の医療機関へ配布された。(シエラレオネ)

これ以降、リベリアに対しては米国が、シエラレオネに対しては英国及び欧州諸国が大規模な支援を展開したほか、多くの国、NGO等が医療スタッフの派遣、資機材の供与、資金提供を実施した。日本政府は、国際機関への緊急無償資金協力やJICAを通じた毛布・テント等の緊急援助物資供与を迅速に実行。JICAが担ってきた緊急援助物資供与は、シエラレオネ、リベリアを中心に複数回に及ぶほか、WHOを通じた感染症対策専門家の派遣も実施している。これらの支援が効果を上げ、9月以降、検査・治療・隔離施設の整備が進み、また、接触者の追跡調査、死亡者の適切な埋葬が徹底されるようになった。住民に対する啓発活動を通じて多くの人々がEVD対策の知識を習得し、手洗いの励行がなされるようになった。

この結果、リベリアでは9月下旬、シエラレオネでは10月〜11月をピークとして、感染拡大は減速した。2015年1月には、リベリアの新規感染者は大幅に減少し、2月下旬には患者数ゼロを記録した。3月下旬の患者を最後に42日間新規患者が発生せず、5月9日にWHOがリベリアでのEVD終息宣言を行った。シエラレオネでも、1月以降、新規感染者は大幅に減少したが、引き続き、接触者の追跡調査、適切な埋葬などの対策が実施されている。

緊急事態宣言から1年を前に

患者数の減少にもかかわらず、引き続き、両国においてEVD対策(検査、隔離、治療、追跡調査、埋葬、啓発等)の活動は継続している。そのため、リベリアでは、5月の終息宣言以降7月に入って死亡者の検体検査により新規EVD感染者が確認されたが、地域住民の隔離への協力もあり6名の感染に留まっている。シエラレオネでは感染者ゼロに向けた取り組みが継続し、大規模な感染拡大が防がれている。

このような状況下、エボラ禍により大幅に後退した社会・経済の復興への関心が高まっている。 EVDにより壊滅的な影響を受けた医療サービス体制の再構築や、EVDに伴い2014年8月から6ヵ月間閉鎖されていた学校の再開と子どもたちの学習支援、EVDにより打撃を受けた経済復興など喫緊の課題となっている。国連・世界銀行等とともにシエラレオネ、リベリア両政府は、短期復興計画を立案し、復興の推進に着手した。

今後は復興・回復から強いコミュニティー作りを支援

帰国研修員により実施されたエボラ研修(リベリア帰国研修員事業)

JICAは、EVDにより打撃を受けた経済社会の復興、エボラ前の状況への回復だけではなく、より強い強靭性を持った国とコミュニティーに発展するような支援を基本と考える。

具体的には、1)中断している事業の早期再開、2)エボラ復興計画における基礎的ニーズの速やかな充足のための機動性の高い支援である。

中断している無償資金協力、技術協力プロジェクトは、支援ニーズの高いインフラ整備及び保健・農業等にかかわる人材育成を目指すものであるが、必要に応じてEVDの影響を踏まえ、支援内容の見直し等も考慮する。

エボラ復興計画実施において中核的な役割を果たしている多数のJICA本邦研修参加経験者と連携し、ニーズの高い支援を迅速に計画・実施するとともに、中長期的には行政システムの強化や人材育成など、継続的な支援につなげていく必要がある。同時に、エボラ復興支援に従事する多数の援助機関と連携し、西アフリカ地域におけるEVDなどの感染症対応能力強化に対する支援も積極的に進める計画である。

(注)一次医療施設から、地方病院等の二次施設、大学病院等の三次施設といったピラミッド型の病院システム。

長谷川敏久(はせがわ・としひさ)1964年生まれ。民間企業勤務を経て、1993年国際協力事業団(現JICA)に入団。タイ事務所、アジア第一部、タンザニア事務所、地球ひろば等で勤務。2013年にシエラレオネに赴任。2014年12月よりガーナ事務所勤務。愛知県出身。