手鍬から牛耕へ:共同作業を通じたコミュニティ再形成に向けた取り組み(技術協力プロジェクト:アチョリ・西ナイル地域コミュニティ・レジリエンス強化のための地方行政能力向上プロジェクト(WA-CAP))

2018年7月9日

長期に亘り紛争影響下にあった地域で、人々の暮らしを安定させるとともに、社会の脆弱性(災害、紛争など外的ショックに対する耐性の低さ)を克服するためには、住民の生計向上を図るとともに、住民間の信頼関係を回復・強化させることが重要です。そのためには、住民一人一人を支援するだけではなく、さまざまな背景を持つ住民有志が集まって立ち上げたグループ(「コミュニティ・グループ」と呼ぶ)等一定の目的を持つ人々の集団を支援することが必要となります。

ウガンダ北部のアチョリ地域(注)では、2016年からJICAの支援を受けて、今まで各人が手鍬で耕していた畑をコミュニティ・グループが共同で飼育する牛を使って耕すことを通じて、メンバー間の信頼関係を強化する試みを始めています。そしてこれらのグループの全てに、寡婦、障がい者、高齢者、若者、紛争被害者等といった脆弱者(EVIs:Extremely Vulnerable Individuals)や特別な支援を必要としている人たち(PSNs:Persons with Specific Needs)がメンバーとして参加しています。

アガゴ県オミヤ・パチュワ郡のコミュニティ・グループ「Owir Pii Lukeme Farmers' Group」は、そうしたグループの一つです。グループ代表のオヨオ・ファビオ氏によると、鍬による手作業の時には1.5エーカーの土地を耕すのに2週間かかっていたのが、共同の牛耕を始めてからは、同じ面積を1日で耕作することができるようになりました。これにより、昨季だけで共同耕作地(グループガーデン)として38エーカーの土地を耕作できたとのことです。

WA-CAPは、2016年から2017年の間アチョリ地域の8県16郡32グループに対して、牛耕用資機材を提供するとともに、耕作牛の世話の仕方や共同利用する方法をグループ・メンバー全員で考えていく研修を実施しています。2017年から2018年には、アチョリ地域の隣の西ナイル地域の36グループに対して、同様の支援(ただし牛耕に限らない)を行なっています。牛耕を行うグループは、WA-CAPから雄牛6頭、牛耕用犂3基、防虫剤スプレイヤー1基の提供を受ける一方で、各郡のコミュニティ開発担当職員であるCDO(Community Development Officer)からの研修を受けます。

コミュニティ・グループによる牛耕事業では、牛耕を始める前に、牛耕経験のあるメンバーが雄牛を耕作牛にするためのトレーニングを行う一方で、経験のないメンバーが牛のトレーニング方法や牛を使って畑を耕す方法を学びます。グループ内に経験者がいない場合は、外部からトレーナーを呼んで指導を受けることもあります。グループ・メンバーが共同で耕作することにより、耕作面積を格段に広げることができるだけでなく、深く耕すことや早く耕すことができるため、農作物の質と生産量を大幅に増やすことができます。

村人の主要な生計活動である農作業を行う上で大きなメリットのある牛耕ですが、それを継続していく上ではグループ・メンバーによる費用負担・共同作業が必要となります。牛を飼育する上では毎日の餌・水やりや健康管理がかかせません。プロジェクトでは、これらの負担が特定のメンバーに偏ることのないようメンバーの合意する方法で費用・作業分担することの重要性を強調しています。現金による費用負担が求められる場合、それが難しいメンバーはお金以外の「モノ」を提供することでグループに貢献します。

例えば牛の飼育小屋を建設する場合、自分が持っている土地を提供したり、草や木を伐採して建築材として提供したりすることにより貢献します。建設作業に従事できない老人や障がい者は、飲み水や食事を準備します。グループのメンバー全員が、それぞれのできることをする。このような取り組みは、グループが当事者として事業に取り組んで行く上でのコミットメントとオーナーシップの確保に繋がるだけでなく、メンバー間の共同作業を通じた信頼関係の醸成に貢献します。

(注)ウガンダ北部アチョリ地域では、1980年代から20年以上続いた内戦により社会・経済インフラが破壊され、200万人とも言われる住民が国内避難民となり生活基盤を失いました。2006年の和平交渉開始以降、国内避難民の帰還は進みました。しかし、それから10年以上経っても生活再建は途上である他、紛争による心理的・社会的な負の影響が色濃く残っています。

住民主導型事業の持続性確保に向けて

ウガンダではこれまでドナー支援や政府支援により様々な住民主導型事業を内容とするプログラムが実施されてきましたが、個々の事業は必ずしも持続的であったとは言えません。過去の事業では住民グループが支援を受けるために結成され、支援を受けると資材をメンバー間で分け合ってすぐに解散するという事例が多くみられました。行政による技術指導やモニタリングも十分ではありませんでした。

WA-CAPでは現在実施中および将来の様々な生計向上支援活動のモデルとなるよう、既存の住民主導型事業の改善を試みています。そこではCDOをはじめとする行政が支援を申請するコミュニティ・グループを審査し、ある程度活動実績のあるグループや、グループ全体の生計向上につながる活動を行うグループが選ばれるよう指導を行っています。さらに選ばれたグループは次の段階で、目的に沿った具体的な事業計画を作ることについてもCDOの指導を受けていきます。

もちろん住民の主体性確保も重要です。WA-CAPでは、資機材の調達にあたり住民自身による買い付けという方法を試みています。例えば牛耕の場合は、牛耕の経験や牛飼育の知識があるコミュニティ・グループの代表者3名が近隣の家畜市場に行き、彼ら自身が牛耕に適すると判断した雄牛を購入することを支援します。これらのアプローチを通じて、コミュニティ・グループのオーナーシップが高まるとともに、CDOがコミュニティ・グループによる主体的活動を適切に支援できるようになり、生計向上支援事業の持続性が高まることが期待されます。

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アガゴ県の県コミュニティ開発局長(左から4人目)がコミュニティ・グループによる牛飼育場所を確認している様子

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同局長がコミュニティ・グループを訪問し、牛耕用の雄牛調達後のモニタリングを実施。このモニタリングは、WA-CAPによるCDOの能力強化の一環として、日本人専門家が同行してOJT(On-the-Job Training、実地研修)として行われている。

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同局長(中央左)と担当のCDO(中央右)がコミュニティ・グループのメンバーから、パイロット事業の状況を聞き、必要な対応をメンバーが検討・実施するようアドバイスしている様子。

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同局長と担当CDO(右側2名)がコミュニティ・グループのメンバーと、パイロット事業の状況を聞き、必要な対応をメンバーが検討・実施するようアドバイスしている様子。

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コミュニティ・グループ「Kalumakotraru Farmers’ Group」の代表者と調達した牛(アジュマニ県アドロピ郡)

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コミュニティ・グループの代表者が、家畜市場で調達した牛と牛耕用犁を自分たちの村に持ち帰るため、運搬車に積み込んでいる様子(リラ県アマチ郡)

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郡獣医が家畜の健康管理に関する指導を実施。その間に、CDOとWACAPの生計向上担当スタッフが、コミュニティ・グループが調達した薬品を検査している(アジュマニ県オフア郡)

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郡の獣医ドラガ・ステファン氏が、グループ・メンバーに殺虫剤散布用スプレイヤーの使い方を指導している様子(アジュマニ県オフア郡)