【草の根報告】横浜国立大学 パラグアイ農村女性生活改善プロジェクト:横浜からともに夢を紡ぐ

2018年11月8日

パラグアイの子どもたちと藤掛氏

横浜国立大学初となるJICA草の根技術協力事業「パラグアイ農村女性生活改善プロジェクト:横浜からともに夢を紡ぐ」は、パラグアイへの日本移住80周年の記念の年であった2016年9月にスタートして2年が経過しました。本年(2018年)9月には、現地で講習会に参加した農村女性たちのコース修了式が行われ、プロジェクトを通じて自信を深めた女性たちの姿が見られました。現在、JICA横浜では、本プロジェクトのこれまでの活動の軌跡や、現地の女性たちの様子を伝える写真展を開催中です。(2018年11月29日まで)

プロジェクトマネージャーである 横浜国立大学学長特任補佐・教授 藤掛洋子氏より、本プロジェクト実施にあたっての想いを伺いました。

草の根プロジェクト実施の背景及び目的

【画像】藤掛さん:プロジェクトマネージャーである私、藤掛洋子は、JICA青年海外協力隊(家政隊員)として1993年~1995年までパラグアイ農牧省農業普及局の生活改善普及員として4-Cプログラム(※1)の支援をしてきました。そこでの経験と1995年に設立したNGO(※2)他の実践経験、パラグアイ地域研究者としての積み重ねが本プロジェクトの基礎になります。
パラグアイ農村部には男性優位(マチスモ)思想が残っており、シングルマザーの問題はまだ解決していません。本プロジェクトは、パラグアイの農牧省農業普及局において展開されてきたこれまでの4-Cプログラムをさらに進化させたものです。パラグアイに移住した日系人の「知」を生かすとともに、農村女性たちが農産物加工の知識を深化させ、技術の向上を行い、農村女性たちが継続的に加工品を製造・販売することを通し、所得の創出を行うこと、多面的なスキルを身に着けることから農村女性のエンパワーメントを目指します。

(※1)4-Cプログラムは、農民男性を対象にした農業改良普及事業、農民女性と対象とした生活改善普及事業、青少年等を対象とした家庭菜園指導などを行うもので、アメリカ政府とパラグアイ政府が二国間援助協定に基づき1942年に締結・開始、その後、1951年には農牧省農業普及事務所によって展開されている。
(※2)1995年に設立したNGOミタイ基金は、2015年11月14日に特定非営利活動法人法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金として認定された。

プロジェクトの内容について

藤掛さん:プロジェクトで展開する講習会は、スタンダードコースとアドバンスコースがあり、参加女性たちの就学年数は問いません。求められるのは「学ぶ意欲があること」です。小学校3年程度で就学を断念せざるを得なかった女性や先住民族の言語であるグアラニー語のみを話す女性も参加しています。カリキュラムの中には、「栄養基礎」、「加工実践」、「自己啓発」、「マーケティング実践」、「リーダーシップ」等が含まれ、横浜国立大学のみならず、パラグアイの大学機関や各省庁と連携して授業を運営しています。1年目のコース終了時に参加女性たちは筆記試験と実技試験を受け、所定の成績を収めた女性たちには修了証書が授与されます。また、スタンダードコースで所定以上の成績をおさめた女性たちの中から面接を行い、選抜者に日本での研修を実施します(5年間:15名予定)。2018年1月には選ばれた農村女性6名、講師2名が本邦研修を受け、多くのことを学び、パラグアイでその経験を生かしています。

近況報告

現地で帰国報告をする女性たち

藤掛さん:これまで現金収入を得る手段を持たなかった女性たちが、自宅にオーブンを設置し、近隣や市場で加工食品を販売しはじめました。先住民族の言語であるグアラニー語のみを話す一人の参加女性は、「昔は亀だったが、今はキリンである」(藤掛 2018a)といいます。「以前の私は自信がなく、いつも首をすくめて下ばかり見ていたが、今は首を持ち上げ、きりりと前を見て新しい情報を得ようと努力している」、というのです(前述)。2018年1月に来日し、横浜国立大学において実施した国際シンポジウムでは緊張した面持ちで発表していた女性たちも、本邦研修を経て2018年3月に実施したラ・コルメナにおける集中講義では、自信を持って帰国報告をする女性たちがいました。マイクを離さずにもっと話したいというそぶりを見せる農村女性を見て、「自信」が人をここまで変えるのだと再び確信することができました。また、女性のエンパワーメントや人の持つ潜在能力の可能性について改めて教えられました。「学ぶことに年齢は関係ない」、「学びたいという気持ちが大切」であり、それらをサポートさせて頂けるプロジェクトを実施していることに改めて感謝の気持ちで一杯になりました。2018年9月に実施された修了式においても修了生たちが自信に満ち溢れ、生き生きとした姿を見ることができ、自分自身が活動してきた25年前の隊員活動とそこで行った修了式典の女性たちの誇らしげであった姿を思い起こしました。

プロジェクトに対する思い

藤掛さん:私は1995年に帰国し、その後も一貫して女性や子どもたちのエンパワーメントの可能性について考え、研究/実践を続けてきました。JICA職員の方より「このプロジェクトは藤掛さんの人生の集大成ですね」と言われましたが、まさにその通りであると考えます。家政隊員としての経験と文化人類学/開発人類学者・パラグアイ地域研究者・ジェンダー研究者としての訓練があったからこそ、パラグアイ農村部における社会的・文化的・文脈やジェンダー規範に寄り沿い、パラグアイの農村女性の潜在能力を引き出せる複数のエントリーポイントを導きだせたのだと考えます。どの社会においても、社会的・文化的に付与されたジェンダー役割を「逸脱」することは極めて困難であります。しかし、このプロジェクトは、農村にいながら、女性たちがこれまで生産してきた果物や野菜を生かし、付加価値をつけ、販売することで所得を創出したり、農村や地方に人を呼び込んだりすることができます。ある時はジェンダー規範に沿いながら、ある時は抗いながら、社会を構築/再構築する女性たちの主体的な取り組みを支援していきたいと思います。

横浜国立大学の役割

藤掛さん:このプロジェクトは、横浜国立大学が中心となり専門家を派遣しています。カウンターパート大学はパラグアイのNihonGakko大学であり、横浜国立大学と深いつながりがあります(藤掛 2018b)。私がパラグアイで隊員活動をしていた時期、NihonGakko大学のオルテガ(Dionisio Ortega)学長・エルメリンダ(Hermelinda Alvarenga de Ortega)副学長は文科省国費留学生として日本で学んでいました。このプロジェクトは人々を点から面に、面から層に繋いでいくグローバルネットワークの構築とシナジー効果の発動という役割も担っています。農村女性のエンパワーメントや生活改善に加え、グローバルな「知」の構築を目指し、これからもパラグアイと日本のメンバー一同頑張って参ります。応援どうぞ宜しくお願いいたします。


引用参考文献
藤掛洋子(2018a)「亀(トルトゥーガ)からキリン(ヒラファ)になった私:食品加工技術の習得を通したパラグアイ農村女性のエンパワーメント」、『神奈川ぱるとも会・会報』、Vol.07。
藤掛洋子(2018b)「パラグアイ農村女性の生活改善プロジェクト:農村女性のエンパワーメントとJICA草の根技術協力における大学の役割』、『常磐台人間文化論叢 VOL.4』、pp.89-114。


■ ■ ■パネル展 パラグアイ農村女性の生活改善プロジェクト:横浜から夢を紡ぐ■ ■ ■
 
 日時:2018年11月1日(木)~11月29日(木) 10時〜18時(最終入館17時30分まで)
 会場:JICA横浜 3階 展示室 (入場無料)
 2016年9月にプロジェクトがスタートして2年が経過しました。
 今回はパネル展示として、プロジェクトのあゆみや関係者、現在の活動を紹介する写真展です。