農家や農村の知恵を伝えたい

【画像】矢島 亮一

NPO法人 自然塾寺子屋
矢島 亮一

青年海外協力隊の経験を活かしながら、地域の人々の信頼を得てJICAとの研修事業を展開している矢島さん。開発途上国の農村と、群馬県甘楽冨岡地区の農村との橋渡し役を担っているその想いとは。

「農家」「農業」に対する想いの変化

 「子どものころ自分の家が農家だということが、何となく恥ずかしかった」と述懐する。しかし、歳を重ねて思いは180度転換した。今は「農家こそ誇りを持っていい、農業こそ国の基盤を作っている」と、確信している。農村のお年寄りらの知恵を借りながら、国内外問わず、年間沢山の農業研修生の受入れ、子供たちの健全育成などの活動を実施する。
 決定的な転換期は、1999年〜2001年までの期間を過ごした中米・パナマでの青年海外協力隊活動にあった気がする。農業指導などに取り組んだが、「むしろ学ばせてもらったのはこちらだった」
パナマの活動していた地域の人たちは経済的には楽ではない。しかし、出会った人々はその土地、暮らし、農業に誇りを失っていなかった。

そしてついにNPO法人の立ち上げへ

 帰国したころ日本では、考えられないむごたらしい事件が続いていた。「これはなんなんだろう?」が、率直な感想だった。「貧しいと言われる国の方が、人の精神は健全ではないか」。日本にも農村には豊かさがある・・・・。それを残し伝えたいという方向に向かった。そう思い組織の立ち上げに奮闘した。
 しかし、特定非営利活動法人(NPO法人)の立ち上げは楽ではなかった。故郷である群馬県内をくまなく回っても、なかなか理解が得られなかった。唯一、甘楽富岡地区が耳を傾けてくれた。この地区はオープンな性格の人が多く、外部者の人間も受け入れてくれる。農業の技術力も高く、農産物の販売・流通も特徴がある。 私は学びたい人を連れてくるのが役目だが、地域全てが学校になり、受け入れる農家さんが教師になっている。最近は行政も研修などに目を向けてくれる。しかし、まだまだ研修を受ける人に何がフィットして、どうすればマッチング出来るかといったきめ細かさが足りないと感じる。
 NPO法人自然塾寺子屋は研修希望者と受入側に密着して満足度の高い研修にしたいと考える。農家の皆さんには、もっと自身と誇りを持って欲しい。農家や農村から学びたい人は沢山いるはずです。民間企業もCSR(企業の社会的責任)という分野からも、もっと日本の農村、農業を知る必要があると感じる。これからも日本の農業、農村の知識や経験を残せるように活動していきたい。

JICA事業を通じた国際貢献、そして国際交流

 そんな甘楽富岡地域の人々と協力し平成15年から取り組んでいるのが、JICA青年海外協力隊候補生の技術補完研修や途上国研修員の受け入れ事業である。
技術補完研修では、毎年6カ月間、5、6人の野菜隊員候補生が、一人一軒の農家から直接、技術を学ぶとともに、畑の一部を借りて、途上国の環境を想定した、比較的やせた土地でも育てやすいサツマイモや落花生、豆類などを無農薬で栽培している。
 JA支所を改装した宿泊所で共同生活をしながらそれぞれの農家に通っている。また、村落開発普及員候補生の研修も年に数回、約3週間の日程で行われる。JAや農家の人、役場などの協力を得て、地域農業の発展経緯やJAの組織運営に関する講義のほか、果樹栽培や畜産、農産物加工、野菜流通、育種などを体験型で学び、地域開発に必要な基本知識を伝えている。
 途上国研修員の受け入れ事業は、毎年4、5回、JICA研修員のホームステイ型の研修を実施している。地域農業や環境保全型の開発を担うアジア、中南米やアフリカの行政官らが、農業体験や流通・販売などに関する調査を通じて甘楽富岡地域の取り組みを学ぶ。各地域に合った開発の方法を自ら考えなければならない途上国の研修員にとって、地域の人々の生の声や生活に触れるホームステイプログラムは重要であるとJICA関係者から評価される。
 一方、受け入れ農家は農業指導だけでなく、生活習慣の違いや文化の違いを体験できる。昨年10月、ある農家に滞在したグアテマラの研修員は、「日本の女性から『一生懸命』の素晴らしさを学んだ」と報告会で熱く語った様子が印象的であった。

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JICAボランティア村落開発普及員候補生への技術補完研修。傾斜地における畑つくりの実習後の写真です。

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グアテマラから来た研修員を連れて、JAにおける農産物の出荷作業を見学、研修している様子。

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中米カリブから来た研修員が日本の農家に滞在し、実際に畑での作業を通して作業方法や効率性を研修します。