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スポーツで人と人との交流を促進する

東郷理央さん(ガーナ・PCインストラクター・2015年度4次隊)
公益財団法人スペシャルオリンピックス日本 総務部総務課

知的障害のある人たちに、日常的なスポーツトレーニングと成果の発表の場である競技会を年間を通じて提供し、社会参加を応援する国際的なスポーツ組織「スペシャルオリンピックス」。日本の国内本部組織であるスペシャルオリンピックス日本で協力隊経験者の東郷さんが働いている。

アブダビで行われた2019年スペシャルオリンピックス夏季世界大会の7人制ユニファイドサッカー(知的障害のある選手と障害のない選手が同じチームで競技を行う)の試合の様子。同大会には190の国と地域より約7500人の知的障害のあるアスリートが参加し、日本選手団は104人が参加した。24競技が実施され、日本は11競技に出場した
写真提供:スペシャルオリンピックス日本

ユニファイドスポーツのシンボル「ユニファイドボール」を持つ東郷さん

ガーナの職業訓練校でICTの授業を行う、隊員時代の東郷さん

 スペシャルオリンピックスは1968年に、当時スポーツを楽しむ機会が少なかった知的障害のある人たちにスポーツを通じて社会参加を応援するため米国で設立された組織で、現在、世界200カ国で活動が行われている。その日本国内での活動を推進する「スペシャルオリンピックス日本(以下、SON)」で、協力隊経験者の東郷さんが働いている。

「SONの事業理念である、スポーツを通じて互いを理解しながら、より良い社会を構築していこうとすること、それは協力隊の活動にも通じるものがあると感じています。派遣国・ガーナでの経験から『人と人との交流に寄与する』ことを自分が働く軸にしたいと考え、SONに入職しました」

 東郷さんは協力隊参加前、スポーツ中継に関連するソフト・ハードウエアサービスを提供する企業に勤務。その後、協力隊に参加し、ガーナの職業訓練校でPCインストラクターとしてICTの授業と同国教員の指導力向上を目標に活動した。

 協力隊での経験を、「自分の知っていることが世界の全てではない。その場に行って、人と交流して初めて知ることがたくさんあるということを日々感じていた」と振り返る。ガーナの人はどんな生活をし、どんな考え方をするのか、共通点に喜び、違いを楽しんだ2年間だったという。

 印象に残るのは、活動を計画通りに実施できず、隊員としての存在意義がわからなくなって気持ちが沈んでいたころに、ホームステイ先のホストマザーとした雑談だ。「私には子どもが6人いてね」とホストマザーが話し始めた。東郷さんが家族全員を把握できていない時期で、「この間は5人と言っていたけど、また知らない子が増えたのかな」と思ったが、「長女はリオ(東郷さんの名前)だよ」と続いた。

「それを聞いて、活動で成果を出すことは大事だけれど、この人たちと親交を深め、理解し合うことも、私がここにいる意味だと思いました」

 その言葉で肩の荷がおりた東郷さんは、その後、活動も軌道に乗るようになった。停電時でもICT授業を実施する教材の提案や、同僚教員と協働した授業も実施。何より、ガーナでもう1つの家族を手に入れることができた。

より楽しい交流の機会を

「人と人とが交流することで生まれる新しい発見や可能性をとても面白く感じ、これにかかわる仕事がしたいと思いました」

 帰国後、そう考えて就職活動をしていたときに出会ったのがSONだった。SONに関心を抱いた理由には、派遣前訓練での体験も影響している。訓練のひとつに知的障害のある人の施設での活動があり、そこで共に体を動かしたり歌を歌ったりすることで互いの距離を縮められる経験をした。一方で知的障害のある人と気軽に交流できる機会は限られていると感じた。SONのスポーツ事業にかかわることができれば、さまざまな人の相互理解や友情を深め、交流を促進する一助になれるのではないか。そう考え、入職を決めた。

 現在、東郷さんはSONの総務部総務課で働いており、各種会議の準備や関係団体との連絡調整、事務局内の管理業務、国際本部との連絡などの業務をメインに行っている。「総務の仕事を希望していたので、職員が働きやすい環境をつくることで、SONのスポーツ事業を円滑に進めるサポートができることにやりがいを感じる」と東郷さん。今後は総務の知識をより深め、団体に貢献したいと考えている。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されたことで、障害者スポーツの認知度は上がっているものの、SONの活動分野である「知的障害のある人たちのスポーツ」の認知度はまだ高くないと感じている。

「『パラリンピックですか?』と聞かれることも多いです。スペシャルオリンピックスで行う大会は順位を決めるのではなく、全アスリートを称え全員を表彰するもの。また団体名の最後につく「s」は、日常のトレーニングから世界大会までさまざまなスポーツ活動を含むことを表しています。認知度向上は今後の課題だと感じています」

 新型コロナウイルス感染症の影響でSONでもスポーツ活動をする機会の提供が困難な状況が続いていたが、10月から「オンラインマラソン(※)」を開始した。参加者全員で総走行距離世界1周を目指す、知的障害のある人もない人も誰でも参加できるイベントだ。

「国が違っても言葉がわからなくても一緒にできるのがスポーツ。現在は国内での活動が中心ですが、スペシャルオリンピックスは世界中に活動拠点があるので、今回のようにオンライン技術を活用し、国境を越えたイベントも開催できれば、より楽しい交流ができるのではないかと思っています」

※ 詳細はスペシャルオリンピックス日本ウェブサイト「オンラインマラソン」をご覧ください。

〜東郷さんが伝える〜
「ユニファイドスポーツ」の魅力!

ユニファイドスポーツは、知的障害のある人(アスリート)と知的障害のない人(パートナー)がチームメイトとなり、一緒にスポーツをする、スペシャルオリンピックス独自の取り組みです。私は協力隊での経験で「自分が知っている世界がすべてではない」と先入観を取り除いた自分に出会いました。実はユニファイドスポーツもそんな先入観を取り除くスポーツです。パートナーがアスリートのサポートをするとイメージした人もいるかもしれませんが、ユニファイドスポーツは、お互いがサポートしあい、得意分野で協力していくもので、アスリートのコーチもいます。実施競技数もどんどん増えており、参加者も募集しています。

[プロフィール]

とうごう・りお●1990年生まれ、東京都出身。大学卒業後、スポーツ中継の情報テロップソフト・ハードを提供する民間企業に就職。2016年3月、青年海外協力隊員としてガーナに赴任。職業訓練校でICT授業を担当する。18年3月に帰国。一般社団法人に勤務後、19年11月より現職。

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