[特集]進路相談カウンセラー、
企業・NPO代表がアドバイス   協力隊後の仕事を考える

任期満了後の就職先を探す場合、いつから行うべきか。早い段階からインターネットで情報収集し、企業と連絡を取るべきかと悩んでいる隊員もいるかもしれない。そこで今回は青年海外協力隊事務局の進路相談カウンセラーと、企業・NPOの代表に取材し、進路の考え方や現役隊員のうちにできることなどを聞いた。全員協力隊OVなので、先輩隊員でもある。それぞれの話を参考に自分に合った方法を考えてほしい。

進路相談カウンセラーに聞く「進路の考え方」

青年海外協力隊事務局は進路相談カウンセラーを配置し、帰国隊員の就職や進学の相談にのっている。今回は経験豊富な2人の進路相談カウンセラーに伺った。

岡部恵子(旧姓 伊藤)さん

進路相談カウンセラー(JICA横浜、JICA市ヶ谷)

岡部恵子(旧姓 伊藤)さん
タンザニア/秘書/1981年度3次隊・広島県出身

国家資格キャリアコンサルタント


伊藤亜紀さん

進路相談カウンセラー(JICA市ヶ谷)

伊藤亜紀さん
チュニジア/視聴覚教育/1996年度2次隊・愛知県出身

産業カウンセラー



多様な生き方や働き方が認められるようになり、かつてより就職活動(以下、就活)はしやすくなっているように感じますが、それでも決まるまでは不安です。協力隊後の進路はいつ、どのように考え始めるといいでしょうか。

岡部さん   進路を考え始めるのは派遣前、中といつからでも構いませんが、就活は相手があってのことなので、タイミングは人によって大きく異なります。

   派遣中は特殊な環境にいるので、帰国後にやりたいことがたくさん頭に浮かぶでしょう。でも、それは実際の労働市場において仕事になるか情報収集と確認が必要です。また、任期終盤は活動のまとめに入る時期ですから、膨大なエネルギーを必要とする就職活動と並行して行うのは大変かもしれません。

   進路相談カウンセラーによっても考えは違うかもしれませんが、私は派遣中の就活は向き不向きがあるので、できる方は応援しますが、ご自身のペースで帰国後に進めてもいいとお伝えしたいです。

伊藤さん   例えば、進みたい道が決まっていて、年に1回しか受験できないとか年齢制限があるといった場合は、派遣中に余暇を使って準備してもいいでしょう。ただし、焦って進路を決めることは私もお薦めしません。派遣中は目の前の環境に意識が向きがちです。例えば現地で声をかけられたローカル採用がよく見えたりしますが、長く勤められないこともあります。どんな働き方を望むのかよく考えてみましょう。現地在住の日本人の意見を聞くのもよいのですが、自分でもよく調べて、情報はバランスよく取ることを心がけてください。

青年海外協力隊事務局からは、派遣中隊員に、帰国後の進路に関する支援メニューの紹介や社会還元に関する情報について、四半期ごとにメールで配信があります。また、派遣終了3カ月前には、在外事務所を通じて各隊員に「進路希望調査票」が送られます。そうした際に進路について考えたり、外部の業者を含めた各所に相談し始めたりする隊員もいると思います。

岡部さん   帰国直後に実施している帰国時プログラム(※)では、進路相談カウンセラーなどの相談窓口をご紹介します。また帰国後研修では、外部講師による協力隊活動の棚卸しなども行われます。 キャリアの考え方として強調しておきたいのは、派遣前・派遣中・派遣後はつながっていて、ベースとして派遣前に何をし、何を考えていたかが帰国後の進路にも関係してきます。そうしたことを客観的に伺ってサポートしていくのが我々進路相談カウンセラーです。

伊藤さん   派遣中の就活では、情報収集や書類作成・提出、面接などオンラインで行う際は任地のIT環境も影響するでしょう。応募書類の作成や面接対策に思いのほか時間がかかることもあります。当然ながら派遣国では日本語を使う機会が減るため、就活に適した日本語が出にくくなっていることもあります。企業の採用活動はシビアなので、こうしたテクニカルな部分で損をするのはもったいないと思います。

では、進路に向けて派遣中にやれることは何でしょうか。

岡部さん   就活を始める前段階の、未来を見据えて方向性を決めていく時間やプロセスも大切です。「記録すること」もその一つです。派遣直後はすべてが目新しくてまめに記録することが多いと思いますが、「こんなはずじゃなかった」といったマイナスの思いも記録に残しましょう。できなかったこと、うまくいかないことも含めて活動報告書をきちんと書いておけば、自分の成長の証しとなり、あとで就活や人に伝える時にも活用できたりします。写真も改善後の様子だけでなく、改善前も撮っておけば、帰国後に活動の様子をプレゼンテーションする際、BeforeとAfterをわかりやすく示せます。忘れがちなのが活動中の自分の姿です。同僚や隊員などに頼んで現地の方々と一緒に仕事をしている様子を撮ってもらいましょう。

   帰国後の進路として、海外進学をする際に推薦状が必要となる場合があります。「あなたのためなら一筆書くよ」という方を見つけておくのも派遣中にしかできないことです。

伊藤さん   ご自身のスキルやキャリアといったアピールポイントをできるだけたくさん掘り起こしておきましょう。自分がアピールしたいと思ったことが、相手が聞きたいスキルではない場合もありますから、あなたが協力隊以前にやってきたこともひっくるめて、幅広く考えてみましょう。

派遣中に修得した語学力もアピールポイントの一つでしょうか。将来のために現役隊員のうちから、余暇に自費でなまりのない英語やフランス語、スペイン語を習っていた先輩隊員もいます。

岡部さん   ビジネスレベルの英語は需要が高く、フランス語、スペイン語でも求人があることがあります。またそれ以外の言語も見つかるかもしれません。ただ、多くの場合、協力隊の2年間を普通に過ごして得た日常会話のレベルでは太刀打ちできないように思います。語学を武器にして就職を考えるのであれば、余暇を使って習ったり、資格試験を受けるなど、学習を続けてみましょう。もともと語学に堪能な隊員で、派遣国で政府機関向けに英語の報告書を提出した隊員もいます。また使っているのが現地語の場合でも、現地で頑張って習得して、配属先向けに現地語の業務マニュアルや教科書、教材を作った人もいます。そうした方の中には派遣国で事業展開をしている日本企業や、外国人を雇用している企業に就職するケースもあります。

伊藤さん   語学は会話とあわせて読み書きのスキルを上げておくことが重要ですが、それも進路次第です。外国語をまったく使わない職場を選択する方もいますから、明確な進路を描かないまま語学に時間を費やすのがいいかはわかりません。

   自分の進路に関する不安の理由は何か、その正体を考えてみましょう。経済的な面から「早く就職しなければ」と焦る方もいれば、「周囲が進路を決めているのに自分は動けないでいる」とか、「自分に合う仕事、やりたい仕事が見つからない」が理由の方もいます。本当に進みたい道を見つけられるよう、私たちがサポートします。

※帰国時プログラム…運営体制の見直しにより、今後はコンテンツを拡充してオンデマンドで提供予定

▶帰国ボランティアの進路状況

2019年4月1日~ 20年3月31日までに帰国した青年海外協力隊および日系社会青年ボランティア(計919名)にアンケートを行い、2019年4月~ 21年5月までに回答があった743名の進路状況を集計した一部。

※20年4月以降はコロナ禍における一時帰国者等が回答対象者となっており、通常時の集計を取ることが困難なため過去のデータを使用。
※詳細は下記ウェブサイト
https://www.jica.go.jp/volunteer/obog/career_support/careerinfo/

円グラフ

現役隊員が今、すべきことは?

▶活動記録をつけ続ける

活動中の失敗(残念な記録)は特に大事。自分の写真を撮ってもらうことも忘れずに。

▶活動先で信頼関係を築く

カウンターパートやJICA在外事務所関係者は、あなたの取り組みを客観的に見ています。信頼関係ができていれば、後に推薦状などを書いてもらいやすくなることも。

▶アピールポイントをたくさん探す

協力隊での経験だけでなく、派遣前の経験も含めてアピールポイントを探し、まとめましょう。

進路を考える上で役立つサイト

JICA海外協力隊ウェブサイトサポーター宣言

JICA海外協力隊をサポートしている企業や団体、自治体、教育機関などとのさまざまな連携事例を紹介。
https://www.jica.go.jp/volunteer/supporter/

LinkedIn
JICA海外協力隊
帰国後の社会還元における情報共有グループ

協力隊経験を生かした社会還元活動に関心のあるOVが参加し、情報提供や情報共有を行う。
https://www.linkedin.com/mwlite/groups/14138230/

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JICA海外協力隊
社会起業・兼業グループ

日本国内で起業・兼業を考える協力隊OVと、起業・兼業している協力隊OVや外部団体が参加。
https://www.linkedin.com/mwlite/groups/14054083/

JICA海外協力隊ウェブサイト
帰国した方へ

帰国隊員の方に向けた無料職業紹介や進路開拓支援といった情報の提供先をまとめたサイト。
https://www.jica.go.jp/volunteer/obog/

Text=大宮冬洋 Photo=ホシカワミナコ(本誌)

知られざるストーリー