住民参加型の水産資源管理とCB-CRMガイドラインの照会

2019年11月26日

越後 学 専門家(沿岸資源管理2)

バヌアツにおける沿岸水産資源管理の必要性や「豊かな前浜プロジェクト」の目的については当連載に既に述べられている通りですが、本プロジェクトの最も根幹的な活動として、バヌアツとその周辺地域において適切な沿岸水産資源管理の在り方を模索し、マニュアル化するというものがあります。

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離島3島(エマエ島・マキラ島・マタソ島)の漁業代表者による合同会議

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離島漁業者の代表者たちによる管理計画づくり

水産資源管理にはごく大まかに言って、1)行政側がルールを定め漁業者に指導するトップダウン型、2)公的機関が全く関与せず地域の住民が自主的にルール決めをするボトムアップ型、そして、3)その中間型の行政と住民が共同で管理に取り組む住民参加型(コマネージメントとも言われます)、の3つに区分することができます。トップダウン型の代表は欧米各国やカツオ・マグロ漁業で、対象となる魚種が少なく同じ漁法で大量に漁獲される漁業で有効です。ボトムアップ型は江戸時代までの日本や、現代的な漁具が導入される以前の太平洋島嶼国で伝統的に行われており、バヌアツも従来はこの方法が取られていました。しかし、エンジン付きのボートや漁網、シュノーケルやスピアガンなど効率的な漁労技術が導入されて以降、ボトムアップ型資源管理では対応しきれなくなってきたのです。また、対象とする魚種の多さや管理当局のキャパシティの制約からトップダウン型管理の導入は現実的ではありません。C/P機関である水産局の能力に見合い機能的な資源管理の枠組みを作るには、住民参加型資源管理の導入が必須と言えるのです。

プロジェクトでは、資源管理ルールの策定において住民側の話し合いと合意形成に重点を置き、水産局やプロジェクトチームからは必要最低限のアドバイスにとどめることにして来ました。中には実現性に疑問の残るルールも散見しますが、自分達で決めたことであるからこそ活動に「オーナーシップ」が生まれ、課題の修正能力も出てくるはずです。

これに加え、本プロジェクトが推奨する“統合型CB-CRM”は、資源管理のルール作りやその施行だけでなく、参加する住民の生計向上支援と資源管理への動機づけを支援する方策も併せて提言しているところに特徴があります。これらを私たちは「資源管理方策」「支援方策」「コネクティング方策」と名付け、3つの方策のバランスを重視した活動を実施しています。また、それぞれの方策について具体的にどのような活動が考えうるのか、住民の意思決定と活動計画を支援するために様々なツールを紹介しています。例えばこの連載でご紹介したヤコウガイの移植などもツールのひとつとなります。

以上のような内容を整理し、普及のためのマニュアルとしてまとめたものが「CB-CRMガイドライン」及びその付属書である「ツールマニュアル」です。ここにはこれまで現場で試行錯誤してきた様々なノウハウや考え方が凝縮されており、バヌアツ国内ばかりでなくソロモン諸島を含む周辺国への普及も目指しています。