JICA筑波での農業機械研修の経験を活かし、南南協力で活躍!

JICA筑波・農業機械設計コースの帰国研修員が第三国専門家として現場での農機具製作に貢献

【写真】ジョコ ピトヨインドネシア共和国   農業省 農業工学研究開発センター 研究員   (※現在神戸大学大学院農学研究科博士課程在籍中)
ジョコ ピトヨ

インドネシア人のジョコさんはJICAの農業機械の第三国専門家として、マダガスカルで実施されている「中央高地コメ生産性向上プロジェクト(以下プロジェクト)」に2009年と2012年の2回、我が国の無償資金協力で改修や資機材整備がなされた同国唯一の農業機械に特化した研修機関であるアンチラベ農業機械訓練センターに派遣され、小規模農家のための様々な農機具製作プロセスに係る指導で活躍しました。
ジョコさんのこの活躍の背景には、彼が1998年の2月〜10月の9ヶ月間、JICA筑波で当時実施されていた「農業機械設計」コースに研修員として参加したことが不可欠な要因として挙げられます。ジョコさんは第三国専門家の業務にJICA筑波の研修で使用・習得した各種資料を活用したのです。特に技術テキスト、各種農機具の基本設計図、農機具の性能を測定する器具の操作に係る手引書、試作のロジックをとりまとめたもの等が役に立ちました。

第一回目(2009年)の活動

足踏み式脱穀機の製作を指導するジョコさん

製作指導により完成した足踏み式脱穀機のデモンストレーション

マダガスカルへの1回目の派遣時には足踏み式脱穀機や人力唐箕等の製作を指導しました。

足踏み式脱穀機は大正時代の頃に日本で発明されたものです。発明の経緯は諸説ありますが、ある技術者が、自転車のスポークに稲穂が当たった時に籾が穂からパラパラと外れたのを見たことからヒントを得て開発をしたという逸話もあります。踏板を踏んで、扱ぎ刃のついた扱ぎ胴をまわし、稲穂を当てることにより脱穀します。途上国では多くの農村部における脱穀作業は、板やドラム缶に稲穂を叩きつける、人や家畜が稲穂を踏みつける等の伝統的な方法がとられています。これらの方法は、重労働であるばかりでなく、籾が飛散したり、胴割れをおこしたりして、収穫ロスや品質の低下等の悪い状況も引き起こします。足踏み式脱穀機の導入により、重労働の削減のみならず、籾の品質を維持することにより、農家の食料安全や収入向上を目指しました。
日本の足踏み式脱穀機は扱ぎ刃が逆V字の鉄線ですが、ジョコさんはマダガスカルの人達が食べる稲の品種が、籾が穂から外れやすい(脱粒性が高い)インディカ種であることから、稲穂を当てる部分を、より製作が容易でコストも安く済む釘に改良しました。インディカ種の場合、稲穂が1本の釘に当るだけで十分に脱穀できるからです。

唐箕は収穫した穀物を脱穀後、風力を起こし穀物と藁屑や身のない等の比重の違いを利用して風で選別する農機具です。
途上国では多くの農村部において未だに脱穀後に穀物と藁屑その他の不要物のまじったものを、屋外で風が吹いた時にそれらを高く放り上げてふるい分けることを繰り返す重労働を強いられています。唐箕の導入により、この重労働から農家を解放し、効率的・効果的な籾の選別を目指しました。

第二回目(2012年)の活動

唐箕の製作指導にあたって設計図の講義をするジョコさん

製作指導により完成した唐箕のデモンストレーション

2回目の派遣では、低価格のサイクリング型の足踏み式脱穀機や陸稲用の手押し式除草機等の製作を指導しました。

足踏み式脱穀機は脱穀の効率化に貢献しましたが慣れないと操作がしづらいという難点がありました。踏板を踏んで上下運動を扱ぎ胴の回転運動に変換するのですが、踏み方が下手だと扱ぎ胴が上手く回らなかったり、逆回転をしたりして脱穀ができません。農機具が普及するための重要な要素の一つとして操作の容易性があります。ジョコさんは自転車をこぐ要領でチェーンを回転させ扱ぎ胴を回す脱穀機の製作を指導しました。脱穀する人は脱穀機の前に座って自転車のペダルを踏んで回すだけでよいようにしたのです。材料も途上国で広く使われている自転車の部品を活用するため低コストでの製作が可能です。

「農業は雑草との戦い」と言われます。除草は不可欠な作業ですが、人の手で行うのは大変な重労働です。途上国の小規模農家は物理的・経済的に化学肥料や除草剤の入手が困難です。一方、雑草の生長を事前に抑えれば、貴重な肥料を雑草に吸い取られず、肥料コストの抑制や収量増加も見込めます。ジョコさんは手押し式除草機の製作・導入により、陸稲栽培に係る重労働削減、肥料コスト抑制、生産向上への貢献を目指しました。

ルーツはJICA筑波

この2回の農機具製作指導による成果は、上述のとおり、ジョコさんが、研修で会得した「試行錯誤しながら自分で考える」、「失敗した分だけ能力を向上させることができる」等に基づき、JICA筑波に蓄積された各種農機具の基本設計図を活用したことが大きな要因です。マダガスカルで普及した脱穀機、唐箕のルーツはJICA筑波にあると言っても過言ではないでしょう。

農機具が農家に使われるために

より操作の容易なペダル式の改良足踏み式脱穀機を使う農家

農機具は農家の営農改善に資するための手段の一つです。当たり前の話ですが、農業の機械化は手段であって目的でありません。マダガスカルで農家にJICA筑波由来の農機具が普及したのには幾つかの条件がありした。

1.農機具の品質向上と人材育成
農機具の性能が悪い、壊れやすい、壊れれば修理代が高くつく等であれば農家には見向きもされません。即ち、品質が極めて重要なのです。「ものづくりは人づくり」と言われるとおり、品質の高い農機具を製作するには現地の製作者の能力向上が不可欠です。
ジョコさんが派遣先の農業機械訓練センターで農機具の製作指導した対象者は地元の職人達でした。設計は工程の最上流にあり、そこで品質やコストをほぼ決めてしまいます。彼が指導をするに際し、JICA筑波から入手した基本設計図(日本のものづくりの概念を図面という共有言語で示したもの)が重要な役割を果たしたことは間違いありません。
またジョコさんを第三国専門家として招聘したプロジェクトも農機具の開発・普及においては職人の数と質の確保を最優先していました。具体的な取り組み事例として、職人を組合化し、メンバーの間で品質に関する相互チェック機能を持たせたことが挙げられます。
高品質かつ低コストで農機具を製作する技術を修得すれば、高い価格でも売れます。そうすれば利益も大きくなり、職人へのインセンティブ付与にもなります。職人の増加や質の向上に繋がることでしょう。

2.持続的なビジネス体制の構築
 プロジェクトではメディアや展示会への出品を通じて国内に農業機械訓練センターで製作された商品情報を提供し、潜在的ユーザーの掘り起しやマーケット拡大に努めてきました。
更には製造業者(職人等)、販売業者、農家等のユーザーの連携を強める機会を設けることにより相互に信頼関係を持たせ、持続的なビジネス体制を構築しました。信頼ができればユーザーは農機具の購入や農機具導入により営農改善で得た利益を農機具に再投資するようになります。

プロジェクトでの取り組みの結果、農業機械訓練センターで製作・販売した脱穀機、唐箕、除草機等は農家によって購入され続けています。

ジョコさんはこの他にも、JICA筑波で設計した除草機の知識・技術を生かして、母国でヤンマーと除草機の共同開発等を行いました(※ヤンマーインドネシアのカタログURL参照 https://www.yanmar.com/media/id/com/maintenance/catalog/100498.pdf)。現在は神戸大学大学院博士課程に在籍し、博士号取得のラストスパートをかけているところです。そのような多忙な中、JICA筑波研修中、マダガスカルでの第三国専門家の活動に係る情報を提供していただき、どうも有難うございました。
今後も農業機械を通じた途上国の農業開発・農村開発への協力を宜しくお願いします。