「中南米での新ウィルスの発見と防除」 〜農民を救え!見えない病原菌と戦い続けて10年〜

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筑波国際センター 研修指導者
匠原 監一郎

JICA筑波には、「研修指導者」とよばれる人々がいます。開発途上国で自らが専門家として現場で活躍した経験を持ち、来日する研修員に対し講義をはじめとして、実習指導など様々な指導を行います。匠原先生は、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビアでどのような活動をしてきたのでしょうか。

JICAとの出会い

人間に病気があるように、農作物もいろいろな病原菌に侵されます。ウイルスや細菌・その他病原微生物による伝染性の病気は、作物に集団感染して大幅な収入の減少や品質の低下をきたし、ときには飢饉(ききん)をもたらすことがあります。

 農作物の安定した生産とより多くの収入を図るためには、作物保護の基礎知識と適正な病害防除技術(病気による被害を防ぎ除く技術)が必要です。しかし、開発途上国の多くは農業国であるにもかかわらず作物保護に対する認識が低いのです。1990年代初めにJICAから依頼があって、南米パラグアイの国立アスンシオン大学植物病理学科のスタッフ(「カウンターパート」といって、技術指導の対象となる現地の研修員や技術者)に作物保護に関する教育・実験法を指導することになりました。 

 パラグアイのトマトに「ヴィラ・カベサ病(黄化えそ病)」が多発して、生産農家は大きな被害を受けていました。この病気の原因究明に向けたアプローチはよい指導例になると考えました。カウンターパート、学生そして国の研究者と共に実地調査を開始しました。症状からはウイルス病が疑われましたが、ウイルスの種類を特定するのは困難でした。日本が供与した1台の電子顕微鏡が国立アスンシオン大学の医学部にあって、ヒトの病変組織の診断に使われていました。これを使用して国内初の植物ウイルス写真を撮影できました。その後もカウンターパートはこの写真を講義用教材として利用しています。   

 アザミウマ虫という微小昆虫(媒介虫)がウイルスを媒介して、ヴィラ・カベサ病が国内に蔓延したと分かったので、農業牧畜省の担当官によってアザミウマ虫の駆除とトマト畑への進入防止策が講じられました。栽培農家は、国の研究機関と協力して病気に強いトマト品種の選抜と導入を行いました。

アルゼンチンとの研究協力

 以上のことも関係してアルゼンチンからの強い要望があって、JICAは1995年に「IFFIVE(国立植物病理・生理学研究所)」(於:コルドバ市)で、作物のウイルス病の研究型プロジェクトを立ち上げました。私も、研究員をカウンターパートとして参加しました。

 この国は、牛肉の他に大豆、トウモロコシ、小麦、ヒマワリ、野菜などの大規模生産・輸出国です。トウモロコシにはコルドバ州南部を初発生地とする奇病(リオ・クワルト病)が拡大し、ヒマワリには激しい斑紋症状が出て、トマトにはヴィラ・カベサ病によく似たぺステ・ネグラ病の発生など、いずれも原因はウイルスと思われたものの、未確認の病害が問題となっていました。

 プロジェクト目標は、アルゼンチンの研究者と共同でこれら病害の原因を明らかにして防除対策を策定することでした。IFFIVEには植物病理研究用の機材が設置されていましたが、ウイルス研究のためには新たな日本の援助が不可欠でした。JICAの支援による設備の拡充と農水省農業研究センター(当時)の研究者派遣などの協力に加えて、カウンターパートの不断の努力の甲斐あって、新ウイルスの発見とその性状が次々と明らかになっていきました。

 これらの成果はアルゼンチン国内だけでなく、南北米諸国とスペイン、イタリア、フランス等を含むラテンアメリカ植物病理学大会(ウルグアイ)でもJICAへの謝辞と共に報告されました。日本で考案されたウイルス簡易診断法によるぺステ・ネグラ病検診に関する発表は学会賞も受賞しました。また、協力の成果は国際的な学術雑誌にも何報かの論文として掲載されました。

 その他にも、現地の研究者と共同して、媒介虫・耐病性品種・栽培法・抵抗性遺伝子などに対して実施可能な防除対策を論議して策定することができました。

ボリビアでのこと

 ボリビアのサンタ・クルス県にJICAの農業総合試験場があります。作物栽培、畑土壌の分析や畜産研究、そして農家への技術普及など多岐にわたる活動は、政府の研究機関以上にこの国の農業の発展に貢献していました。

 ここでも防除の難しい病害がいくつかあって、2年という短期間ながらもそれらに取り組みました。いもち病と籾枯細菌病は稲に大きな被害を与えていました。それぞれ、窒素肥料の過剰投与と汚染種子が原因と思われました。また、マカダミアナッツの立枯病の病原菌を新たに見つけて、それぞれ防除対策を提示しました。トマトやピーマンの前述のウイルス病と黄化萎縮病も地域によっては激発していました。生産者組合によって現地検討会が開かれて講演し、予想をはるかに上回る参集者と共に病原ウイルス・伝染法・防除対策など活発な議論となりました。農家だけでの対応では難しく、現地普及員の活動を促進するために公的機関に対して支援を求めました。

その後

 アスンシオン大学の農学部長がIFFIVEのプロジェクトを訪れ、パラグアイのその後の状況を聞くことができました。学内に留まりがちだったスタッフが進んで現場へ出かけるようになったこと、耐病性品種の導入もあってウイルス病が減少して、トマトの生産が安定したことなどの嬉しい知らせでした。

 昨年、アルゼンチンIFFIVEのカウンターパートがJICA筑波に来所しました。プロジェクト終了後も、中南米諸国を対象にしたJICA支援による南南協力(近隣諸国に対する研修)が毎年実施されていて、プロジェクト成果が普及されているとの報告がありました。国際会議で来日したアルゼンチンの知人が自宅に泊まったり、かつての任国から研修員が来れば旧交を温め、現地の様子をつぶさに知ることができます。現在もかつてのカウンターパート達と続くメール交換では、添付写真によって病気の診断と対策を協議することもあります。

 筑波国際センターで研修を指導する現在、国や人種、気候・風土が異なっても、農業の生産現場とその活動は基本的に同じであり、実地での体験を踏まえながら研修員のニーズに応えるよう努めています。

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お米やトウモロコシなど、毎日食べるものを病害から守ることはとても大切なことです。

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講義の様子1。熱心にメモをとる研修員は各国の期待を背負っています。出身国はガーナ、ウガンダ、コートジボワール、アフガニスタンなど、様々です。

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講義の様子2。講義中には活発に意見や質問が飛び交います。