【不定期シリーズ】J-menに聞く(JICA筑波で働く人たち) JICA筑波研修員指導者 滝田 正 さん

JICA筑波研修員指導者
滝田 正 さん

JICA筑波にはいろいろな経歴の方が集まり、様々な分野で働いています。そんなバラエティ豊かなJICA筑波の面々を、少しずつご紹介したいと思います!

「J-menに聞く」、トップバッターは、2012年4月から研修指導者としてJICA筑波チームに加わった滝田正さんです。コメの品種改良一筋、現場一筋の、国内外でのご活躍の一端を伺いました。

コメの品種改良へ

「米どころ福島県郡山市出身。東北大学農学部時代に、当時の遺伝育種学の権威であった角田重三郎博士の影響を受けて、コメの品種改良の道に足を踏み入れました。就職時、ちょうど専門分野の農水省の研究ポストの募集があり、採用後はさらなる研究生活が続きました。」

「品種改良というのは、交配して新しい子世代の品種を作るまでは簡単にできるんです。二年目以降に、その新しい品種の性能を確認していくのに手間と時間がかかる、気の長い仕事です。」
「農業の研究は、自然に抗って収量を増やすことを目的に行われます。昔の野菜や果物はみんな小さかったけど、最近は大きくなっているでしょう。収量を増やすため、コメも『ピーナッツライス』と呼ばれる、通常の3倍くらいの大きさのあるものを開発したりしました。」

日本国内で研究を続けてきた滝田さんは、やがて海外へも目を向けていきます。

コメの品種改良で海外へ

「農水省時代は、国際稲研究所の動向や、稲の病害研究で活躍していたノーマン・ボーローグ博士(注;小麦の育種家。穀物の大幅な増産―緑の革命―を指導し、1970年ノーベル平和賞受賞)を見てきて、海外にも目を向けるようになりました。1983年から3年間、イネツングロ病ウイルス対策を主な目的として派遣されたマレーシア農業開発研究所を皮切りに、調査や講演依頼で、中国、ベトナム、ミャンマー、タイ、などずいぶんいろんな国に行きました。」

マレーシアから帰国後、農水省関連施設での研究を続けていましたが、その後、JICAの専門員としての要請を受け、2004年からはフィリピン、2009年からは西アフリカのベナンに派遣され2年間の活動をしました。

ベナン共和国での2年

ベナン国北部を流れるニジェールの大河(右側)の隣の水田(左側)視察(2009年)

タンザニアのキリマンジャロの山と水田をバックにCARD会議参加者と(2010)

アフリカの厳しい食糧事情の改善のため、JICAは新品種、ネリカの開発に協力しました。ネリカは、陸稲のアフリカ稲と陸稲のアジア稲の掛け合わせ。雑草や病害に強いというアフリカ稲の特性と、アジア稲の収穫量の多さが期待されたものでした。滝田さんは、JICAのネリカ普及プロジェクトの専門家としてベナンに渡り、アフリカ稲センター(以後WARDA)での仕事を始めました。

「ネリカには、結果としてアフリカ稲のDNAは5%〜10%程度しか入ってなかったんです。でも、ネリカの開発の結果、研究者が集まり、アフリカにおけるコメ生産への意識や技術が高まった。ネリカの開発は『呼び水』となりましたね。」
「ベナンでは、ネリカの普及に携わりました。アフリカでは、種子の生産体制や管理がしっかりしておらず、偽物や粗悪な種子を売るような業者もいます。普及には、まず良い種の供給が不可欠です。そこで、種子の生産や管理ができるように現地の人に研修をしました。ベナンだけでなくアフリカ各国から、2年で約100人の専門家を育てました。」

「うれしかったのは、自分の研修を終えた人のところが研修の視察先になり、研修員と訪問したときのことです。『こんなに実りをあげました。こんなに成果がありました』って自分の稲を見せて喜んでくれてね。それを見てこっちがうれしくなっちゃって、本当に忘れられないですね。」

そんな成果が出るまでには、大変なこともありました。

厳しい環境を柔軟な発想で

JICA実験田

「ベナン入りしたとき、WARDA試験場の陸稲は、土壌に病害が発生し、収穫は皆無というどうしようもない状態でした。病害は線虫が原因で、どんどん広がっていくのです。そこで、私は水田を作ることにしたんです。」
「試験場の農地は砂地だし、現地の人たちには出来るわけがないと言われました。でも、砂地の下に粘土層があり、それを利用して低い土地を水田に変えました。水中では線虫が死滅するので、病害を抑えて収穫を得ることができたんです。結果的に、これがWARDA試験場内で最初の水田となりました。」

今、アフリカのコメ生産は、陸稲ではなく水稲栽培に目が向いているそうです。図らずも、滝田さんの水田づくりは、先駆的な役割を果たしました。

帰国後、JICA筑波の研修指導者として

滝田さんは一貫してコメの品種改良、育種、種子生産にかかわってきました。

「ラッキーでした。いつもちょうどいい具合に自分のやりたい道に進むことができてきました。ずっと関われたのは、好きなことだから続いてきただけなんです」
「そういうのって不思議なもので、JICA筑波で今年は種子生産をテーマにしたアフリカ人向けのCARD(アフリカ稲作振興のための共同体)研修をやることになったんです。今は、稲作技術開発コース、アフリカ小規模水稲普及コース、野菜のコースなど4コースを受け持ってやっています。」

コースに参加しているのはアフリカからの研修員、約20人です。

「アフリカでのコメ生産の問題を実体験として知っているし、アフリカの人たちの考え方というか気持ちが分かるからね。ベナンでの経験がとても役に立っていると思いますよ」
「1年たっておらず、自分の課題はまだはっきりしないですが、これからも今までの経験を生かした研修指導をしていきたいと考えています。」

インタビュー後記

趣味でも5アールの畑を耕し、奥様に「生産過剰だ」と言われていると笑う滝田さん。現場で育つものに向かい合うのが根っから好きなんですね。滝田さんの周りで育つのは、農作物だけではありません。JICA筑波で研修員指導者として、これからたくさんの研修終了者を送り出し、さらなる成果を生んでくれることを楽しみにしていらっしゃるようです。