障害のある子どもの栄養を考える

2019年10月3日

2018年度4次隊
河原柚香(看護師)

2019年7月19日(金)と9月20日(金)に齊藤隊員の活動先であるVSPD(バヌアツ障害者支援協会)にて「Sopsop Kakae」のワークショップを行いました。「Sopsop Kakae」とは、「sopsop=やわらかい」「kakae=食べ物」という意味で、嚥下障害(食べ物を飲み込む機能の障害)があって、普通の食事が食べられない子どもに対して、嚥下機能に応じて栄養バランスのとれた食事の提案を行い、嚥下障害のある子どもの栄養状態が改善することを目的として行いました。

このワークショップを行うことになったのは、齊藤ゆり隊員(2018年度4次隊:障害児・者支援)、から私に「嚥下障害のある子どもにミルク粥(パンを牛乳でふやかしてやわらかくしたもの)やマッシュポテトしか与えておらず痩せていて、風邪などの病気にかかると心配。食育のワークショップをしたい。」と相談を受けたことがきっかけでした。私自身は活動先であるヘルスセンターで乳幼児健診を行っていて、乳幼児の栄養不足が気になっており、離乳食など乳幼児に対する栄養改善もしたいなとちょうど考えていた時期でした。日本で働いていたときに嚥下障害のあるお年寄りのケアをずっと行っていたこと、栄養学についての知識もあることなど条件が揃い、お母さんからのニーズがある齊藤隊員の活動先でワークショップを行うことになりました。

まず、齊藤隊員が嚥下障害のある子どもをもつお母さんたちにアンケートを行い、普段どのような食事を与えているか、食事に関して知りたいことなどを調査、また普段の食事時の姿勢や食べ方などの観察を行い、そこからどのようなワークショップを行うかを相談しました。

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第1回は講義形式とし、齊藤隊員は食育の必要性と目的、食事の際の姿勢やむせたときの対応について、私は、3大栄養素を軸に各栄養素が乳幼児の発育発達にどのように作用するか、どの食材にどんな栄養素が含まれているか、嚥下の発育について講義を行いました。当日は7人のお母さんとその子どもが参加しました。ワークショップを行った感想は正直、まだビスラマ語が拙い状態で、濃い内容の講義であったため、どこまで理解してもらえたかはわかりませんでした。また予定していたより参加人数が少なかったため、第2回のときはどのようにアプローチするかを検討しました。アンケート等では、お母さんの負担や家計の状況までは把握できず、日本人の私たちがどこまで踏み込んで良いのか分かりませんでした。ちょうど第1回目のワークショップから1週間後にVSPDで、ビラ中央病院の栄養士が職員向けに栄養講座を行う機会がありました。現地の栄養士なら、バヌアツの家庭状況を踏まえてお母さんたちの悩みにも答えられるのではないかと思い、第2回目のワークショップに協力して頂けるよう依頼しました。

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第2回は調理実習形式とし、ビラ中央病院の栄養士に3大栄養素のおさらいをしてもらい、その後グループに分かれて実際に調理を行いました。栄養士はバランスの良い食材をミキサーにかけてポタージュスープ状にしたもの、齊藤隊員と私はかぼちゃのプリンとお好み焼きを提案しました。かぼちゃのプリンはゆでて潰したかぼちゃと牛乳・卵・砂糖のシンプルな食材で作ることができます。おやつ感覚で食べることができて子どもに必要なビタミンAとたんぱく質を摂ることができます。またバナナやサツマイモ、ニンジンといったものでも応用ができます。お好み焼きは小麦粉と卵と水で作った生地に好きな野菜やお肉・魚を混ぜて油で焼くだけという簡単なもので、今回はバヌアツ人に馴染みのあるアイランドキャベツ(モロヘイヤのような葉っぱ)と玉ねぎ、マグロを使って作りました。バヌアツの伝統料理にラップラップというバナナやヤム芋、キャッサバなどをすりおろしたものにアイランドキャベツとココナッツミルク、鶏や魚をのせてバナナの葉っぱで包んで熱した石で蒸し焼きにした料理があり、これを家族みんなで囲んで食べます。お好み焼きも生地は小麦粉ですが、ヤム芋やバナナでも代用はでき、キャベツなどの野菜や豚肉や魚介類の応用が利き、家族みんなで囲んで食べるので、「お好み焼きは大阪のラップラップのような食べ物だよ」と紹介したところ、反響がよかったです。初めて作るレシピにお母さんたちも興味をもってもらえ、実食して味も気に入ってもらえたようで、ひとまずは成功と言ってもいいのかなと思いました。また、一人のお母さんがワークショップ後に余っていた食材からヤム芋とアイランドキャベツ、細ねぎを使ってさっそくお好み焼きを作っていました。これにはすごく驚いたと同時にとてもうれしい気持ちになりました。

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バヌアツには野菜や果物など豊富に食材がありますが、季節によって品ぞろえは異なり、輸入品はとても高価なため買えません。そのため安価で手に入る米やパン、畑で育てやすいヤムやキャッサバといった炭水化物が食事の中でも多くを占めています。嚥下障害のある子どもに対して与えている食事も炭水化物が中心で、ビタミンやミネラル、たんぱく質が少ないことが気がかりでした。今回のワークショップを通して、お母さんたちが子どもの食事の栄養について関心を持ち、少しでも子どもの栄養改善に役立つことを願っています。