【研修報告】世界の海猿が集結!「救難・環境防災コース」~その2~

2019年12月23日

【水鳥保護研修センター】
水鳥保護研修センターにおいては、水鳥汚染救護に関する講義を受けた後、本物のカルガモをサンプルに用い油汚染鳥救護のデモンストレーションを見学しました。見学中に一部の研修員から、「カモは食べもの…」「カモを救護するの???」とのつぶやきが漏れ、水鳥保護研修センターの職員等は文化の違いを改めて認識することになりました。

【画像】(左)油汚染鳥救護のデモンストレーション、(右)サンプルのカルガモ

 
【海上災害防止センター研修所】
同研修所で5日間に渡り海上での油流出事故が起きた際の対処方法等について講義と実習を受けました。
本研修は講義と実習が半々の構成となっており、研修員達は「我々が自然環境を守るんだ!」との意気込みで熱心に受講していました。とりわけ研修室の外で行う実習は汚れ作業と体力を必要とする作業が多かったのですが、それをものともせず、国籍、所属機関等の異なる研修員達が、まるで同じ国の同じ職場の仲間の様に一致団結、まさにONE TEAMとなり実習に取り組んでいたのが印象的で、さすがは海を守るという同じ使命を持つ者たちの集団だと感銘させられました。

【画像】(左)海岸における油汚染除去の実習、(右)洋上でオイルフェンスを設置する実習

【画像】研修員14名が主体となり油防除計画立案からオイルフェンスを設置するまでの総合実習

5日目の研修終了時には、研修員全員が疲れていてもさわやかな表情で語り合う姿は、まるで激しいスポーツゲームを終えた勝利チームの達成感と充実感に満ちた選手たちが、お互いを称えあっているときのようでした。この研修が、知識、技能の習得のみならず、国境を越えた同胞の絆を深めるものとなったことを確信できたのは言うまでもありません。

 
【捜索区域設定理論と救難体制の法的根拠に関する講義】
海上保安大学校准教授による、国際標準である海難救助対象の捜索区域を設定する方法に関する講義では、様々な数値データをもとに捜索区域を算出により導き出すまでの理論が確率論から始まるとても複雑で難しいものでしたが、研修員達は頭を抱えながらも理解に努めていました。

また、海難救難体制の法的根拠等について国際海事機関(IMO)の職員から講義を受けた際には、海難救助体制の枠組みは自国の海に止まらず世界中の海をカバーするものであり、隣接国をはじめ世界中の海上保安機関の協力・連携が必要不可欠であることを研修員全員が再認識していました。

【画像】(左)捜索区域設定理論の講義、(右)海難救難体制の法的根拠等についての講義

 
【大規模津波防災総合訓練】
11月2日に和歌山下津港のメイン会場において、南海トラフ巨大地震等による大規模津波を想定とした総合防災訓練を見学しました。その訓練に参加していた巡視船「きい」の船上から、海上保安庁のヘリコプターによる吊り上げ救助を目の当たりにした研修員達はシャッターチャンスとばかりに一斉に撮影をしていました。また、総合訓練全般に関心が高かったのは、津波の被災経験のあるインドネシアからの研修員で、「自分たちもこのような関係機関等による総合訓練がぜひ必要だ!」と力強く語っていました。

【画像】(左)総合防災訓練の開会式、(右)訓練に参加する巡視船の前で記念撮影

【画像】(左)海上保安庁のヘリコプターによる吊り上げ救助訓練、(右)一斉に撮影を始める研修員

課題・問題点を抽出中の研修員

議論中の研修員

 
【PCM研修】
研修員が自国の抱える海難救助、海上防災、海洋環境保全に関する課題や問題点を解決に向けた行動計画策定の手法として、PCM(Project Cycle Management)を3日間にわたり学びました。研修員は講義の後、2つのグループに分かれ、それぞれに与えられた想定事例から、議論を重ねながら課題・問題点の抽出、整理・分析、改善・解決作の考察・策定に至るまでを実習しました。

途中で研修員同士の見解が合わず白熱した議論も度々見られましたが、講師の助言などにより、各グループ全員で最後までまとめあげ、ここでも、海を守る同志達であることを実感させられました。

アクションプランを発表する研修員

 
【アクションプラン発表会】
本コースの最終目的であるアクションプランを前日までに完成させこの日を迎えたはずでしたが、研修員は一様に疲れ切った様子。どうしたのか尋ねたところ、彼らは前夜に数組に分かれお互いのアクションプランについて議論し修正等を明け方近くまで行ったとのこと。この議論のあとで、アクションブランを全面的に見直し、徹夜でまとめたつわものまでいたとのことでした。そのかいあってか、どのアクションプランもPCM理論を活用した立派なものに仕上がっていたのは言うまでもありません。このような彼らなら帰国し、それぞれのアクションプランを確実に実行に移すだろうと大いに期待されるところです。また、発表直前までは緊張した面持ちの研修員達も自分の番が終えると一様に安どと思いをはせている表情を浮かべていたのですが、その中に「これでこのコースのすべてが終わった・・・これで帰国できる!」「でもまだ日本から離れたくない!」「このメンバーと別れたくない!」との複雑な思いが交差しているようにも・・・・・いや、筆者の思い過ごしで、ただの寝不足だったのかもしれませんね。

 
【閉講式】
海上保安庁の幹部職員が参列し挙行した閉講式では、研修員のきびきびとした動作に自信に満ちて晴れ晴れとした表情が加わり、海を守るプロとして一段と頼もしくなったことが感じられました。この後のフェアウェルパーティーで、研修員同士が「このコースで得たものは、是非国に帰って自分たちの機関の能力向上に役立てていく」と誓い合っていました。

【画像】(左)閉講式後の記念撮影、(右)JICA横浜正面での記念撮影

約2か月にわたり実施した本コースは、研修員達にとって、忘れられない思い出となっただけでなく、知識・技能はもちろんのこと、ここで培った研修員同士の絆、日本の海上保安庁の方々を始めとする日本側の関係者との絆は、研修員だけに止まらず派遣国においてもかけがえのないもの、いわば貴重な財産を得られた素晴らしい機会であったものと思います。
希望を胸に帰国する研修員の皆さんには、本コースで得た知識・技能や人脈を生かし、海上保安に関するリーダーとして自国の所属機関の発展に貢献されんことを期待しています。

(記事制作協力)公益財団法人 海上保安協会
 

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持続可能な開発目標(SDGs)への貢献

SDGsとは、2015年9月の国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する成果文書で示された具体的行動指針。17の個別目標とより詳細な169項目の達成基準からなる。

本研修コースは、SDGsで定められた17の個別目標のうち、目標 14.「持続可能な開発のための海洋と海洋資源の保全と持続可能な利用」および目標 16.「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」への貢献が期待される。