豊かな前浜プロジェクト・フェーズ3

2019年10月24日

寺島裕晃(豊かな前浜専門家(水産普及2))

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ヤコウガイの分布密度調査

JICAは、南太平洋の島しょ国の一つであるバヌアツにおいて、「豊かな前浜プロジェクト・フェーズ3(2017から2021)」を実施しています。

名前の通り、このプロジェクトには前身のフェーズ1(2006~2009)、フェーズ2(2011~2014)があり、バヌアツ水産局(VFD)と住民が協働して実施する沿岸水産資源管理の普及を試みてきました。

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採集したヤコウガイへのマーキング

バヌアツには豊かな沿岸資源がありますが、その中でも工芸品の螺鈿細工の原料として有名なヤコウガイが豊富に取れることで有名でした。しかし、近年では世界的に資源量が減少していて、バヌアツでも国内資源がほぼ絶滅状態になってしまいました。このためバヌアツ政府は、2005年からヤコウガイの全面禁漁を実施しています。

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移植のために収集したヤコウガイ

 「豊かな前浜プロジェクト・フェーズ1・2」では、このような状況を改善するためにヤコウガイの増殖に取り組み、タブーエリア(みだりに魚や貝を採集してはいけない場所)への成貝移植を行いました。これは一か所に密集して親貝を移植すると、そこで繁殖が行われ一部が移植場所周辺で成長することが知られているため、資源増殖効果があると期待されたからでした。その数年後、他の協力機関や研究機関などによる生態調査の際に、バヌアツ周辺では移植前に比べてヤコウガイ個体数が増えていることが報告されてきていました。しかし、上述のヤコウガイ移植が、どの程度、個体数の増加に貢献しているのかについて、詳細な検討は行われていませんでした。

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移植したヤコウガイ

このため「豊かな前浜プロジェクト・フェーズ3」では、親貝移植地域周辺でのヤコウガイの分布密度を調査し、このような親貝の移植が増殖効果に貢献しているかどうかを確認しました。その結果、親貝移植海域のヤコウガイ分布密度が、周辺海域と比較して統計的に有意に高く、親貝移植が資源増殖の主因であることが確認され、これまでプロジェクトで行った成貝移植の成果であることが確認されました。また、その他のヤコウガイ資源が増えた要因として、移植場所を現地コミュニティがタブーエリアに設定しており、コミュニティが監視などの管理活動をしっかり行っていたことも重要な要因と考えられます。

以上のような結果を基に、「豊かな前浜プロジェクト・フェーズ3」では、ヤコウガイの移植・保全を精力的に行っている地域から、以前は豊富にヤコウガイがいたが、乱獲によって現在では全く見られなくなった場所にヤコウガイの親貝を移植し、今後の増殖を期待することにしました。もちろん、それを実行するに際しては、それぞれのコミュニティに理由や効果を説明し、理解と賛同を得られてから行うことが肝要です。

このような活動により、一時は絶滅に瀕していたバヌアツのヤコウガイ資源が復活していくことを今後も支援していきたいと考えています。