【日系社会研修2】交流が人を育てる ~外国人受け入れの最前線から学ぶ~

2019年8月27日

福田教授とチエミさん

2019年5月から約9カ月間、「医用材料と再生医療」コースが横浜国立大学で実施され、ブラジルから日系3世の鈴川チエミさんが参加しています。

人口増加と共に高齢化の兆しが見られる中南米諸国では、高度医療に関する知識や経験を持つ人材の育成が急務となっています。本研修では、研修員が高度医療への知識を深め、最先端の研究を経験する機会が設けられています。当分野での日系人材の育成を通じて、中南米諸国における医療技術向上に貢献すると共に、日系人を通じた中南米諸国と日本の連携強化につながることも期待されています。

今回は、チエミさんに日系社会研修への参加のきっかけや日本とご自身とのつながりについて伺い、指導教官である福田淳二教授にもインタビューを行いました。

日系社会研修との出会い

チエミさんが日系社会研修に出会ったきっかけは、過去に横浜国立大学で実施された日系社会研修に参加された方からのお誘いでした。日系社会研修員のネットワークが次の日系社会の人材育成につながっていることが伺えます。
また、これまでのご自身の医療分野での研究経験が生かされること、近年発展著しい再生医療に関心があり、ブラジルでも著名な福田教授の元で研究を行いたいという思いから、チエミさんは福田研究室での研修を希望されました。

日系社会研修事業とチエミさんにかける期待

福田教授は毎年日系社会研修員の受け入れにご協力くださっています。「自分の学生には外国の方とコミュニケーションを取るきっかけを与えたい」と福田教授は語ります。英語力に自信が無かったがために外国人研究者と上手くコミュニケーションを取れず悔しい思いをしたご自身の学生時代の経験を自分の学生には味わせたくないという想いが、福田教授が研修員受け入れを行う理由としてあるようです。実際に福田教授の狙い通り、チエミさんは研究室の学生と積極的にコミュニケーションを取っており、チエミさんとの交流は日本人学生にとって大変良い刺激になっているようです。
これまで福田研究室で受け入れた研修員の中には、帰国後も福田教授と共同研究を行うなど現地で活躍されている方がいらっしゃいます。日系社会と中南米の医療技術の発展に貢献するこうしたつながりは、研修員自身の努力と福田研究室の「人を育てる」風土の化学反応の賜物と言えるでしょう。

日系人とアイデンティティ

福田研究室のみなさん

「見た目は日本人でも、私の魂はブラジル人です」と語るチエミさんは、自分のアイデンティティについて悩むことも度々あったそうです。
チエミさんは、日本食を日々食べる日本的な家庭に生まれ育ちました。日本人のような外見である上に、生活環境も周りのブラジル人とは異なる自分は「普通のブラジル人と違うのではないか」という想いを感じていたそうです。
そんなチエミさんが積極的に参加したのが「青年会」という日系人の若者が集うコミュニティでした。自分と似た悩みを共有する同世代の日系人との交流の場は、チエミさんにとって日系人としてのアイデンティティを仲間と共創できる場でもありました。
今回の来日が初の海外経験となるチエミさんにとって、ブラジルと大きく文化が異なる日本での暮らしは驚きの連続だそうです。しかし、明るい福田研究室の学生に囲まれ、充実した毎日を過ごすことができています。

日本と外国人の共存に向けて

日系人としての想いを語るチエミさん

大学の国際化、外国人労働者の受け入れとこれからますます多くの外国人が日本に訪れ、暮らす時代になっていきます。そこで、「外国人の方々に日本に馴染んでもらうには、私たちには何ができるのだろうか?」という問いを、お二人に伺ってみました。
チエミさんは、日本人とブラジル人の間には文化・考え方などのあらゆる面で大きな違いがあることをまずは理解しなければならないと語ります。このメッセージは、自分のアイデンティティに悩みながらも多様な環境に向き合ってきたチエミさんだからこそ、伝えられるものではないでしょうか。

福田教授もこの問いに対する完璧な答えはないのかもしれないとおっしゃいます。しかし、科学の分野ならば自分には外国人と関わってきた経験があり、できることがあると答えて下さいました。まずは自分にできることを考えることが重要であると気づかされるご指摘でした。
この問題は一夜にして答えが出る話ではありません。だからこそ、外国人受け入れの最前線にいらっしゃるお二人のような方々の経験から私たちが学べることはたくさんあるのではないでしょうか。

日系社会研修員受け入れ事業とは

中南米には213万人の日系人が暮らしています。彼らへの技術協力を通じ、移住先国の国造りに貢献することを目的に実施している研修が日系社会研修です。毎年約140名の日系社会研修員が農業、医療、保健福祉、教育といった分野の研修を日本で受けています。