潮位観測所のリハビリと津波監視カメラの設置

2022年10月23日

一般財団法人 気象業務支援センター
専任主任技師 一条 弘之

地震・津波・高潮情報の発信能力強化プロジェクト(JICA Van-REDIプロジェクト)における重要な観測サイトである潮位観測所の2か所がサイクロン被害及び老朽化により機能を停止していました。その一つのリツリツ潮位観測所(マラクラ島)の機能回復(リハビリ)及びコロナ禍で延期となっていた津波監視カメラの設置を2022年10月2日から7日かけて実施しました。

実施にはカウンターパートの協力が不可欠です。これは現場作業を円滑に進めるためだけでなく、設置後の運用・保守を見据えた実践経験の共有も目的の一つだからです。一方的な技術移転ではなく一緒に作業を進めることにより、マニュアルからは分からない困難度、所要時間を肌感覚で共有することを重視しています。今回はカウンターパートとして、バヌアツ気象・地象災害局(VMGD)の経験豊富な中堅職員と技術的潜在能力の高い新人職員(マラクラ島出身)の2名に同行してもらいました。

『周到な準備なくして成功なし』に習い、実機を使った組立・結線・動作確認のOJTを製造・納入業者のリモート協力を得ながら首都ポートビラにあるVMGD本部で9月15日、16日に実施しました。このOJTにより現地での作業効率を高める工夫、必要な予備部材の確保などの準備が出来たことも実施の成功につながったものと考えています。

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VMGD本部会議室で実施のOJTの様子

南緯16.1度に位置するリツリツ潮位観測所での作業は暑さによる体力消耗との闘いですので水分補給が欠かせません。各人、ミネラルウォーター2リットルボトルを飲み干します。

炎天下での1個35キログラムもあるバッテリーの交換、土砂降りの中のセンサー交換、強風下でのアンテナ系ケーブル敷設など天候に恵まれたとは言えませんが、リハビリ作業を予定の3日間で完了することが出来ました。

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潮位観測のリハビリ作業の様子(潮位センサーの交換)

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潮位観測のリハビリ作業の様子(潮位センサーケーブルの交換)

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波監視カメラ設置の様子

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潮位計リハビリ、津波監視カメラ設設置が完了したリツリツ潮位観測所

津波監視カメラの地上高5.5メートルへの取付作業は、取付ポール/基台の待受工事の施工不備もあり一時は断念することも検討しましたが、現地の電力会社の方の便宜計らいもあり、4日目に決行することとなりました。代替部材の利用、施工済部分の改修など困難を極めましたが、長時間にわたる高所作業を厭わず行ったカウンターパート二人の忍耐力、身体能力の高さのおかげで計画通りの設置が出来ました。まさに奇跡に近い設置です。設置後に珍しく若手カウンターパートが写真を撮っていましたが、自分の仕事の成果に満足し、達成感を得た姿であるように感じました。

現地作業の結果はすぐに確認できました。

潮位観測のリハビリの成果については、10月5日02:50UTCに復旧した旨を気象庁に連絡、気象衛星ひまわり経由でのデータ送信の確認と共に、UNESCO/IOCのWebサイトに掲載されていることを確認しました。

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UNESCO/IOCのウェブサイトイメージ

津波監視カメラ設置の成果ですが、VMGD本部において昼夜問わず堤防から超音波センサーまでの海岸線をモニター出来るようになり、津波及び高潮の監視に利用可能な状況になりました。

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津波監視カメラの映像(日中)

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津波監視カメラの映像(夜間)

VMGDのロモネ・モンティン局長は「今回改訂した津波SOPにより、迅速確実な津波警報の発表が可能になると期待します。そのSOPをVMGD担当職員がしっかりと身に付け、絶え間なくSOPを改善していくためには、日頃からの部内訓練が重要です。」とコメントしています。

Van-REDIプロジェクトにはタンナ島レナケル潮位観測所のリハビリと津波監視カメラ設置の作業が残っています。チームは来年早々にレナケルを訪問し、全ての潮位観測所関連作業を終える予定です。